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第26話
国王夫妻への謁見を終えて五日後。
国と教会と国王による、王子と王子妃との破婚の許可証が下りた。
「破婚ののち、今後ヴェヴィカ・アルトマンにはマイツェン伯爵の称号及び首都のタウンハウス、東の避暑地の離宮と領地の一部を与える。年金は生涯支給され、再婚する場合には国王が保証人となる」
国王の執務室。
私は恭しく頭を下げている。国王夫妻と、大司教代理の司教、行政長官が立ち会っている。
今回は王、大司祭、行政のトップが国益に反すると合意した場合、直系の王族に限り破婚が認められるという八十年前の例に倣ったものだ。
(あとは、殿下とお話し合いをするだけね)
翌日の昼、王子が南部の領地視察から帰還した。
ロイス王子は予定の時間通りに晩餐の間にやって来て、決められた席に着く。いつもの挨拶、いつもの少ない、当たり障りのない会話。
晩餐のあとはバルコニーのそばのテーブルにワインを用意させ、私は人払いさせた。
ゆらゆらと赤ワインの入ったグラスを回しながら、いつもの口調でのんびりと私は夫に話しかけた。
「殿下」
「うん?」
「トリーシャを新しい王子妃にしてください」
「……何をいまさら?」
数日間の領地視察から戻ったばかりで、そのあともずっと働きづめでかなり疲れているのはわかっていたけれど、私は夫が嫌がるであろう話をあえて持ち出した。案の定、彼は眉根を寄せる。
「トリーシャは私よりも若いので、これからも何人かお子を授かることでしょう」
「あなたは納得したんじゃなかったのか?」
「いえ、やはりそうすることが最善と思います」
「王子妃は二人もいらないだろう?」
「だから私は城を出ようと思います」
「え?」
「廃妃になります」
王子は呆然とした。そしてすぐに不機嫌そうに言った。
「やはり、怒ってるんだな」
私はすぐに首を横に振った。
「いいえ。それどころか、何も……感じないのです」
「え?」
「——すべてがどこか他人事のように思うのです。とても冷静で理性的に……国と王家と殿下にとって何が最適なのかを真っ先に考えました」
「何を言い出すんだ?」
王子は皮肉な笑みを浮かべる。
私は立ち上がり、王子の前に行って彼の左手を取ってそっと両手で包んだ。
「ロイス。すでに国も陛下も教会も、私を廃妃と認めました。これでもう、私のことであなたがアイレンベルク公爵家に足元をすくわれる心配もなくなりますから」
「廃妃と認めたとは、どういうこと?」
「昨日申請が通りました。私はもう、廃妃です。黙って進めてごめんなさい。でも……」
私は目を伏せた。
「気づいていますか? この前あなの挨拶のキス、あなたのキスはひと月ぶりでした」
「えっ?」
ロイス王子は驚きに目を丸くした。
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