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第44話
早いものですでに第6回目の授業になった。
3月ももうすぐ半ば、寒さが緩んで暖かな日も多くなってきた。
お父さんの四十九日にも、兄の千尋は現れなかった。あの親不孝者め。
予告通りに浅井さんも戻ってきた。八助は傷もふさがってご飯もたくさん食べられるようになったそうで。
「あの時にお土産にいただいたグラタン、びっくりするうまさでした。ごちそうさまです」
そう言って浅井さんは、お返しに自作のグラタンを持ってきてくれた。
「うわぁ、浅井さん、ちゃんと動画見たんですね。おいしくできてます!」
みんなで試食すると、橋本さんが目をキラキラさせた。
「もちろん、見ましたよ! 隠し味無しのも作ってみたけど、やっぱりあったほうがおいしかったですね」
「研究までしたんですか? 素晴らしいです!」
上山さんも丸い顔一面に笑顔を浮かべる。
「僕も! いろいろな発酵食品を入れて研究してますよ!」
田所さんが手を上げるとみなさんがおおおお、と感心する。
各教室の困ったちゃんの寄せ集めにしては、結構仲良しだと思う。
新しく2月から参加の若者3名も、自然に溶け込んでいる。
「豊嶋先生のクラスは仲がいいですね」と、ほかの「まともな」クラスの講師たちにもよく言われる。だから本当に仲がいいんだろう。
「さて。今回は作り方の講義です。肉とフライパンの温度についてまずは知りましょう」
ポークソテーには、厚切りのロース肉を使う。
厚めだから、筋切りはしなくても大丈夫。
塩はあらかじめ振っておくと肉の水分が抜けてしまうので、焼く直前に。
冷蔵庫から出したばかりの冷たい肉を焼くときは、冷たいフライパンに置いてから火をつけること。
常温に戻した肉ならば、熱したフライパンでもOK。
ロースを焼くときは、脂身の部分をまずは焼いてみましょう。余分な脂が抜けるし、フライパンに油を敷かなくてもよくなるから。
「ちなみに、もしもガーリックバターとかトンテキソースとか、生姜焼き風、デミグラスソースなど、結構濃厚なソースにするときには肉の表面に薄く小麦粉をまぶしておくと、あとでソースがよく絡みます。シンプルに塩コショウだけなら、つける必要はありません」
とにかく、弱めの火でフタをしてじっくり焼くこと。あまり強火で焼くとすぐに焦げるし、水分が抜けて肉が縮んでパサパサになる。
付け合わせの野菜はお好みで。キャベツの千切りでも、ちぎっただけのレタスでも、数種類の生野菜を混ぜたものでも、温野菜でも。
「浅井さんちは、何でしたか?」
質問すると浅井さんは左上を見上げた。
「うーん。キャベツの千切りとミニトマト、パセリだったかな」
「では、今回はそれで行きましょう。千切りはハードルが高いかもしれないので、今回はスライサーで」
ということで、来週は実際に作ってみましょう! で終了。
「先生」
全員教室を出た後に鍵を閉めていると、私は呼び止められた。
振り向くと、カズマが立っていた。
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