第9話

「というわけで森を抜けて行くのが竜の目を欺きつつ魔領へ向かう手段だと思います」


 僕は朝食を済ましてる間にみんなに昨日の考えを述べるが、あまり良い顔はされてない。


「異論は…ない…」

「いやあるだろうが、俺たちじゃ太刀打ちできなかったんだぞ?」

「それよりもフィンはどうして魔領に行きたいの?」

「わかるー、この中で今言うのもなんだけどフィンちゃんが一番死にやすいんだよー?」


 ナナシには反論されるとは思ったけどむしろ逆で三人から否定を食らってしまった。

 どうしようか迷っているとナナシが顔を上げてこちらを見てくる。


「フィン…には…まだ秘策の魔道具があるのだろう…?}

「え?あぁ!はいあります!」


 どうして助け舟を出してくれたのか、それとも昨日のペンダント上げたのが好印象だったのかな。


「じゃあさー、それどんな効果なのか先に説明してくれないと作戦立てられなくないー?」

「フィンの手持ちはどんなのあるんだ?」


 正直何も考えてなかったからリビリアから預かったリュックの中身に賭けるしかなくなったが、まぁ使えそうなのは何かあるだろう。


「えっと、爆弾と…爆弾と…爆弾と…」

「爆弾しかないのか!?」

「あ、これとか使えるかも?透視の札!」


 有効範囲は狭いが10メートル先まで視界を物体を無視して確保できる代物だ。てかなんでこんなもの入ってるんだ?


「これはナナシさんに渡しておきますね」

「ありがたい…」

「あとは昨日もそうでしたけど竜の思考を鈍らせる魔道具が一応あります」


 リュックの中身をぐちゃぐちゃにしながらそれが何かを見せずに言っておく。さすがに能力をいうわけにはいかないし。


「あぁ、だから昨日攻撃が少し弱まったのか」


 アキが納得してるおかげでダルガンも違和感なく受け入れてくれている。


「それじゃあフィンちゃんが持ってるよりアキちゃんかダルガンちゃんが持ってた方がいいんじゃないのー?」

「こ、これは僕にしか使えない複雑な術式をしてまして…あ、姉の形見なんです」


 死んでないどころか恐らくぴんぴんしてるだろうけど。


「血統魔術か、珍しいもの持ってんだな」

「ダルガンさん何か知ってるの?」

「アキはそういうの知らないのだったか?血がつながってる者同士にしか使えないように施された術式であり、これがあれば魔力を使えない戦士も家族に魔術師がいれば魔法が使える」


 人間はそんなもの用意してたのか、ほぼ奥の手みたいなものじゃないか。魔族に蹂躙されるだけじゃなくてそういう工夫をしているのは関心するなぁ。


「では…竜が現れたときはフィン殿を護衛する方針でいこう…」


 あとは他に何かないかなと探してみると僕が昔お試しで作った魔道具があった。

 こんなもの入れた覚えはないのだけどな。効果はたしか瘴気を少し晴らす程度の効果だったはずだ。青い空が見たくて塔の中でどうにか作ろうと頑張った結果青い空を見ることが叶わなかったことを思い出す。


「これはアキにあげる」

「ん?これはなにかな?」

「効果はないようなお守りかな」


 勇者よりもヘレスかダルガンに瘴気対策したほうがいいんだろうけど、一番死んじゃいけないのが勇者だ。

 仮にこの旅で勇者が死んだらリビリアの元へ帰っても他の万魔との戦いで僕が役に立てることはないだろうし。


「ポーションはもうないのか?」

「あぁ?あぁ!ポーションは旅をしながら材料集めるので大丈夫!」


 そういえば薬師っていう設定だったな。

 もう別にばらしてもいい気はするけどヘレスの手前治癒魔法を使うというのも気が引ける。というより僕の治癒は応急処置だから寿命を減らしてでも即時回復のほうがいいだろう。


 僕の話が終わったところで旅の続きをどうするかについでの話に戻るのだけど。

 はっきり言えば僕自身もこのまま進めば危険の方が多いことは承知の上で進みたい。


「フィンは進みたいんだよね?」

「え?うん、アキはやっぱり反対?」

「うーん。正直守り切れる自信がないんだ」


 守るというと僕のことだろうか。ヘレスも言ってたが一番弱いのは僕だろうし。

 あまり人間に肩入れするとリビリアの作戦が狂ってしまうかもしれないが、テトに太刀打ちできなかった事実をちゃんと受け入れてアキに魔術を教えるのはどうだろうか。

 僕はあまり術式を行使できなかったがアキなら勇者としてなら術式を上手く使えるかもしれない。


 ただ…ナナシの目が気になる。ナナシが魔族の術式に詳しかったら僕が魔族だと断定して何をしてくるかわからない。


「フィン殿は…魔術は使えないのか…?」

「え?少しなら使えますけど…」

「それをアキ殿に教授すればいい…」


 ナナシの意図は分からないが僕に助け船が出たことだし、できる限りばれない程度の魔術を教えるようにすれば大丈夫かな。


「フィンはどんな魔法が使えるんだ?」

「えと、まず魔法と魔術は少し違っているけど…まぁいっか…僕の魔術は自然を多少操る程度の魔術かな」


 そう言って魔眼で魔力糸を紡いで術式を組み小さい風を起こして見せる。


「フィンちゃんすごーい!それって結構難しいんだよー?」

「そう…なんです?」

「吾輩にはわからんがすごいな!」

「教会でも魔術は習うんだけどねー、基本的に攻撃馬鹿しかいないから燃えしたり岩を作って投げたりとかだねー」


 多分魔族もそんなんですすいません。僕が才能ないからできることやっていたらこうなっただけとは言えない。


「それって俺にも使えるものなの?」

「僕の場合は使い方が特殊なだけでアキなら多分呪文を唱えるか魔術式を思い描けばできると思う?」

「ほへー、呪文から試してみるか」


 呪文に関しては僕はうろ覚えだったので覚えてる限りを伝えてみたが教えてる最中に火の玉が手のひらから正面に飛んで行った。


「すげー!けど疲れるなこれ!」


 みんなちょっと引いてるけど、僕もさすがは勇者としか思えない。


「他にもいろいろ教えてほしいな!」

「う、うん…教える必要あるのかな…?」


 森では火気厳禁ということで火以外の魔術を教えることになって、ついでに魔法も教えてみたら普通に使っていた。


 魔術は術式を組みこんだり編み込んだりすることだけど魔法は魔力そのものを具現化するものと言った説明をしただけで魔法のほうが疲れないと言ってアキは周囲に水の玉を十数個浮かび上がらせて見せてる。


「あちゃーこりゃすごい人が生まれちゃったねーフィンちゃん」

「ぼ、僕も正直予想外です…というかこんな才能あふれるだなんて羨ましい…」

「そういえばフィンちゃんアキちゃんには普通に話してるよねー?あたしたちにも普通に話していいんだよー?」

「あ、はい。えと、うん。」


 ちなみにダルガンも真似していたが何も発現しなかったことにしょんぼりとしていた。

 才能のあるなしももちろんだが才能がないものは魔術を極めることができるからダルガンにも使えそうな簡単な術式を紙に書いて渡しておいた。小さな火を灯す程度だが野宿の時に役立つだろう。


「しかしフィンさんは火打ち石を使っていなかっただろうか?」

「あはは、僕がその術式発動すると暴発しちゃって…」

「暴発…危ないものでもあったのか」

「ダルガンちゃん大丈夫よー、暴発は魔力量があるってことだからコントロールできない魔力量をフィンちゃんが持ってるだけだから」

「そ、そうか…吾輩はそれを喜んでいいのか…まぁ喜ぶべきなのだろうな…?」


 森に入ってから魔物の気配が魔眼を通しても見渡すことができない。ある意味異常だ。

 斥候はナナシに任せてるからという安心感もあるがそれにしてもどうして魔物がこんなにいないのだろうか。


「ナナシさんいますか?」

「どうした…?」

「うわっ!」


 どこから現れたのか目の前に急に現れてびっくりした。この人こんな速く動けるんだ。


「森だと動きやすい…」

「あ、そ、そうなんだ?えと魔物が見当たらないのが不自然じゃないか確認したくて」

「そう思い…探してるが、恐らく竜が飛び回っていたから住処に潜んでる可能性が高い…」


 そうか、魔物からしても竜は畏怖の対象なわけだし大量に現れれば危険視もするか。


「それじゃあ今のうちにできる限り移動したほうがいい…?ってことでいいですか?」

「同意見…」


 アキ達にもナナシとのやり取りを説明して魔法と魔術の鍛錬は一旦休んで歩みを早めることにして暗くなり始めたときにダルガンが乾いた木々を集めて集中し始めてる。


 多分魔術を使いたいんだろうなぁとぼーっと眺めていたら少しずつ煙が出てきてみんなで拍手した。


「わ、吾輩も魔法が使えた!使えたぞー!」

「「「「おめでとう」…」ございます!」」


 ダルガンはそんなに嬉しかったのかずっとにやにやしながら火を見ていた。

 僕も昔はこんな風に一喜一憂して魔術を行使していたのかな。


 でも思い出すのは淀んだ空に向かって瘴気をどうにかしようとしてた記憶ばかりで、書物をあさって魔法を使おうとすれば暴発するばかりだった。

 結局主に使える魔法は魔眼や一般的な物くらい、魔術もわざわざ魔法で作った魔法糸で術式を作らないと発現しないなんていう手間のかかりようだ。


 魔力をそのまま術式転換する方が発動効率も速さも勝ることから僕は大抵の魔術師に劣るのはわかってる。

 ただ、戦うために。今まで考えたことがなかったから少しは戦力になるために新しく魔術を作るのもいいかもしれないな。

 ダルガンの喜んでいる姿を見ていると自然と頑張れそうな気がする。


 夜が明けるまでダルガンは火を見ていて少し心配だが、斥候のナナシがいれば注意力は多少なくても大丈夫か。


 ん…心配?


 いや、そりゃ戦力だもの心配くらいするか。


「フィンどうしたんだ?」

「ん-ん、なんでもないよ。ただこれから先のことを考えていただけ」

「フィンはいつも先の事を考えてるな。すごいよ」


 実際問題魔領にはすでに入ってるのだ。木漏れ日といえるほどではないにしても淀んだ太陽の木漏れ日がそれを示している。


 あとは都に入る方法だが人間だとばれないようにする方法も考えないといけない。

 前線都市アデルバ。魔族の中でも野蛮な類がはびこっている分問題行動を起こさないようにしないといけないこともあるし。

 国境にいたのはテトだったが本来はゴドーかギュスターヴがいるはずだったのだからどちらかがこの都にいるはずだ。


 暗殺を最初に考えるが相手がゴドーだった場合暗殺は無意味だろう。万魔の壁の名は伊達ではない。暗殺すら跳ね返して見せるだろう。

 ギュスターヴは逆に先手を取られたら僕たちの内誰かは即死に至るだろう。


 となれば早めにリビリアと連絡を取って作戦を練った上で共同戦線を張って始末するのが無難か。


「フィンちゃーん、森ばっかりで疲れたよー」

「あはは…森もいいことはあったりするよ?ほらあそこに生えてる果実とか」

「え?あれ食べれるの?」

「うん、2時間くらい体が痺れて動けなくなるけど美味しいんだよ」

「あーえー…うん!フィンちゃんはもっとちゃんとしたもの食べようねー?」


 人間だと4時間くらいは痺れちゃうかもしれないけど美味しいのにな。

 でもそうか、人間の脆さを考慮してなかったな。それなら都に近いことを考慮したら湖が近くにあった気がするけど…ナナシに聞くか?


「ナナシさんいますか?」

「どうした…?」

「相変わらず目の前に急に来るんですね…近くに湖とかないですか?」

「…あるが…水があるところには魔物が近寄りやすいのではないか?」

「その湖は大丈夫のはずです。飲めば腹痛を起こしますし体に触れれば肌荒れしちゃいますけど煮沸すれば普通に飲めるようになるので」

「…そのまま進もう…魔物がいつ活発化するかもわからない…」


 おかしいな。人間は水浴びが好きと聞いたんだけど。ヘレスもいるのだし肌荒れも治せるはずなんだけどな。

 それとも僕が怪しいように思われたのかな…失策だった。たしかにこのあたりの地形に詳しかったら疑われてもおかしくはないか…もう少し発言には注意しておこう。


「アキちゃん…フィンちゃんてどんな生活してたんだろうねー」

「薬師だからいろんな知識を持ってるんだろう…とはいえさすがに辛い生活をしてたんだろうな」

「魔法の知識も豊富であったからな。そうでもなければ生きてこれなかったのであろう」

「あれは…多分天然じゃないか…?」


 あ、果実だ。あれはたしか毒だったな。けど美味しいんだよなぁ。

 毒消し持ってたらみんなにも食べさせて上げれたんだけど、待てよ?毒消しの魔法をアキに教えれば無害に食べ放題なんじゃないかな?あとで教えてあげなきゃな。


 森の数日の旅路もようやく終わりを迎えるころにはなんとか都までの道筋が分かってきたので安心しつつ向かう。

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