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第22話
作戦開始から五日後。
王子が南部の領地の視察に出かけるのを見送ると、私は申し入れておいた国王夫妻との謁見の前に言いたいことを整理した。
今回は非公式な謁見であり、臣下たちも退けて国王夫妻の応接室で三人だけで会えることになっている。
私は王の侍従長によって応接室へ通され、ソファで国王夫妻に正式なカーテシーをする。
「顔色が優れないようだな、王子妃よ」
夫のロイス王子は、間違いなく父王によく似ている。こめかみの上あたりに少し白髪の混じったレモンブロンドの髪は、五十代の初めでもふさふさとしている。エメラルド色の瞳も似ているが、父のほうには経験による思慮深さがにじみ出ている。なによりも一国の王としての威厳が、全身から感じられる。
「それはそうでしょう。さぁ、お座りなさいな」
初めの一言は少しトゲを感じさせる口調で夫に向けて、次の言葉は思いやりのこもった優しい口調で私に向けられた。国王の隣に座る王妃は、いたわりのまなざしを私に向けた。艶やかなハニーブロンドの髪、アクアマリンのような少し垂れ気味の、慈愛に満ちた瞳。ほっそりとしてまだまだ優雅な美しさを保っている。
「はい、では失礼いたします」
私は国王夫妻の向かい側にふわりと腰を下ろした。
「そなたが謁見を申し入れたのは、例のことについてであろう? その……そなたの侍女が、身ごもった件の」
国王が珍しく言葉を濁す。傍らから王妃がじろりと夫を一瞥する。あ、王妃も私と同じ、サレ妻だったわね。
「はい、陛下」
私はかすかに頭を下げた。
「どうか恨まないでほしい、王子妃よ。我々としても苦渋の決断なのだ。このままでは世継ぎができず、ロイスの立太子にも反対する貴族が出てくるのでな」
「生まれる子が王子であれば、ロイスの次代の王としての地位は盤石になるのです。妃よ、同じ女性としてそなたの気持ちは痛いほどわかるが、どうか聞き入れてほしい」
「うむ。すでに身ごもったそなたの侍女には契約書を書かせてある。子を産んだ後は、一切王家とはかかわらないことに同意させている」
ふたりは私を説得するかのようにかわるがわる話す。まるでこの謁見を想定していたかのように饒舌だ。
「両陛下に置かれましては私をご心配くださり、心から感謝申し上げます。私は六年経っても殿下のお子を授かることができておりませんので、今回のことは大変喜ばしいことと存じております」
国王は深いため息をついた。身分こそ気に入らなかったが、いまではこの嫁をかわいく思っている。謙虚で賢く、六年経っても奢ることなく従順で、しかも洗練されて王子妃としての品格を備えてきた。この嫁が懐妊したならば、こんなめでたいことはなかったのだが、と残念でならない。
「よい、ヴィヴェカや。ここには余と王妃しかおらぬ。前置きは省いて、話したいことを話せ」
こくりと王妃もうなずいた。私はすう、と息を吸って、静かに言った。
「私を、廃妃にしてください」
国王夫妻は目を大きく見開いて驚きを現した。
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