第37話

「今日は雨が笑ってるねー」



傘を差し始めてからどれくらいが経ったのか。


何を話すでもなく雨が傘を叩く音だけが響く時間が続いてはいるものの予想に反して不思議と気まずさを感じずに道のりが終盤へと差し掛かった頃、皐月が笑う。



「……空が泣いてるじゃねーの、普通」



そんな俺の否定的な返しに、皐月はだけれどにっこりと笑って「そうともいうね」とだけ答えた。


その穏やかな笑顔を最後に会話は生まれず、駅に着いてありきたりな言葉と改めてのお礼を伝え、一度もこちらを振り返らずに駅を後にした皐月の背中を見送りながら、相合傘は相手によって気まずさも変わるものなんだなと実感する。


前に一度、今日の俺と同じように大雨に困っていた他校の女子生徒に傘を差してやったことがある。


その時「なんだこの居心地の悪さは、女と相合傘なんてもう二度としねぇ」と決意したはずなのに、不思議とさっきまでの時間は心地よくて。



「……俺、生徒会立候補しようと思うんだけど」



その後、少ししてから皐月が生徒会に立候補したと聞いて、馨の前でぽつりと呟いた。



「…珍しいですね。隼人が入るなら俺も入ろうかなぁ」

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