第35話

こういう時、「傘忘れたから駅まで入れて」とか「俺も傘忘れたから落ち着くまで時間潰してようぜ」だとかのやり取りを友人と出来れば溜息を吐かずに済むんだろうが、現時点で俺が学校内で行動を共にしているのは幼馴染の馨だけ。そして生憎今日の俺の隣にその幼馴染の姿は見当たらない。


馨なら折り畳み傘持ってただろうな、とか。



「――、の」



傘持ってなくても馨がいればこんな憂鬱な時間は過ごさずに済んだんだろうな、とか。



「――、れ…の」



もっと言えば二人なら大雨の中走って帰ることすら楽しかったんだろうな、とか。



「傘忘れたのっ?」


「は?」



自宅のベッドで体調不良と戦っているだろう幼馴染に思いを馳せていると突然肩に触れた誰かの手と聞こえた声に驚いて、空とは真逆の左斜め下へと視線を下ろすと一人の女子生徒が首を傾げて俺を見上げていた。

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