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第47話
私たちは三人とも、驚いて彼を見上げた。
「なんか! ちょっと、僕も酔ってきたみたいです! 電車、途中まで同じ路線だから、吉川君、一緒に帰ろう!」
え?
うん?
財前さん、どうした?
「あの……」
私が話しかけようとした時にはすでに、彼はカズマの腕を引っ張って立たせていた。
「ふく……藤倉さん! 僕のほうからお誘いしておきながらすみません! 先生も、残念ですがこの次はもっとお話ししましょう! では、お先に失礼します!」
「あ……ええと、財前さん……?」
有無を言わさず、財前さんはぐいぐいとカズマを引っ張って屋台村を出て行った。
私と藤倉さんは、呆然と彼らを見送る。
(なにあれ?)
私は首をかしげた。
ふう、と藤倉さんはため息をつく。なんか、機嫌悪そう。財前さんが帰ってしまったからかな? 屋台村に入ってきたばっかりだったのに、私とカズマに出くわしてこうなったから、大した話もできなかったみたいだし。
「財前さんが帰る羽目になってごめんなさい」
私が悪いわけじゃないと思うけど、一応謝ってみる。
「——いや、彼も聞くに堪えなかったんだと思う」
藤倉さんが低く言う。
「やだ、真に受けないでください。本気のところ一つもないので」
彼は私を恨みがましい目で見た。
なによ、私が何かした?!
「料理もできないくせに主夫になろうなんて、あ、これは橋本さんには言わないでくださいね、彼は事情が違うので!」
やっと、藤倉さんの表情が
「言わないよ」
結局、一緒に歩いて帰路に着いた。
「それじゃあ」
ドアの前で私は言った。
「ああ、うん。また」
藤倉さんがうなずいた。
それぞれのドアのかぎを開ける。
鍵を閉めて、靴を脱ぐ。
結局、何だったんだろう、カズマの奴。
まあ、何でもいいや。
化粧を落としてシャワーを浴びて、もう寝ようっと。
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玄関ドアを閉めて施錠すると、瑛士はコートのポケットからスマホを取り出した。
「——財前?」
「はい、副社長」
「奴は?」
「つまらないから女の家に行くと言って、快速に乗っていきました。先週、職場のカノジョに内緒で行った合コンで知り合ったそうです」
「そうか。交友関係を探れ。洗いざらいだ」
「承知しました。紗栄先生は?」
「部屋に入った」
ほっと安堵のため息が聞こえる。
「先週、副社長と先生が一緒に歩いているのを見かけたそうで、負けられないとかなんとか意気込んでいましたよ。あいつ……言ってることが、おかしかったですね。どこで何を聞いたのやら」
「親睦会での高柿先生の冗談を本気にしたのかもな」
「ああ、酔っぱらってた時におしゃっていた、紗栄さんに理事長の座を継がせるとかなんとか、ですか?」
「たぶんな。冗談か本気かはわからないが。それじゃあ、吉川和真の件は任せた」
「はい」
気分が、すぐれない。なんだか、むかむかする。
――これは、罪悪感だろうか?
彼女から、とよしま亭を奪ってしまったことへの。
いや、正確には、奪ってはいない。彼女の兄が売りたいというので買っただけだ。
何の違法性もなく、スムースに締結した契約だった。
どこかわけの分からないところに売られて、消滅してほしくなかったから買い取ったのだ。
彼女も大学以降、店には何も携わっていなかったし、無関心なのかと思っていた。
彼は深いため息をついた。
秘書の財前が、機転を利かせて吉川和真を連れ去った。
屋台村で二人を見たときからなぜかもやっとする。
あいつのいい加減な軽い言動にもイラついた。表に出ないように、無関心・無表情を貫いたが。
幼馴染だって?
ふざけてるな。
まったく……
それもこれもすべては、あの何を考えているのかわからないばあさんのせいだ。
彼は再び深いため息をついた。
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