第11話
朝になってもなかなか起きないアキを見て珍しいなぁと眺めているとドアをノックする音が聞こえたので近づこうと思ったらアキに抱きしめられてるの忘れててどうしたものかなぁと考えた結果食事料金ははらったんだし大丈夫だろうと無視することにして大人しく頭を撫で続ける。
このまま撫でていたら禿げるんだろうか?たまに人間は禿げ頭がいるがこれが原因だったりしないだろうか?
だとしたら撫でない方がいいのか?
うーん…。
「フィンちゃーん?まだ起きてないのー?」
ヘレスかノックしていたのは。
「起きてますよー、ただちょっとまだアキが寝ているのでもう少し静かにしてあげようかなと」
「そっかー。そっかー?んー?じゃあなんで出てこないんだ?」
まぁその疑問に思い至るのは自然か。とはいえそのまま歩いていく音が聞こえたので再度頭を撫でようとしたら眠たそうな眼でアキが起きていた。
さっきの声で起きちゃったのかな。
「起きたの?」
「うん…フィンは寝れた?」
「ちゃんと眠ったから大丈夫だよ」
やっと動き回れると思ったけど抱きしめられたままなのでどうしたものかと悩んでしまう。
「まだ眠たい?」
「ん…いや、起きる」
解放されたので背伸びをしてアキの方を見るとちょっと顔が赤い。風邪でも引いたのか?
それとも昨日の香辛料が原因で?額に手を当てると熱は特になさそうだし魔眼で内部を見ても病原菌になってそうなのは見当たらない。
「フィンはなんというか慣れているんだな…?」
「ん?慣れてる?」
「誰かと一緒に寝るのとか」
「慣れてるというか僕は誰かと一緒に寝るなんてしたことないけど?」
「そ、そっか…そうなのか…」
さて、一旦全員がどんな行動してるか確認してから僕も動くかな。
「アキはこれからどうするの?」
「ん?そうだなとりあえず朝食を取ってから都市の様子を見て回ろうかと思うけど」
「じゃあ僕と同じだね、一緒に回ろうか」
「お、おう」
どうせ誰かと一緒に行動することになるだろうしさっさとアキと一緒に行動するから他の人はいらないと言えば別行動が取れるだろう。
部屋を出てヘレスの部屋をノックしようとしたらいきなりドアが開いてナナシが出てきた。
うん。なんとなく予想はしてたから今回は驚かないで済んだ。
「ナナシさんは今日は何をする予定だったりします?」
「警護…」
「それじゃあ僕とアキは一緒に同行するからほかの二人を警護してもらっていいですか?」
「…分かった」
そのままゴドーの部屋をノックすれば中からいびきが聞こえてきたのでナナシの方を見ると頷いてくれたので多分ナナシはゴドーの警護をするのだろう。ヘレスが1人というのも心配だけどさっきの様子だとそんな遠くには行かないだろう。
アキの部屋まで戻れば着替えていた途中だったみたいで僕も昨日の服は泥を落としたしもう少し汚い服に着替えるかと思ったらアキが布団の中にもぐり始めた。
「どうしたの?」
「いや。フィンこそどうしたんだよ!?」
「着替えようかなと」
「そ、そうか…じゃなくて、人前でそんな堂々と着替えはしないものなんだよ!」
「そうなの?ごめん?」
魔族の中では裸体のまま歩いてるやつとかいるけどそれは大丈夫なのかな?
いや人間の価値観なのだからこの場合僕が悪いのか。
とりあえず僕はトイレの中に入って着替えて髪の毛もできる限りぼさぼさに乱しておいた。
「えっとフィンはそれでいいのか?」
「うん。この方が大丈夫だと思う、片目は見えるようにしてるし疑われることもないと思うよ」
「そっか」
アキの方は相変わらずフードを目深に被っているから覗かれない限りは大丈夫だろう。
準備もできたしリュックを背負ってアキと一緒に部屋を出る。
朝食はどこで済ますか、昨日の食事はあまり好評ではなかったから人間が親しみやすい料理を提供してるところを少し探してみるか。
歩いているとアキがきょろきょろとしてるからちょっと不審気味だったので手をつないで離れないようにして連れていく。
そうしていくと肉を焼く匂いがしてきたからここはちょっと危ないかなと遠回りするように歩いた。
「なぁフィン、俺たち飯を食いに来たんだよな?」
「そうだよ?」
「肉の匂いがした気がするんだけど?」
「んー…聞かない方がいいよ」
「それって…」
まぁ、何も言わずに食べるよりは教えておいた方が良いだろうとは思ったけど、それで食欲を落とされても困るからあえて濁して答えておくことにした。
できれば獣肉を扱ってる店がいいんだけどなかなか見当たらないな。もしかしたら先日の国境の争いの影響かもしれないな。
そんな中脂っこい匂いがしたのでこれは大丈夫だと思い中に入ればそこそこ賑わっている。
空いてる席に座ってメニュー表を見れば家畜の肉を扱ってるらしいので問題はない。魔領の家畜は山羊か猪くらいだろうけどアキに食べさせるなら問題ないだろう。
「すいません、これとこれもらえますか?」
「5枚になる」
「どうぞ」
アキは文字が読めないのかメニュー表をじっと見つめている。
「文字、教えてあげようか?」
「いいのか?」
「まぁ、簡単なものなら、1人でも食事することあるだろうしその時困るでしょ?」
知らず知らずに食べたくないものを食べていたなんてなったらアキも困るだろう。
とりあえずメインメニューになりそうなものの字体と、昨日の健康食を教えてあげたら少し喜んでるように見えた。
料理も届いて、食べてみると普通に獣肉だなと思ったけどアキは美味しそうに食べている。
自分で食べる分には何も感じないけど隣で美味しそうに食べてるのを見るのは案外楽しいかもしれない。
ただ僕も人間だったらこんな風に食事で一喜一憂して口いっぱい頬張ることができたのかな?
味の感想を言い合ったり…。
「美味しいねアキ」
「うん!久しぶりにがっつり食べたよ!」
そっか美味しいのか。アキの食べてるものは猪肉で多少油っこく獣臭い気はするけど。
あ、でもアキと人間国で周った綿あめ…あれは美味しかったな。人間か…。
「アキちょっとここで待っててくれる?」
「どうした?」
「ちょっと催してきて」
「あ、そっか、分かった待ってるよ」
店内にトイレがあるけどアキはそのことを知らないだろうしそのまま外に出て近場の路地裏に入り、魔族が入ってこないか少し待ってるとまだ明るいのに酔っぱらってる魔族がふらふら歩いているのを見て近づく。
「あん?んだよ?」
「『万魔の守護を一時的に封印せよ』『お前の知り合いを3人ほどここに連れてこい』」
「わぁーったよ」
さっきまで酔っていたとは思えないほどにスタスタ歩いていくのを見て効果があったのを実感しつつしばらく待つとさっきの魔族が仲間らしき者を連れてきた。
「なんだ?もしかしてこんな小娘相手にしようってのかお前?」
「おでは好みだけど、めずらしいなおまえがおでだち誘うの」
「『総員中央広場にて気位の高い魔族へ戦闘行動を開始せよ』」
「あぁ…分かった」
「おでにまがせでぐれ」
「わぁーったよ」
これでリビリアの合図にはなるだろう。
ただテトが少し不安だ。引き際も僕の能力を知ってるかのようなタイミングで引いていったし。
それでも竜種が都にいなかったことを考えると今管理してるのはテトではなくほかの万魔のはずだ。
食事処にもどるとアキは素直に待っていた。
「大丈夫だったか?」
「あはは。ちょっと迷っちゃってね。そろそろ行こうか?」
特に違和感もないはずだ。あとは広場で騒動が起きるはずだから僕たちも広場に行ってそれに乗じて一旦はぐれておけばいいはずだ。
最悪今日フィブラが現れなくてもチャンスはいくらでもあるだろう。
「フィン、少し待ってくれ」
「ん?どうしたの?」
「この先で血の匂いがする。恐らく争ってるな」
「ここは前線都市だからね血気盛んな魔族がいてもおかしくないよ、それよりも様子見ておいた方がよくない?」
「いや、そうじゃないんだ…多分一方的に虐殺されてる、1人やばい奴がいる」
アキがそこまで言うならそうなのだろう。透視の札がほしくなるが魔眼でなんとか見えるとこまで見てみようと集中してみると、アキの言う通り1人魔力がダダ洩れてるやつがいるのが見える。
「うん…ちょっと危険かもね」
「どうする?宿まで戻って隠れるか?それとも都市から離れるか?」
「うーん…」
近場の村や町ってあったかな?フィブラと人間国まで来たのはドラゴンを使って空から見た限りだし、小さな村々までは書類に記されてないから道に心配がある。
「せめて地図がほしいから宿で一旦隠れておこう?」
「そっか…そうだよな、魔領に来てからフィンに頼りっぱなしだったから忘れてたけど地図ないもんな」
首都くらいなら分かるのだけど、前線都市アデルバから他の首都は遠い、竜車を使えば速く行けるだろうけどさすがに竜車を使えば竜繋がりでテトに情報が伝わる可能性がある。
せめてフィブラ経由で用意された調教竜でないと安心はできない。
遠回りしながら宿に向かい、部屋に入る前に今日の分の料金を払いつつ、他の仲間の部屋を訪ねて安否を確認したが全員外には少ししか出てなかったようで広場で危険な気配があったからしばらく宿に隠れることを伝えると全員了承してくれた。
こうなると困ったな。使い捨てでもいいからそこら辺の魔族を捕まえて正体を確かめたいが…いや焦っては駄目だ。サインは送ったのだ。大人しくして一旦連絡を待つのがいいだろう。
「なぁフィン大丈夫か?」
「え?ごめん?どうしたの?」
「なんかさっきから落ち着いてないから」
「そうかな?そう、だね…アキは魔王軍についてあまり知らないんだよね」
「うん?うん」
「魔王軍には魔王、そして直属の配下四天王と統括の五人。あと魔王の子が5人いるんだよね」
「おおうおう、なんかいきなり尊大な話だな。今回の件がそれと関係してるのか?」
「まぁこの場合魔王は置いといていいんだけど」
「いいんだそれで」
「僕たちが国境で出会ったのが魔王の子、次女万魔の皇竜テトっていう魔族。それと同等の存在がいるかもしれないんだよね」
そこまで話して難しそうな顔でアキは理解はしてくれてそうに質問を始める。
「魔王の子供であんな強さなんだろ?四天王はもっと強いのか?」
「四天王はどちらかといえば政務とかを担当してる魔族かな?統括は魔王の子並みに強いけどやっぱり王族だからね派閥があるんだよ、統括はその中でも穏健派…?にいるから大丈夫だよ」
リビリアが魔王殺してるの見殺しにしてるんだよなぁ…ある意味リビリアが一番過激派なのかもしれないから何とも言えないけど、書類上ではテトは仲間意識が強く。レアラは実験に没頭する変な魔族。ゴドーとギュスターヴは魔王になりたいなんて思ってはいないだろう。
うん。リビリアが一番過激派だ。とはいえアキにリビリアを敵視してもらうわけにはいかないからこのままでいこう。
「じゃあ穏健派を残せば戦争が無くなるのか?」
「えっとそれは…これは内緒にしてもらってもいいかな?」
「え、うん」
「戦争は人間側が起こしてるんだよ。魔族側が本気を出せばそれこそ人間は滅ぼせる力はあるはずだよ」
「そう、なのか…まぁそりゃそうか、テトってやつ一人でもあれだけ強かったんだから真面目に戦争してりゃ人間は負けるのか」
「今のは内緒ね?」
「うん大丈夫だよ、誰にも話さない」
アキにも広場にいたやつが誰なのか少しは気にしてもらっておいたから注意してくれるだろうけど…ナナシあたりが勝手に動いて死なれたら迷惑なんだよなぁ。
人間が国内に入ってるとわかれば国境攻めどころではなくなる。間違いなく魔王のいない無法地帯の戦争が起こるだろう。
それまでの間に早くリビリアに魔王になってもらうため万魔たちを殺さないと。
「そのさ…フィン」
「ん?」
「フィンは王城勤めでもしてたのか?」
「あぁ…商人だからさ情報には少し強いんだよ」
「そっか…」
さすがに教えすぎたのだろうか?でもアキにはこれから四人を倒してもらわなきゃいけないんだからできれば教えれる範囲のことは教えておきたい。
相手がわかればその分弱点になりそうなことは極力教えておかないと瞬殺されては困る。
「また今日もさ…」
「ん?あぁ、もう寝る?いいよ」
万魔の美貌をもって篭絡してみせる 空海加奈 @soramikana
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小説を書く君に/空海加奈
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 7話
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