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第21話
高柿調理専門学校主催・素人のための楽しい料理クラス。
包丁を初めて握る人から毎日ご飯を作る主婦や主夫まで、老若男女あらゆるレベルの人々が通う。
平日の昼間のクラスと夜間のクラス、土曜の午前、日曜の午前クラスの計12クラス。
その中の金曜の夜間クラスが、私の担当するSクラス。
私のアシスタント松原愛莉氏によると、『すくえないほどセンスのないクラス』の「す」が”S”。
特徴: 20代後半から50代の男子のみ。
ど素人、もしくはどへたくそ。
(他のクラスから「選抜」された、みそっかすばかり)
ははははは。やりがいがあるな。
私と愛莉ちゃんは開始30分前には教室で生徒たちを待っていた。
最初に「こんばんは~!」と元気に入ってきたのはカズマだった。
「紗栄ちゃん! ほんとに来たよ!」
白いスウェットにぼろぼろのジーンズで、全員おそろいの黒い長めの業務用エプロンを握ってぶんぶん振り回しながらやってきた。
「こんばんは。あー、コホン。ここでは先生と呼んでくれるかな? 吉川君」
両肩をがっつりつかんで私を前後にぶんぶん揺するカズマにデコピンをくらわせて、私は忌々し気に言った。
「あ、しつれいしました、先生。へへへ。あ、愛莉さんもこんばんは、どうぞよろしく」
カズマは私を放して愛莉ちゃんに挨拶する。愛莉ちゃんはロボットのように挨拶を返す。
「こんばんは、吉川さん。お好きな席に座ってください」
教室には手前に畳一畳分ほどのサイズのホワイトボード、講師用の流しと調理台、そして同じく畳一畳分ほどの生徒用の流し付き調理台がふたつある。中学校の家庭科の調理実習室の小さい版みたいな感じ。
はーい! と元気に返事してカズマが向かって右手の窓辺の席に座る。がらり、引き戸が開いて二人目、三人目とやってくる。「こんばんは」とあいさつして名前だけ確認して、次々と二つの調理台のどちらかの好きな席についてもらう。
開始7分前には5名がそろった。
「ええと……あと2名ですね。後から先生が追加された……」
手にしたA4サイズのバインダーに視線を落とし、愛莉ちゃんがまだ来ていない新人の名前を確認しようとしたところ、18時ぎりぎりに1名が飛び込んできた。
「すっ、すみませんっ、遅くなりました!」
うん? カズマと同じくらいだろうか。さわやかな、会社員風の青年。
「こんばんは。まだ遅刻ではないので大丈夫ですよ? お名前を教えてください」
私は営業スマイルを向けて尋ねた。青年は緊張している様子だったけど、ちょっとほっとした様子で表情を緩ませて言った。
「はい、財前直哉と申します。会社員です。どうぞよろしくお願いいたします!」
勢いよく頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします。自己紹介は全員揃ったらまた皆さんにお願いしますね。空いてる席へどうぞ」
財前さんはカズマの隣に座る。年齢が近そうなところに無難に座った感じ。
「あと1名ですね。遅刻でしょうか。それかもう来ないのか。とりあえず時間です。始めましょう」
ロボット愛莉は腕時計を見ながら事務的に言った。
「そうだね、始めていようか」
私も同意する。
18時9分。
時は金なり。
生徒たちに言葉を発しようとしたとき、教室の前方の引き戸がガラッと豪快に開いたので、全員がそちらに注目した。
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