第36話
「どこまで行くの?」
「…そ、この駅までだけど…」
間違いなくにこやかな表情ではなかった俺に怖気づくこともせず質問を投げかけてくるその生徒に、拍子抜けしながらぽつりと声を返す。
「あ、同じ方向だ。入ってく?」
「……」
安堵したような表情で相合傘を提案されて、食い入るようにその姿を見つめてしまう。
そして見つめているうちに、目の前の生徒が同じクラスの皐月理嘉であることを思い出した。
物静かかと思えば案外はっきり意見を主張出来て、真面目ではあるのに堅苦しさがない、そんな人間。
同じクラスとはいえど話したことなんてないからすぐには思い出せなかったけど、他の生徒に比べて謎が多い印象を持っていたからか俺としては比較的早めに思い出せた気がする。
「…もしかしてお迎え待ってた?」
「……あ、いや、入る。助かる」
皐月の名前を思い出した達成感で返事を忘れていると首を傾げられ、慌てて礼を述べる。
大して話したことのないクラスメイトと相合傘なんて気まずいだろうけど、これを逃すと本気で帰れねぇし、有難いことに変わりはない。
それにしても……
「気にしなくていいよークラスメイトだし。だけど柊くんの方が身長高いから傘持ってね」
「…おう」
万が一優しさからくる正義感で無理して声をかけてくれてるのであれば申し訳ないな、と思ったのもつかの間。
傘を持てと提案してきた皐月に「あぁ、こいつ素でやってのけてる」と思ったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます