契約恋人?
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第45話
私たちは駅前の屋台村の焼き鳥屋に行った。
まずはぬる燗で乾杯。
「くーっ、仕事のあとはウマイね!」
私のつぶやきにカズマは笑う。
「どこのオヤジだよ?」
「あんたこそ、あと数年でリアルなオヤジになるよ」
「僕はまだまだだよ! 失礼な」
あはは、と私たちは笑う。
「ねぇ。訊きたいことあったんだけどさ。紗栄ちゃんは高柿先生にヘッドハンティングされたわけ?」
私は塩つくねにかじりついて首をひねった。
「んー。ヘッドハンティングって言うのはなんか語弊があるなぁ。ダメダメクラスを押し付けられたんだよ?」
「だから、そのダメダメクラスをコンテスト入賞に導いたら、後継ぎとかになるんじゃないの?」
「えっ? なにそれ、誰が言ったのよ」
「あの学校では結構噂になってるよ。ほかの教室の講師や生徒たちが教えてくれた」
「ええ? 情報ソースは誰よ? そんな根も葉もない。てか、あんた、他のクラスの講師や生徒たちとそんな仲いいの?」
「ゴシップ好きな主婦とかたくさんいるからね。よく声かけられて、おごってもらったりするんだ」
「へぇ」
泣き虫が、社交的な大人になったものだ。まあ、かわいらしい若い男の子が料理教室にいたら、お姉様方が放っておかないか。
「高柿先生はお弟子さんがたくさんいるらしいけど、後継ぎは別だって。理事長の座は紗栄ちゃんに渡すって、噂の的だよ」
「そんなの、初耳だわ。コンテストにSクラスの誰かが入賞したら、そのあとも契約更新できるとは言われたけど」
「そっか。もし出世した時は、僕を秘書にしてね?」
「はぁ? ま、そんなことはないとは思うけどね。あんたは、どうしてホテリエになったの?」
「うーん。大学の時に好きだった女の子が、なるって言ったから?」
「はは。その子が今のカノジョ?」
「ちがう。その子は入社試験に落ちて、僕だけが受かったら嫌われちゃったよ」
私はグーでカズマの腕を小突いた。
「それはお気の毒」
「もう5年くらい働いてるんだな。あらためて思うとなんとなくでよく続くよね。べつに特別な思い入れはないけど」
「小さい頃はティラノサウルスになるって息巻いて言ってたけど」
「ええ? そんなあほだった?」
「純粋だったんだよ。大きくなったら何になりたいか大人たちに訊かれて、大きくてのを勘違いしたんだね」
「子供って、突拍子もないこと言うよねー」
「突拍子もないこと言ったその子供は、あんただけどねー」
私たちはおなかを抱えて笑った。
ひととおり笑ってから、カズマが真顔になって言った。
「ねぇ、もう一つ僕がよく言ってたことは、覚えてる?」
「何? よく言ってた?」
「うん」
「何だろう?」
「大きくなったら」
カズマはくすっと笑った。
「紗栄ちゃんを僕のお嫁さんにする! ってさ」
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