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第40話
店内に入るや否や、イスやら皿やら
キーランド卿が私とナデァを背後にかばい、ナデァがきゃあきゃあと悲鳴を上げた。
「治安は悪くないはずって言ったよね?」
「たまたまじゃないでしょうかっ?」
私を抱きしめてかばいながらナデァが答える。次の瞬間、大男が水平に飛んできて私たちの近くの壁にひどく打ち付けられた。
「何しやがる! この野郎っ‼」
若いウエイトレスたちの悲鳴も混じる。私たちのほうに飛んできたお皿を、キーランド卿が剣の柄で叩き落した。
「けんかなら店の外でやれっ!」
キーランド卿が怒鳴る。
「なんだと? でめえに関係ねぇだろうがっ!」
中年の男がキーランド卿に拳を振り下ろした。彼は素早くそれを交わし、代わりに男の腹に一発くらわした。男はごろごろと吹っ飛んで、テーブルのひとつに背中をしこたま打ち付けてうっとうめいた。
「うるせぇっ! てめぇの迷惑なんざ知るか!」
「そうだ、なんなんだこの野郎。俺たちのじゃれあいに口出しするんじゃねぇっ!」
「クソがっ、首突っ込むんじゃねぇ! おぉ? 後ろに上玉隠してるじゃねぇか!」
数人の男たちがキーランド卿に因縁をつけてくる。その中のひとりの太い腕が私とナデァに伸びてくる。
そして一人の男が自分たちのほうを振り返り、黒いローブを着た痩せた男に言う。
「こいつを拘束しろ! 後ろのねぇちゃんたちはいただくぜ!」
なになに、「後ろのねぇちゃんたち」って、私たちのこと? お下劣!
黒衣のやせ細った男が手を翳す。私ははっと息をのんでキーランド卿に叫ぶ。
「キーランド卿! あの男は魔術師よ!」
でも、一足遅かった。鞘から剣を抜きかけたキーランド卿は、魔術で呪縛されて動けなくなってしまった。
その隙に大柄で髭面の粗野な男が私をかばうナデァの腕をつかんでにやりと笑う。
「こいつはついてるぜ。酔っぱらってけんかするよりも、こいつらをかわいがってやったほうが楽しそうじゃねぇか」
「はっ、放しなさい!」
ナデァが必死で抵抗するけれど、ほとんど意味がない。彼女はなりふり構わず両腕を振り回して叫んだ。
「だれかっ! 早く、銀狼を呼んで! 誰でもいいから早く!」
銀狼?
その絶叫で我に返った女将らしき女性が、壁際に取り付けられたベルの紐を急いで引っ張った。
ガラガラガラと、大きなカウベルが店内に鳴り響く。
ナデァの小柄な体がふわりと男に持って行かれそうになり、今度は私が彼女の手首をつかんで叫ぶ。
「ナデァっっ!」
ナデァが甲高い悲鳴を上げる。キーランド卿は呪縛が解けずに歯を食いしばる。私は必死にナデァの、男につかまれている腕にしがみつく。
その時。
「うぎゃぁぁぁ! 痛ぇぇぇぇぇぇ!」
突然、ナデァの腕をつかんでいた男が絶叫して、彼女から手を放して床をのたうち回り始めた。
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