恐妻家のオムライス

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第68話

水曜日に、カズマからメッセージが送られてきた。


『紗栄ちゃん、料理教室やめるね。紗栄ちゃんが脈なしなら、通う必要ないので。それじゃ、元気でね。あ、でも、出世したら教えてねー』




「やっぱり、そんなやつでしたね。でも紗栄さんから離れてくれたので良しとしましょう」


愛莉ちゃんは眼鏡のヨロイを指先でくいっと引き上げながらクールに言った。


「脱落者はなるべく出さないことが重要なのに、あいつ……」


「大丈夫です。お試し体験入学ということで処理しますので」


「くぅぅ。愛莉ちゃんは何て優秀なアシスタントなの?!」


私は彼女を横から抱きしめた。


「想定内のことなので、容易に処理できました。ところで今回は橋本さんのオムライスですね。卵を使うしたまねぎのみじんぎりもあるから、Sクラスの皆さんにはちょっと高度ですね」


「そのとおり。だから玉ねぎのみじん切りはフードプロセッサーとかミンサーでやっちゃおう。フライパンは、絶対にくっつかないテフロン加工でいくの。あとは温度調節かなぁ。とりあえず簡単にできるようにしよう」





そして金曜日。



いつも比較的早い橋本さん、本日も一番乗り。


「いよいよオムライスです。今回はチキンライスと卵について分けて説明するので、実際の調理は3週先になります」


「はい! どうぞよろしくお願いいたします! 早く妻に作ってあげたいので楽しみです!」


橋本さんに続き、ぞくぞくとみんな入室する。


ラストは例のごとく、10分遅刻で瑛士と財前さん。ほんとにこの人たち、よく仕事抜けてこられるな……


そういえば前に、財前さんだけ仕事で来られないときがあったっけ。今思えば、それは瑛士が教室に来るために財前さんに仕事を押し付けた、そんな可能性が高いな。




「みなさん、今回はオムライスです。卵とチキンライスを分けてそれぞれ説明しますね。チキンライスは明治時代の日本生まれ、オムライスもです。作る人によって具や卵の焼き具合が違ってきます。つまり、オリジナリティが出しやすい料理ですね」


橋本さんはもちろん、田所さんも熱心にメモを取る。


「絶対に外せない材料は、卵、ご飯、油もしくはバター、ケチャップといったところです。たとえばチキンライスならここに当然、鶏肉ですが、その代わりにベーコンやハム、ソーセージを使ってもいいでしょう。それからみじん切りの玉ねぎ。そしてここに隠し味を加えます」


田所さんが手を上げる。


「先生。例えばですが、チキンライスの隠し味としては、どんなものが合うでしょうか」


「はい。トマトソースに味噌をちょっと加えるのもありですよ、田所さん。料理酒や白ワインを加えてもいいです。あとは・・・・・発酵食品なら、しょうゆとか?」


「うわぁ。レンジが広いですね!」


「基本、日本生まれなので、日本人の味覚に合ったものならなんでも隠し味になりそうですよ。オイスターソースを入れる人もいますが、塩気が強いので注意が必要です。トマトソースに合うウスターソースも一般的にアリですね。家庭で作るときは私のお勧めは、コンソメの素とか鶏がらスープの素です。チキンライスに簡単にコクがでてうまみが増します」


「へぇー。一番簡単でいいですね」


上山さんがうなずく。



「チキンライスの第一関門は、玉ねぎのみじん切りです。でも今回は便利な道具を使っちゃいましょう! お家で作るときは、安いものは100均のお店で300円から500円ほどで買えますよ」


「さっそく100円ショップに行こう」と浅井さんがぶつぶつ呟いた。




一応、みじん切りにするときのたまねぎの包丁の入れ方を解説して、いろいろな質問を受けて、今日の授業はおわり。

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