第28話

第一王子と王子妃の破婚が公表されて、国中が仰天した。


 秘密裏に進めただけあって、みんなには青天の霹靂だったから。


 もと夫は破婚を告げた日から一度も会いに来てはくれなかった。粛々と王宮を去る準備をしていると、二人のお客様が私を訪れた。


 第二王子のルキと、エラード公子。



 ふたりは今、私の部屋のソファに隣り合って座り、お互いをけん制し合っている。



「こちらにいらしたら、お母上に叱られますよ」


「ふん! 母上のきょかはもらっています!」


「まあまあ、お二人とも、落ち着いてください。さあ、仲良くお茶にいたしましょうね?」


 私は苦笑しながらやんわりと二人の間に割って入った。



「あねうえ、おききしたいことがあってきました」


 ソファからぴょこんと飛び降り、ルキ王子はぱふんと私のウエストに抱きついた。ぴく、とエラードの左頬がけいれんする。


「なんでしょうか? ルキ様」


 私は優しく微笑んでルキ王子の頬を両手で挟んだ。


「母上が言ってたんだけど、あねうえはもうあにうえのおきさきじゃないって、本当?」


 かわいさ全開で首をかしげて訪ねてくるルキ王子に、淡い苦笑を浮かべ私はこたえる。


「本当です。もうすぐお城も出て行きます」


「ええ? やだやだやだやだ! もう王子宮にいられないなら、西の宮にきてください! 母上におねがいしてみます!」


「ルキ様、私が西の宮殿に住むことはできません……」


「えーっ! あねうえにお会いできなくなったら、いやだぁ!」


 すんすんとぐずりながらルキ王子は私の膝に縋りつく。彼は首をひねり、私には気づかれないようにエラードのほうを振り向きニヤリと口の端を上げる。エラードはしたたかなルキ王子を睨みつける。


「ねっ、あねうえ、もうあにうえのおきさきじゃないなら、わたしのおきさきになれるよね!」


 (ウソ泣きの)涙を目に浮かべながら、ルキ王子は愛らしい様子で私を見上げる。エラードが威嚇する猫のように鼻の付け根にシワを寄せる。



「ルキ様。私はもう、どなたのお妃にもなれません」


「わたしが……おねがいしても?」


「はい。私は王室にはもう戻らないつもりです」


「あねうえぇぇぇ……」


 ぐす、と王子は本当にぐずり始める。エラードは目を細めて王子を観察し、私に気づかれないように冷笑する。


「どこにも行かないでぇぇぇ」


 うわーんとわめき、顔を真っ赤にさせてエメラルドグリーンの大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙をつぎつぎとあふれさせるルキ王子を見て、ナデァもキーランド卿もメイドたちも、切なげな表情をする。


 私は王子を膝にのせ、抱きしめながらレモンブロンドのやわらかな髪を優しくなでた。


「殿下がもう少し大きくなられたら、お友達もできて、そのころには甥御か姪御もお生まれになっていて、殿下のあとをついて回られるかもしれません。どうか皆のお手本となってくださいね?」


 とんとんと優しく背を叩いていると、王子は次第に落ち着いてきた。そして十分ほどすると、泣きつかれて眠り込んでしまった。

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