第27話

最近の二人は、一緒に寝てもキスすることもなかったのよ。


「だからといって、悲しくないし、本当に……何も感じないのです」


「……」


「まだ遅くはありません。お子が生まれる前に、すべてを整えましょう」


「あなたは……私のことが、嫌になったのか?」


 王子は青ざめている。大きな左手を優しくなでて、私は首を横に振った。


「いいえ、ロイス。あなたはあの家から私を連れだしてくれた恩人ですもの、一生敬愛します。でも、もう、あなたの隣にいることは終わりにしたいです」


「ヴィヴェカ……」


「家族を大切に、そして立派な国王になってください。私はいち国民としてあなたを応援していきます」





 私が自室に戻ると、ずっとそわそわとしていたナデァは一気に質問してきた。


「どうでしたか? 王子殿下は、お許しくださいましたか? お怒りになられましたか? お泣きになられましたか?」


 私はとさっとソファに身を投げ出して天井のシャンデリアを見上げた。


「うーん。呆然としていたわ。私が怒っているいるわけでも悲しんでいるわけでもないことが、ショックだったみたいね」


「はぁ……そうでしたか」


「でも、廃妃は決定されているから」


「ええ。王子といえど、玉璽と国璽が押印された証書を取り消すことはできませんものね」


 


 思っていたよりも、すんなりと事が済んだ。


 ちょっと、夫がかわいそうな気もしたけど。




 出会って七年。彼のヴィに対する愛情も、緩やかに変化してきたのだと思う。それは愛情が冷めたというわけではなくて……異性としての魅力を感じるようなものではなく、そこにいて当然の、空気のような存在への安堵感と親しみのようなものに。

 

(たぶん、「何も感じない」という言葉が、彼の心に一番響いたのかもしれない)



 驚いていて傷ついたようで、それでいてどこかほっとしたような、複雑な表情。


(大丈夫。お子が生まれれば、私のことなんてすぐに忘れるでしょうから……)

 

 私は気持ちを切り替えることにした。同情だけで、ずっと一緒にいることは、お互い良くない。


(これから、城を出る準備で忙しくなるわ)




 朝餐の席に、王子は現れなかった。


 侍従の話によると、夜明けとともに数人の側近だけを連れて狩りに出かけたとのことだった。私との晩餐のあと、昨夜は国王の寝室に強引に押しかけて、なぜ廃妃の申請を認めたとかと詰め寄ったそうだ。


 それから三日ほど、王子は帰還しなかった。そのため、私が代わりの公務をこなしていた。三日後に帰還した時、彼は妻にねぎらいの言葉をかけに来る代わりに、無言のまま執務室に閉じこもった。



 ハッピーエンドのおとぎ話も、時が過ぎればそうなることもあるのよ。だって、ハッピーエンドは本当の終わりじゃないから。


 夢見るころが過ぎても、人生は続いていくの。


 でも大丈夫。


 いくつもの悲惨な別れを経験した私が保証するわ。


 今はつらくても、そのうち平気になってくるから。


 そうやって人は、成長していくのよ。



 愛してくれてありがとう。


 愛を返せなくて……ごめんね。

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