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第45話
ふふふ。
わかっちゃった。
「あなたもしかして、ブラッツ卿のこと好きなの?」
「あっ、やっ、そ、その、えっと……まぁ、はい、そう、です……」
だんだんと声が小さくなり、ナデァは耳まで真っ赤になる。
「ははぁ。私が離婚を決めてからお兄様の所に週一で会いに行ってたのは、もしかして?」
「……あ、はは」
「あらあら……」
一目惚れだったんです、とナデァは白状した。
そうね……黒髪に冷たそうなグレーの瞳、(エラードとはまた別の雰囲気だけど)女装しても似合いそう。青白いほど色白で、氷の彫刻みたいな。なんていうか……私がいた世界なら、V系っぽいかな。にこりともしないところがいいのかしら?
「兄の乳兄弟……らしいです」
もじもじと、スカートをつまみながらナデァは言う。王宮で月に一度のヴィと第一王子の同衾の儀のたびに、王子の床下手を皮肉ってる人と同一人物とは思えないくらい乙女だわ。
「つねに商会長と一緒に行動してるって言ってたわね」
「はい。側近ですから」
「じゃあ、頻繁にあなたのお兄さんのところに行かないとね?」
「は、はい……ふふ」
「ふふ」
馬車に揺られながら、私たちは共犯者のように笑みあった。
帰宅して着替えて一息ついていると、キーランド卿が部屋に来た。彼は少し興奮気味に私とナデァに話し出した。
「ナデァ嬢の兄君と側近の方は、どちらもソードマスターですよね?」
ナデァは興味なさそうにうーんと首をかしげる。
「子供のころから戦場で生き残ってきたから、そうかもしれませんね……」
「それはすごいわね。この国ではソードマスターは、ベーレンドルク辺境伯しかいないと聞いたけど」
「ええ。しかも、酒場のあの無頼漢たちもナデァ嬢も、兄君を銀狼だって言ってましたよね。おもにヴァイスベルク国の内戦で活躍していた銀狼団という傭兵団で、銀狼の二つ名そのものを持つ男といえば、その団長のことだと聞いたことがあります。そうだとすれば、彼は間違いなくソードマスターです。まさか銀狼団がヴィ様のご実家の所属とは!」
キーランド卿が珍しく早口で多くを語った。彼は剣のこととなると興奮するみたい。
「でもレンは一度も剣を使っていなかったわね?」
私が首をかしげると、キーランド卿が興奮気味にこくこくとうなずいた。
「剣がなくても蹴りひとつで余裕で勝てたということろでしょう。ブラッツ卿も、相当の手練れでした。魔術も使えるということは、銀狼の右腕で間違いないでしょう」
「ふーん。じゃあ、兄たちに辺境伯を追い払ってもらいましょうか!」
ナデァはふんすとふんぞり返った。虎の威を借る子ぎつねみたいでかわいい。
「それは、ちょっと……どちらにも失礼じゃない」
「そうですよ。何を言い出すんですか」
私とキーランド卿は苦笑した。
その夜、昼間酒場で乱闘を目の当たりにしたせいか、私はなかなか眠りにつくことができないでいた。
レン・フォルツバルク。
ナデァの異父兄にして、
異世界補正なのか、はたまたチート設定なのか。私が元いた世界では、当てはまるようなひとは存在しないから(いるわけないよね)、物珍しいのか。ほんとに狼を人間にしたみたいなワイルドで破天荒そうなタイプなのに、なぜか気品を感じる。
ああいうオレ様タイプは面倒だし近づいても振り回されて痛い目見るだけだから、近づかないようにして生きてきた。
そう、絶対に近づいちゃいけないタイプ。
そうそう、駄メンとばかりつき合ってきたから、ああいう自信満々の成功者は苦手なの。
苦手なのに……
危ない危ない。
とりあえずは、ナデァの初恋でも応援しよう。
私は無理矢理眠りにつくことにした。
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