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第47話

私たちは三人とも、驚いて彼を見上げた。



「なんか! ちょっと、僕も酔ってきたみたいです! 電車、途中まで同じ路線だから、吉川君、一緒に帰ろう!」


え?


うん?


財前さん、どうした?



「あの……」


私が話しかけようとした時にはすでに、彼はカズマの腕を引っ張って立たせていた。


「ふく……藤倉さん! 僕のほうからお誘いしておきながらすみません! 先生も、残念ですがこの次はもっとお話ししましょう! では、お先に失礼します!」


「あ……ええと、財前さん……?」


有無を言わさず、財前さんはぐいぐいとカズマを引っ張って屋台村を出て行った。


私と藤倉さんは、呆然と彼らを見送る。



(なにあれ?)


私は首をかしげた。


ふう、と藤倉さんはため息をつく。なんか、機嫌悪そう。財前さんが帰ってしまったからかな? 屋台村に入ってきたばっかりだったのに、私とカズマに出くわしてこうなったから、大した話もできなかったみたいだし。



「財前さんが帰る羽目になってごめんなさい」


私が悪いわけじゃないと思うけど、一応謝ってみる。


「——いや、彼も聞くに堪えなかったんだと思う」


藤倉さんが低く言う。


「やだ、真に受けないでください。本気のところ一つもないので」


彼は私を恨みがましい目で見た。


なによ、私が何かした?!



「料理もできないくせに主夫になろうなんて、あ、これは橋本さんには言わないでくださいね、彼は事情が違うので!」


やっと、藤倉さんの表情がやわらいだ。


「言わないよ」




結局、一緒に歩いて帰路に着いた。



「それじゃあ」


ドアの前で私は言った。


「ああ、うん。また」


藤倉さんがうなずいた。


それぞれのドアのかぎを開ける。




鍵を閉めて、靴を脱ぐ。


結局、何だったんだろう、カズマの奴。


まあ、何でもいいや。



化粧を落としてシャワーを浴びて、もう寝ようっと。






**************************






玄関ドアを閉めて施錠すると、瑛士はコートのポケットからスマホを取り出した。



「——財前?」


「はい、副社長」


「奴は?」


「つまらないから女の家に行くと言って、快速に乗っていきました。先週、職場のカノジョに内緒で行った合コンで知り合ったそうです」


「そうか。交友関係を探れ。洗いざらいだ」


「承知しました。紗栄先生は?」


「部屋に入った」


ほっと安堵のため息が聞こえる。


「先週、副社長と先生が一緒に歩いているのを見かけたそうで、負けられないとかなんとか意気込んでいましたよ。あいつ……言ってることが、おかしかったですね。どこで何を聞いたのやら」


「親睦会での高柿先生の冗談を本気にしたのかもな」


「ああ、酔っぱらってた時におしゃっていた、紗栄さんに理事長の座を継がせるとかなんとか、ですか?」


「たぶんな。冗談か本気かはわからないが。それじゃあ、吉川和真の件は任せた」


「はい」




気分が、すぐれない。なんだか、むかむかする。


――これは、罪悪感だろうか?


彼女から、とよしま亭を奪ってしまったことへの。


いや、正確には、奪ってはいない。彼女の兄が売りたいというので買っただけだ。


何の違法性もなく、スムースに締結した契約だった。


どこかわけの分からないところに売られて、消滅してほしくなかったから買い取ったのだ。


彼女も大学以降、店には何も携わっていなかったし、無関心なのかと思っていた。



彼は深いため息をついた。


秘書の財前が、機転を利かせて吉川和真を連れ去った。


屋台村で二人を見たときからなぜかもやっとする。


あいつのいい加減な軽い言動にもイラついた。表に出ないように、無関心・無表情を貫いたが。



幼馴染だって?


ふざけてるな。


まったく……


それもこれもすべては、あの何を考えているのかわからないばあさんのせいだ。



彼は再び深いため息をついた。

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