第7話

はいはい。シンデレラね。


 世界中によくあるたぐいの話だけど。



『そして彼女は、王子様と末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』で終わる、ハッピーエンドストーリー。



 でも、ちょっと待って。


 ヴィは七年前に舞踏会に参加して、その一年後には結婚してるじゃないの。


 つまり、今の私は……「ハッピーエンド」の六年後にいるっていうことだよね?


 大人になったから、わかるけど……



 結婚することがハッピーエンド、ではないよね。




 アップロードされたみたいに頭の中に流れ込んできたヴィの過去を思い返してみると、なんていうかな、微妙な立場の人だなと思う。


 父親は一代男爵位を持つ富裕層の平民、母親はもと伯爵家の令嬢。父は家庭教師を雇い娘の知性を高め、母は貴族の教養とマナーを教えていた。だから彼女は、幼い頃から平民からはかなり浮いた曖昧な存在だった。


 七年前の王子妃探しの舞踏会は実は出来レースで、とある侯爵家の令嬢が選ばれることが内々に決まっていたものだった。それを身の程知らずの継母は自分の娘を王子妃にする絶好のチャンスだとずうずうしく考えて、ヴィの招待状を奪い取った。


 あの夜大ホールでヴィに一目ぼれしてしまった第一王子ロイスは、出来レースのシナリオをすべて反故ほごにして国王夫妻を困らせた。まぁ、彼も当時は純情な十六歳の少年だったということだ。性格のキツさが顔に出ている十人並みの容姿の同い年の侯爵令嬢よりも、天使のような優し気なひとつ下の謎の美少女のほうに好感をもったのだ。彼が恋煩いで寝込んでしまったので国王夫妻はショックを受け、王子が一目ぼれした謎の美少女を何としても見つけるようにと侍従に命じた。


 侍従は招待状の宛先リストからアルトマン家に行きついた。そこでも継母は悪あがきして、自分の娘をヴィの代わりに差し出した。


 王子から謎の美少女の容姿について詳しく聴取していた侍従は、姉を偽物だと見破って激怒した。家の使用人たちは決死の覚悟で侍従に進言した。本物は、ちゃんといますと。



 そこからはご存じの通り。


 侍従は彼女を王宮に連れ帰り、王子は歓喜し、国王夫妻は安堵した。


 一年間の王子妃教育を受け、十六歳の初夏のある晴れた日に、ヴィは国中に祝福されて王子妃となったのだ。



 国王夫妻ははじめ戸惑いをあらわにした。王子妃に選ばれるはずだった公爵令嬢は寝込んでしまい、半年後には別の貴族家にひっそりと嫁いでいった。


 平民出身の貴族令嬢が王子妃に選ばれた。このことは平民たちの関心を買った。



 

 ヴィは玉の輿に乗ったわけだが、必ずしも彼女が手放しに幸せになったわけではなかった。

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