5
第6話
ん?
なんか、意味深な苦笑と口調。
ちょっと、かわいい口の端が皮肉に吊り上がってないか?
首をかしげる私にぬるい笑みを向けて、ナデァは胸の前でぽんと両手を合わせた。
「さあ、ヴィ様。今日はのんびりと過ごしましょう。まだ完全に回復したわけではありませんからね!」
おお。
なんと、幸せな王子妃ライフ!
朝はゆっくりと目覚め、おいしい食事とおやつ。本来ならば王子妃としての公務がいろいろとあるらしいけれど、湖に落ちて死にそうになった(本当は死んだけど)ことで、半年の休養を義父の国王から命じられているらしい。ナデァとおしゃべりして散歩して読書して、お昼寝までできちゃう。
毎日あくせくシフトに追われて働いていた前世とは雲泥の差ね。
時間が有り余っているということで、ちょっとヴィの人生もおさらいしてみよう。
ヴィヴェカ・アルトマン。愛称はヴィ。
父は平民の大商人で、その経営手腕と勘の良さで若くして巨万の富を築いた貿易王。シュタインベルク国にも多くの利益をもたらしたその功績により、国王から一代限りの男爵位を下賜された。母はもと伯爵家の令嬢だったが、平民の若造商人と恋に落ち、すべてを捨てて駆け落ちしてした。
駆け落ちはしたがなにせ父がお金には困っていなかったので、家はそれなりに裕福だった。
しかし、ヴィが七歳の時、母が病死してしまった。幼い娘には女親が必要だと思った父は、彼女が十歳の時に後妻を迎えた。商人の娘で男爵位をもつ貴族の妻だった女性だ。この継母にはヴィよりふたつ上の娘がいて、その子も連れ子としてアルトマン家の戸籍に入れた。
ヴィが十二歳の時、外国に商船で向かっていた父が海賊に襲われて命を落としてしまった。以来、ヴィは継母とその連れ子である姉と暮らさなければいけなかった。
継母と姉は彼女にきつく当たり、かまどを管理する土間に彼女を住まわせ、ぼろぼろの古着を着せて召使のように扱い虐待していた。
しかし彼女が十五歳になる年に、第一王子が王宮での舞踏会で伴侶を探すことになった。めぼしい貴族の年頃の娘は近隣国の者まで招待された。ヴィにも招待状が届いた。それは「アルトマン男爵令嬢」にではなく、もと伯爵令嬢の娘あてだった。
継母はヴィの招待状を取り上げ、自分の娘に与えた。舞踏会当日、彼女たちはヴィに一晩中家の中隅から隅まで掃除をしておくように命じて出かけて行った。
お妃の座には興味はないが、華やかな場には好奇心がうずいた。一度見て見たかったけれど……まあいいか、とヴィはそんな程度に思っていた。
そこに訪問者が現れた。三十代後半くらいの、長身で精悍な男性。彼は亡き父の親しい友でラルド・フォルツバルクと名乗った。彼の背後にはヴィと同じくらいのかわいらしい少女がいて、娘のナデァだと紹介された。
あちこちの戦争に参戦していたため、親友の娘の状況を知るのが遅くなったと彼は誤った。そして彼女にドレスや靴、宝石を差し出して、舞踏会へ行くよう促した。彼の娘のナデァに手伝ってもらい彼の言う方法で舞踏会に入り込むことができたヴィは、意図せずして主役の王子に一目惚れされてしまう。
彼女は王子の前から逃げ出すが、王子は執念で彼女を探し出し、お城に召し上げる。一年の婚約期間の間に作法を学び、十六になると盛大な結婚式を挙げて王子妃となった。
あら。
これってよくあるシンデレラストーリーだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます