第37話
「今日は雨が笑ってるねー」
傘を差し始めてからどれくらいが経ったのか。
何を話すでもなく雨が傘を叩く音だけが響く時間が続いてはいるものの予想に反して不思議と気まずさを感じずに道のりが終盤へと差し掛かった頃、皐月が笑う。
「……空が泣いてるじゃねーの、普通」
そんな俺の否定的な返しに、皐月はだけれどにっこりと笑って「そうともいうね」とだけ答えた。
その穏やかな笑顔を最後に会話は生まれず、駅に着いてありきたりな言葉と改めてのお礼を伝え、一度もこちらを振り返らずに駅を後にした皐月の背中を見送りながら、相合傘は相手によって気まずさも変わるものなんだなと実感する。
前に一度、今日の俺と同じように大雨に困っていた他校の女子生徒に傘を差してやったことがある。
その時「なんだこの居心地の悪さは、女と相合傘なんてもう二度としねぇ」と決意したはずなのに、不思議とさっきまでの時間は心地よくて。
「……俺、生徒会立候補しようと思うんだけど」
その後、少ししてから皐月が生徒会に立候補したと聞いて、馨の前でぽつりと呟いた。
「…珍しいですね。隼人が入るなら俺も入ろうかなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます