第12話

初夜。




 彼女にとっては未知の第一歩。


「結婚」する以上、普通に考えればソレを迎えることも夫婦となる必須条件のひとつ。



 

 純真無垢だった彼女にとって、耐えがたい恰好を夫にさらさなくてはならなかったことは、衝撃以外の何ものでもなかった。



 夫となったロイスは……多分、「実地」は閨教育で前もって済ませていたのかもしれないけれど。彼もそんなに手慣れていないらしく、ヴィは苦痛と激痛をひたすら耐えた。王族は子孫を残せればそれでいい。だから王子が床上手であるかないかはさほど重要ではないのだ。不敬になるから、誰も口外しないしね。

  

 翌朝、夫は早朝から清々しく剣術の訓練に出かけてしまった。一方で彼女は初めての激痛のせいで起き上がることができず、ベッドの中で半日ほど寝込んでしまった。


 その上……初夜のシーツは切り取られ、ヴィの純潔の証は国王夫妻や重臣たちに提出された。なんたる恥辱。


「最初だけ我慢なされば」の謎は八割かた解けた。でも。


「最初だけ」どころか、ヴィは毎回我慢する羽目になった。



「慣れてくれば痛みも感じなくなるのです」


「それは、何回くらいでそうなるのですか?」


「あ、う、そ、それはですね……その、人それぞれと申しますか……」


 もごもごもご。



 先生というのは、わからないことを詳しく教えてくれるものではないだろうか。実際に、政治学やマナー、王族のしきたりや常識、歴史や地理など、他のどの教科の先生たちもそうしてくれていた。しかし、閨での作法を教えてくれる伯爵夫人だけは、肝心な答えは言葉を濁して的確に教えてくれることはなかった。


 いつも彼女は、ソレは人それぞれなので決まった答えがないから、自分で夫の好みを察知して彼に合わせていけばいいのだとしか言わない。そんな曖昧な言い方をされても、何をどうすればいいのか全く見当もつかないのに。わからないから、恥ずかしさに耐えて訊いているのに。



 相手は夫だし彼と一緒に過ごす時間は好きだけれど、「あの行為」だけは、ヴィはいつまでたっても好きだとは言えなかった。


 もちろん毎晩のことではなく、同衾する日は管理されている。身ごもればその義務もなくなるか、減らされるかもしれない。


 そう思ってすでに六年が過ぎていたが、ヴィが身ごもる気配はいまだに全くなかったのだ。


 夫の床下手とこべたも、六年経ってもさほど変わらないし……



 医者も魔術師も、彼女の生殖能力には異常はないと診断した。不敬なので誰も口にしなかったが、それならばロイスに問題があるのかもしれないとヴィはひそかに考えていた。しかしそれは間違いだということが、今回証明された。



 トリーシャがロイス王子の子を身ごもったのだ。


 ヴィわたしは今初めて、その事実を知らされた。


 (そして私は夫に心の中で謝った。ごめんね、キミが種なしスイカだと思ってたよ……と)



 しかも国王夫妻もそれをすでに知っていて、王子は二人と話し合ってトリーシャをどうするかをすでに決定しているようだ。



 知らなかったのは、ヴィわたしだけなんだ。



 なんか……ひどくない?



 いいえ、あるいはもしかして……





 私が転生する前の本当のヴィヴェカは、世継ぎを孕むことができないとか夫婦生活が苦痛だとかで思いつめて……



 それで湖に自ら……落ちたのかも?

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