鏡幻島への招待

「……って言うことがあったの。


 私が丹精込めて考えたトリックなの。複雑に、4つの落とし穴を作っておいたのに、なんでそれをいとも簡単に潜り抜けてくるの?


 ほんとにふざけんな!! って感じ!」

「そうねえ。


 梨子の話を聞いている限りだと、梨子が作ったミステリーも難しい感じがするのにね。」


 私の親友である優美は、弁当のプチトマトを口に運びながら、そう言った。


「本当に、この小説書き上げるために、叙述トリックのミステリー小説を20冊は読んだのよ。


 その中から、面白かったり、難しいと思ったトリックを組み合わせて、自分のアレンジも加えて、推敲して、推敲して作ったのに……。


 解けないミステリー作ってやろうかと思ったこともあったけど、それだと負けた気がする。それに、あの教授なら、解けないミステリーも解いてきそうなのよね。


 本当にどうしたらいいものか……。」

「……そうだ!」


 優美は何かを思いついたようで、箸を私の方に向ける。


「行儀悪いわよ。」

「ごめんごめん! でも、ちょうど良さそうな案があるわ。」

「それ何?」

「まず、今の話を聞いた限りでは、梨子の書くミステリーの弱点が分かったかもしれない。」

「何?」

「それは、過去の作品を参考にしていることよ。」

「……ほう。」

「過去の作品のトリックを参考にするってことは、そのトリックには使い古されている可能性があるの。


 例えば、叙述トリックで、男女を誤認させるなんて言うのは、よくある話なんじゃないの?」

「まあ、確かに、使い古されている感じはあるわね……。」

「でしょ! ってことは、そんな使い古されたトリックだと、天神教授にとっては飽き飽きする物なんだろうと思うの。だから、簡単に解かれるの。」

「でも、目新しいトリックなんて、私は簡単に思いつかないわよ。それに、あの教授を打ち負かせるものとなるとなおさら無理だわ。」

「そんな簡単に斬新で、新規性のあるトリックが非凡な梨子に思いつくとは思ってないわ。」

「なんか、その言い方は腹が立つんだけど。」

「言い方が悪かったけど、天神教授という天才にトリックを解かれないためには、それ以上の天才にトリックを作ってもらえばいいのよ。」

「まあ、理にはかなっていそうだけど、天神教授より賢い人は、私の貧しい交友関係の中にはいないわよ。」

「でも、私の豊かな交友関係にはいるわよ。」

「また、嫌な言い方ね。


 でも、その天神教授を超える天才ってのは誰なの?」

「越前 ばぶる。」

「えっ!? あのノーベル賞を3個取った人?」

「それも、20代で、生理学・医学賞、物理学賞、化学賞の3分野の同時授賞。」

「確か、授賞式で3回連続で呼ばれて、最後の授賞の時には息が切れてた人よね。」

「そうよ。


 そんな漫画みたいな天才にトリックを考えてもらえば、こんな大学の教授で収まっている天才くらい捻り潰せるわよ。」

「そんな天才といつ知り合ったのよ?」

「まあ、高校の同級生だからね。」

「そうなの! てっきり、高校時代から海外に飛び級しているのかと思ってた。」

「私の高校、公立高校だし、そこまで有名な進学校でもないんだけどね。泡はなぜか私の高校にいたわ。結局、大学は海外に行って、そこでずっと研究しているけどね。


 泡が最近、日本に帰った時に、偶然出会って、改めて連絡を取るようになったのよ。その流れで、その泡と冬休みにちょっとした旅行に出かけることになったの。


 だけど、その旅行に出かける日が大学の集中講義が入ってる日だったの。その講義取らないと留年確定だし、その旅行は泡自体も招待されている身だから、日程をずらせないらしいの。だから、その旅行は無くなったんだけど……


 私の代わりに梨子がその旅行に行けばいいと思うのよ。」

「冬休みは何にも予定が無いからいいけど、私はその子と初対面なんだけど大丈夫?」

「大丈夫よ。


 天才って言っても、普通の女子大生と変わりないわよ。まあ、小難しい話もすることはあるけど、凡人に合わせる話術も持っているから大丈夫。それと、海外譲りのフレンドリーさがあるから絶対に大丈夫!」

「まあ、それならいいけど……。」

「それと、旅行の詳細もすごいわよ。」

「どうすごいのよ?」

「まず、旅行の行き先は、太平洋に浮かぶ孤島、鏡幻島きょうげんとう。その孤島は、今回の旅行の主催者である藤原宣利の私有地で、使っていない時は無人島。


 そして、その無人島には藤原を含んだ8人の天才が招待される。詳しくは知らないけど、生物学や物理学、化学の理系分野や社会学、文学などの文系分野の天才が一度に集うの。」

「なんか、人殺されそう!」

「不謹慎だけど、クローズドサークルで誰かが殺されそうな予感がするでしょ!


 さらに、極め付けは、あの冴島家の屋敷が建ててあります。」

「えっ!? 私も殺されちゃうんじゃない?


 冴島家は元々、戦国時代から外敵を侵入させないためのからくり屋敷を作る名家だったから、殺人を扱った建築が得意だったから、今の建築にもその殺人からくりが施されているって聞くわよ。」

「だから、かなりリスクは高いかもね。


 だって、あのアガサ山で起こった大学生7人が不審死した事件も、あの冴島家の建築物の中で起こったものだったからね。」

「面白いじゃない! 孤島で、天才が集って、訳ありの屋敷。絶対、何か起こるわ!」

「そう言う意味でも、梨子のミステリー小説を書く助けになると思うから、いい体験になると思うわ。」

「分かった! その旅行行く!」

「OK~! じゃあ、泡に連絡しておくわ!」

「なんかやる気出てきたわ。」

「……でも、梨子は死なないようにね。」

「大丈夫、探偵は殺されないから!」

「梨子が探偵なの確定なんだ……。」

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