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第33話
離婚して手に入れたのは、ゴージャスな自由!
朝は好きな時間に目覚め、ゆっくりと朝食を取り、温室を散歩する。部屋のテーブルや寝椅子、窓辺のベンチ席で、好きなだけ読みたいフィクションを読み漁り、自分が体験したことのない世界に浸りきる。ただ花を眺め、お茶を飲む。
一日二十四時間を自分のためだけに使える贅沢に、私は初めの一週間酔いしれた。
「だいぶ落ち着いてこられたようなので、ご実家のお話をさせていただきますね」
ある日、ナデァが話を切り出した。
「アルトマン家なのですが」
「ラルド卿が管理してくださっているのよね?」
「ええ、実は、それについてもお話ししないといけませんね」
ヴィが王宮に住まうことになって、継母と姉はアルトマン家の財産をすべて自分たちの名義にしようとした。
しかし、ナデァの父でありヴィの後見人でもあったラルド・フォルツバルクは、それを阻止して二人を訴えた。一方、ロイス王子もヴィを虐待した件で継母からアルトマン家の全財産を没収し、彼女と彼女の娘を戸籍から抜いて追い出してしまった。
その後はアルトマン家とその事業はすべて、ナデァの父ラルドが代理で管理していた。
「現在のアルトマン家の建物は、一階が酒場、その上の階が商会の事務所になっています」
「私の家が? 酒場……それも、ラルド卿が経営を?」
私は好奇心で目を輝かせた。
「まあ、そうで……した、と言うのが正しいですね」
「過去形?」
「そうです。父は子爵ながら若い頃から傭兵業に明け暮れていたので、年をとるにつれてあちこちにガタが来ました。七年戦争参戦を最後に傭兵も商会経営も引退して、母と共に温泉地に移り住みました」
「そうなの? まったく知らなかったわ」
「お伝えするような重要なことでもないので。それで、今では爵位も事業も管理もすべて、私の父違いの兄が引き継いでいます」
「あ、そうなの?」
「はい。兄も十一か十二の頃からずっと傭兵業をして外国にばかりいたんですが、最近完全に帰国したんです」
私もずっと王宮でヴィ様についていたので、聞いただけですが、と付け加えてナデァは苦笑した。
「それでまさか、ヴィ様が破婚されるとは父も思わなかったようで。私に手紙で連絡してきました」
「なんて?」
「ヴィ様が現在、兄が引き継いでいるアルトマン家の家業のオーナーになるように、と」
「えっ? 私は商業のことは全くわからないし、あなたのお兄さんも今更私がオーナー面して現れるのは、気分が悪いでしょう?」
「いえ、そんなことはないです。利害が一致しているので……」
「え? 利害?」
「あ、いや、とにかく、兄が一度面会を願いたいそうなので、ヴィ様のご実家に行きましょう」
「そこにお兄さんがいるの?」
「はい、たぶん。まぁ、上の階の事務所ではなくて、地下のほうにいるとは思いますが……」
「あら、地下もあるの? 改装したのね?」
「はい。それについてはとても重要な伝達事項があるようなので、兄から直接お聞きください」
「なんだかよくわからないけど、一度お会いすればいいのね?」
「はい、お願いします」
私はいたずらっ子のような表情で、頬を上気させて言った。
「ナデァ、私もお願いがあるわ。そこに行くなら、約束より少し早めに行きましょうよ」
「なぜですか?」
「一階が酒場なのでしょう?」
「え? はい」
「少し早めに行って、酒場に行きましょう!」
「はい?」
「酒場! (この世界では)一度も行ったことがないんですもの! たぶんあなたもそうよね?」
「ああ、はい。ないですね」
もちろん、ずっと一緒にいたのだから、ないに決まっているわね。
はしゃぐ私を見て力なく苦笑すると、ナデァは首を右に垂れた。キーランドを振り返ると、彼も同じような苦笑を浮かべていた。
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