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第20話

「7か月でど素人のオヤジクラスを、コンテスト入賞まで育てる、かぁ……」


愛莉ちゃんが作ってくれた軟骨入り鳥そぼろのトマトパスタを食べながら、私は天井を見上げた。


パスタは、おいしい。絶妙の塩加減、にんにくの風味、軟骨のコリコリとした歯触り、すべてにおいて完璧である。さすが高柿先生の目に留まるだけはある。


「まあ、何とかなるんじゃないかと思います」


私の向かい側でフォークにパスタを絡めながら、愛莉ちゃんがひょうひょうと言う。




そうだ。


この子のことも、どうにかしなきゃいけないんだった。


愛莉ちゃんは、ここ数日接してきていい子なのはわかった。料理がうまいことも分かった。


でも確かに、先生のおっしゃるように何かが足りない。


すべてにおいて反応が薄いというか、感情の起伏がない。今の受け答えみたいに、淡々として他人事のように言い切る。


私にとっての課題は、7名プラス愛莉ちゃん。


「頼りにしてるよ、愛莉ちゃん。あとこれ、すごくおいしいよ。軟骨の歯触りがたまらないね」


「ありがとうございます。うれしいです。微力ながらがんばります」


うーん。なんか、AIとお話してるみたいに感じる時あるね。はは。



「愛莉ちゃんは三女でしょ。きょうだいの中ではどんな感じ?」


「長女は私の5歳上です。すっごく自己中心的でわがままで、妹たちのことを自分の奴隷だと思っています。でも2歳上の二女は自由奔放で神経がずぶとくて、母の言葉にすべて逆らってなんでも好き勝手にして生きているので、長女に奴隷扱いされても隙を見て逃げ出すのがうまいです。だから私だけがよくこき使われています。小学生の頃はなんでも一人でできて、結構要領がよくてちゃっかりしてると姉たちに言われていました」


「なるほど」


「8歳上に兄がひとりいまして、意地悪も命令もしないので、小さい頃は兄と一緒にいるのが一番好きでした」


「ははは」


「兄は今、父の会社を継ぐべく寝る暇もないくらい、多忙な毎日を送っているみたいです。長女はまだ独身でふらふら遊んで暮らしています。二女は父の反対を押し切ってミュージシャンもどきと駆け落ち婚して、マネージャーみたいなことやってます。多分そのうち、長女とか私とかは、父と兄のために政略結婚のコマになると思います」


「ははぁ。お金持ちの家は大変だね。愛莉ちゃんはそれでいいの? 好きな人とかいないの?」


「兄のためになるなら、別にいいです。今まで、誰も好きになったことはないので、それで構いません」


「……そっかぁ。よし」


「はい?」


「いや、なんでもないよ。だから愛莉ちゃんはしっかりしてるんだね」


よし。決めた。このAIロボットのような子に、恋をさせよう。そうすれば、料理に深みが出るかもしれない。



私の野望は彼女に知られないように胸にしまっておく。


他の生徒たちの攻略法も考えないといけない。




いよいよ来週の金曜日から、Sクラスの私の授業が始まる。

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