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第4話
「これなんだけどさ。ちょっと手、出してみて」
「うん?」
リヒトがバッグの中から取り出した、何やら小さな黒い物体。
素直に両手を出すと、温かくてもこもこした軽いものが載せられた。
「ひゃっ、な、なに?」
驚いて両てのひらに載せられた真っ黒なもこもこを見下ろすと、それはとても小さな子犬だった。
あまりの愛くるしさに、私は思わず悲鳴を上げた。
「なにこの子! なんなの? 超かわいすぎっ!」
小さなピンクの舌が、ぺろりんと私の指を舐めた。
「俺が帰ってくるまで、そいつの世話を頼む」
「えっ? 4年間も?」
「いや、6年間」
「6年も大学行くの?!」
「だって、そういう学部だから」
「何学部なの?」
「……医学系」
「はぁ。犬が飼いたいなら、6年後に飼えばいいのに……この子、自分の飼い主は私だと思っちゃうよ?」
「それでいいんだよ。とにかく、世話をよろしく頼むよ。毛が伸び続ける犬種だから、トリミングの練習台にもなるし。タマの家にはもう了承済みだから、連れて帰っても大丈夫だよ」
そうして子犬だったルークを私に託して、リヒトは街を離れて行った。
それから私たちはSNSで時々連絡を取り合っていたけれど、2、3年目からはあまり返信が来なくなった。
そのうちに私は子供のころからのペットに関わる仕事をしたいという夢をかなえるために、家から通える動物看護学部のある大学へ進学した。
信じられないことに、私とルークは6年間も放置されていた。
リヒトは一度も帰省することなく、ひたすら勉強しているらしかった。
そう。
リヒトが大学に行って6年が終わるころ。
「タマ、久しぶり。来週末から2週間だけ帰省するよ」
「ええ? もうずっと帰って来るんじゃないの?」
「あー、詳しくは帰省した時話すよ」
3月の終わり。
私たちは同じ年に卒業となった。
そして6年ぶりに……私たちは再会した。
それまでもメッセージのやり取りはいていたし、時々写真を送り合ったりしていたからめちゃ驚きはしなかったけれど、私の家の前まで車でお迎えに来たのには驚いた。
久しぶりに見るリヒトは高校の終わりごろの少年ぽさは消えて、顔のラインがシャープになって大人の男っぽくなった感じだった。
思わず心拍が乱れてときめいたのに、24歳のリヒトは私を見るや否やハンドルにしがみついてプハっと吹き出した。
「タマが、化粧してる!」
私は助手席に乗り込みながら唇を尖らせた。
「そりゃするでしょうよ。私だってもう22歳なんだからね!」
後部座席には、ルークがキャリーに入ってぐーぐー眠っている。
私たちは車で1時間半ほどの、湖のほとりのドッグランに向かった。
「ありゃ。なんだよこれは?」
キャリーバッグから出てきたルークを見て、リヒトが間抜けな声を上げた。
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