廃妃誕生

第24話

「あねうえぇぇぇ!」


 謁見から戻り自室でお茶を飲んでいると、ドアがばこーんと勢いよく開き、小さな男の子が飛び込んできた。



 彼はぽふりと私の隣に座って抱きついてきた。レモンブロンドのさらさらの髪に、エメラルドグリーンの大きな瞳。今年七歳になった第二王子ルキは、夫のロイス王子をただ小さくしたみたいによく似ていた。


「ルキ様。ドアはノックして入室の許可を得てから開けないといけませんよ?」


 私は苦笑して義弟の頭をいとおしげに撫でた。


「はぁい。ごめんなさい。母上に、言う?」


 幼い王子は上目遣いに私を見上げた。なんなの、このかわいさ。私は首を横に振る。


「いいえ。今度からは気をつけましょうね?」


「あねうえっ、大好きぃぃぃ」


 ルキは私の膝の上に頭を載せ、足をパタパタさせてふふふと笑った。



 ナデァが王子のために、ビスケットを載せた皿とホットミルクをテーブルに置く。


「それで、どうなさいました? 今はまだお勉強の時間ではありませんか?」


 私はルキのウエストを捕まえて、彼を自分の膝の上にのせた。


「今日はラテン語の先生がご病気でじゅぎょうがおやすみになったので、あねうえに会いに来たの!」


「まあ。リシェル様にはお伝えしていらしたのですか?」


「うん。母上はいいって言ったよ!」


「そうですか。では、何をして遊びましょうか? まずはビスケットをどうぞ?」


「いただきまーす!」



 ヴィが王子妃の教育を始めた年に、彼は国王の第二王子として誕生したばかりだった。第一王子とは腹違いで、彼は国内の有力な上位貴族であるアイレンベルク公爵家の令嬢で国王の側妃であるリシェル夫人の子である。


 しかし、第一王子は幼い弟をとてもかわいがっていた。ヴィもまた、赤子の頃から見てきたルキをとてもかわいがっていた。エラードとルキは、彼女にとっては本当の弟たちのようにかわいかったようだ。


「あねうえ、わたしがあにうえくらいに大きくなったら、わたしのおきさきになってね?」


 壁際でナデァとキーランド卿がくすっと笑う。私はルキの髪を細い指で梳きながら微笑む。はぁぁ、かわいすぎる。先生に告白する幼稚園児みたい。


「私はすでに兄上様のお妃ですので、ルキ様のお妃にはなれないのですよ。ルキ様が大きくなるころには、きっとすてきなご令嬢が現れますよ」


「いやだぁ。わたしはあねうえがいい。あねうえと結婚する!」


 これからは彼の成長を見届けられないことは残念だが、離れてしまえばルキも私のことは次第に忘れるだろう。


 ルキはしばらく私とカード遊びをして軽食を取ると眠くなってしまったようで、いつの間にか心地よさそうな寝息を立て始めた。私はリシェル夫人の西の宮殿に遣いを送り、王子をお連れすると伝えさせた。


 キーランド卿が眠る王子を抱きかかえる。私は彼と共に西の宮殿に向かった。

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