廃妃、バツイチライフを楽しむ。
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第47話
「やってみたいことリストよ」
「はい?」
「今まで王宮で王子妃として暮らしてきて、できなかったやりたいこと」
「あー。なるほど。たとえば何ですか?」
ナデァは好奇心に目を輝かせ、テーブルに身を乗り出した。
「たとえばね、酒場で酔っぱらってみたい」
「いいですね」
「それから、酒場の厨房で働いてみたい」
「きゃあ! 面白そうです!」
「馬に乗ってギャロップで草原を駆け抜けて川辺でピクニックしたり、馬車で旅行に……海辺に行ってみたい。護身術程度に剣術も学びたい」
「あー、それは、キーランド卿や兄と相談しないといけないですけど……不可能ではないです」
ナデァは苦笑して、少し離れたところに控えているキーランド卿を一瞥した。
「あっ、そうですね。レン卿に相談しないといけません」
私は唇を尖らせる。
「どうして相談しないといけないのよ……」
「仕方ないですよ。ヴィ様の後見人ですから」
ナデァが肩をすくめる。そう、ヴィの後見人は、ナデァの父ラルドから兄のレンに権利が移ったのだ。ヴィヴェカは成人だけど、他に身よりもいないので後見人はいたほうがいいらしい。
「そうです。今は何事もありませんが、もと王子妃を政治的に利用しようとする内外の貴族家門が現れないとは限りません」
「求婚に押しかけてくる強引な輩もいますしね……」
渋い表情をするナデァをみて私はぷっと吹き出した。
「あなたは辺境伯のことキライなのね」
「もちろんです! 邪魔をして……」
「え?」
「あ、いえ、何でもありません。はは。相談! 兄のところに相談に行きましょう! すべてかなえて差し上げます!」
あぁ……この子は、
「そうね、行きましょう。私も一つ、頼みたいことがあるから」
ということで、私みたいな暇人とは違って商会長さんはご多忙でしょうからお伺いの使者を立てると、午後三時なら会えるという返事がすぐに来た。嬉しそうに浮足立つ二人を連れて、私は実家に向かった。
「いいだろう、すべて許可しよう」
二階の事務所でレンは椅子に反り返りながら傲岸不遜にそう言った。
「酒場の女将には伝えておいてやる。乗馬の件はキーランド卿と……アデリーでもつけてやるか。護身の剣術は……」
彼はちらりと傍らを見上げた。目が合ったブラッツ卿は明らかに嫌そうに眉間にしわを寄せる。
「お前が教えてやれ。ケガしない程度に、ほどほどでいい」
ちっ。
ああ、聞こえたわ。ブラッツ卿、今舌打ちしたわね? 嫌なのはわかるけど、すごく失礼よ。
「私でなくとも、キーランド卿でいいでしょう……」
ブラッツ卿が低く呟く。
「いいえ、私もブラッツ卿にご指導いただきたいです!」
空気を読めないキーランド卿がきらきらと少年のように目を輝かせて嬉し気に言う。ブラッツ卿は苦虫を噛み潰したような表情でレンを睨むが、彼はまったく気にしていない。ナデァもうつむいてニヤついている。この子達ったら。
「ありがとう。あともうひとつ、お願いがあるの」
私はレンに言った。彼は顎をくいっと上げた。言ってみろってことか。ほんと、オレ様ね。
「この近所に目立たない、小さい家が欲しいの」
ナデァとキーランドは目を見開く。
レンは唇の端をつり上げた。
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