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第5話
理由はわかってる。
子犬の時に真っ黒だったルークは、成犬になったら毛色がシルバーに変わったから。
今は私が練習台としてトリミングしていて、テディベアみたいに見える。
「シルバーって、知らなかったの?」
「親父の知人の家からもらってきた時は、黒かと思ってた」
「想像通りの反応、ありがたや」
「あ、わざとこいつが大きくなってからの写真、送ってこなかったんだな?」
「そのとおり。改めてよろしくね、ルークだよ」
ルークは6年ぶりに実の(?)飼い主との再会を果たした。
まだ肌寒いドッグランで遊んだ後、私たちはすぐ近くのドッグカフェに行った。
「タマ、トリマーにはなれたの?」
「うん。4月からはショッピングセンターの中のペットショップで働くよ」
「そっか。夢がかなってよかったな」
「第一志望は動物病院の看護師だったんだけど。まぁ、とりあえず夢はかなったよね。それで、リヒトはどうなの?」
それまで詳しく訊こうとしても、いつもはぐらかしてちゃんと教えてくれなかったことを、ズバリ訊いてみた。
「うーん。あと1年くらいはよその病院で働くつもり」
「じゃあ、ルークはまだ返さなくていいの?」
「いいよ。ねぇ、タマ」
「なに?」
リヒトはコーヒーカップをテーブルに置き、まっすぐに私を見た。
「1年間、そのペットショップで働いてなよ」
「え? いや、1年と言わず、もっと働くよ?」
「いや、1年でいい。そしたら俺が、スカウトしに行くから」
「どういう意味?」
「あと」
わけがわからず訝しがる私に、リヒトはふと微笑みを向けた。小さなころの面影がはっきりと見てとれる、優しい笑み。
「誰かと結婚とかもするなよな?」
「……な、なんでよ?」
思わずどきりとしたから……一瞬、突っ込みが出遅れた。
いたずらをする前の小さな少年のようにくすっと笑って、リヒトは肩をすくめた。
「なんでって……そのうち俺が、申し込むから」
「えっ……はい?」
「いや、まだ返事しなくていいよ」
「あ、いや、そうじゃなくて!」
「タマ、真っ赤」
「う……うるさいっ! ひとをネコみたいにタマタマ呼ばないでって言ってるでしょっ!」
「照れると逆切れするところは、昔から変わらないな?」
「~~~~~‼」
「ねぇ、タマ?」
「なにっ?」
「この6年、すごく会いたかった」
「$&’J◆'=L<NP*+F@U△~|#!!!」
その2週間、私とリヒトは毎日のように一緒に過ごして、子供時代の関係性を変化させた。
ふたつ年上の幼なじみの男の子は、そうして私の恋人になった。
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