第4話

「お前、朝までここにいたのか?」

「おはようございますダルダさん」


 なぜか呆れられたような視線を感じるがお金はできる限り大事にしておきたいし、なんかここにいても周りで普通に露店を開いたまま寝てる人もいるからいいかなと思った。

 さすがに冬は宿に泊まらないといけないだろうけどリビリアが急がないとって言ってたから冬が始まる前には勇者の旅立ちがあるだろうと思いたい。


「ほれ、これが看板だ。昨日の治療代な」

「おー、これで僕も商人ですね」

「商人ていうか治癒師になるんだが…まぁ似たようなもんか」


 身をきれいにする術式は発動したし臭いとかもないはずだから今日は少しでも儲けれるかもしれない。あとは客足がどれほど来るかだけど、少しずつ人が増えてきているがどうにも僕のところに来る人はいない。


 隣のダルダさんを見てみるが客も来てない中案外普通にしてるのであまり売れなくて当然なのかもしれない。


 のんびりと過ごしているとこちらまで血を垂らしながら歩いてくる兵士?が来てるのが見えた。

 これは初めての客かもとわくわくしてると僕の前を通り過ぎて奥の方へ進んでいく。


「ダルダさん、あっちの方に何があるんですか?」

「あん?教会だな。まぁあんだけ深い傷してたらポーションで治せないと思うだろうな」


 そんなものなのだろうか?魔領のポーションは味はともかく効力はたしかなんだけど

 向かった先を見てたら途中で血反吐と一緒に倒れこむ兵士を見て、これはもう死ぬだろうなと思ってまた空を見てたらこっちに近づいてくる人が来た。


「すまない、その、ポーションを少し譲ってくれないだろうか?代金は後で必ず払うから」

「いらっしゃいませ、何本お買い上げになりますか?腰の痛みとかはこちらがいいですし―」

「見てわからないのか!大けがをしてるんだ!」


 よく見たらさっきの兵士を担いでた人か、別に人間がここで一人死んでもいいんだが…。


 まぁでも代金を後で支払ってくれると言うし、怪我の状態をみてやるか。

 ポーションという名の水を持って怪我人の近くまで行くと肺がやられているのが見てわかる。

 ただ回復魔法こと寿命を削る魔法を使える人間は教会にはいるはずだし多分間に合うとは思うのだが…。まぁ良いか。


 魔眼で内部まで見ると、恐らく呪いの一種が混じってる。これは恐らく魔物が自分の命と引き換えにこの兵士に死の呪いを付与したのだろう。

 そこらへんの魔物程度の死の呪いなんて大したことはないだろうけど怪我も相まって恐らく傷の治りが悪いのだろう。


「勇者様のご加護がありますように」


 そう言って傷口に水をぶっかけながら、肺に関しては応急処置で魔力糸で塞いでおいて死の呪いは僕の魔力を流した時点で消えるだろう。あとは傷だけど…まぁ放置しても2日は持つだろうからそのまま教会に連れて行けば寿命を減らして回復するだろう。


「これでいいですか?」

「あ、あぁ!ありがとう!明日には必ず支払いにくるから!」


 元の位置まで戻ると段々と人が近寄ってきて、腰が痛いだの風邪気味だのと言い始めてポーションを買って飲んでくれる人が増えていった。


「良かったな。さすがにこのままだと俺がお前のポーションで回復する真似するところだったぞ」

「そうなんですか?まぁ、とりあえずしばらく暮らせるお金さえあればいいので大丈夫ですよ?」

「欲がねえなぁ!」


 用意していたポーションは売り切れたので夕方には何事もなく終わり、どうしたものかと考えていたらダルダさんが宿屋の場所とか料金を教えてくれたので、せっかくなので泊まりに行くことにした。


 泊まるといっても僕は別に1か月は睡眠をとらなくて良いし食事も取らなくていいんだけど人間ぽくするにはこうしたほうがいいのだろう。

 一人部屋で食事不要で質素なベッドで窓を開けてみるがここに魔力総量が多い人間はいないし勇者らしき強者の気配もない。


 窓を閉めて、明日に備えて服装を変えてみたり横になって魔眼だけは開いておく。


 特に何事もなく朝になったので荷物を背負っていつもの場所に座り看板を立てているとダルダさんもあくびをしながら隣にマットを敷いて品物を取り出していく。


「ダルダさんってその変な物売ってどうするんですか?」

「お?これは精霊の枝とか照らす道を示す石とかだな」


 魔眼で見た限りそんな能力はないはずなのだが、それにしてもなんだかんだダルダさんの売れ行きは地味に良さそうで二束三文で売ってるみたいだし祈祷書がぼったくり…いや寿命を減らすとかいうデメリットを考慮しなければ妥当な値段なのかな?


「それより嬢ちゃんはいつまでポーション売るんだ?」

「んー、僕にもわからないんですよね。ダルダさんて勇者って知ってます?」

「そりゃ知ってるさ、魔王を倒すために選ばれた勇者って言ったら知らない奴はいないだろ」

「勇者を探してるんですけど、なかなか見つからなくて」

「こんなところにか?まぁ、いる可能性はあるのか?昨日の兵士にでも聞いてみたらどうだ?」


 そうか、人伝に聞くことは別に悪いことではないか。

 実際人混みの中を魔眼で見ていても特別な何かを感じる人間は一人もいなかったわけだし、兵士とか国、最悪教会にいる可能性もあるわけだし。


 ポーションもちまちま売れつつ、中には持って帰りたいという人もいたが効力がなくなると言ったら落ち着いてくれたりはしたが人間の面倒くささに若干疲れながらダルダさんと適当に談笑してると昨日の兵士が来てくれた。隣には怪我をしていた兵士も一緒だ。


「やあ薬屋さん、昨日は本当にありがとう」

「いえいえ、元気になったようでよかったですよ」


 ポーション代も頂きつつ勇者の話を聞こうと思って声をかけようとしたら


「お前ら!怪我人なんだから大人しく病室にいろよ!」


 僕の魔眼が危険だと告げている。

 黒髪に黒い瞳、好青年と言えばいいのか、鎧が似合ってないところを見るに幼く見えるが…実年齢が見た目と違うというのは魔族ではよくあることだ。


「わるいわるい、でも昨日この子のおかげで助かったからお礼をな?」

「そう、なのか?てことはポーション!ポーションを売ってるっていう子って君なの?」


 何かを喋っているがあまり耳に入ってこない、なんでこんな危険人物が平然としてるのだろうか。

 魔力総量は万魔に比べたら大したことはない、ただその濃密な魔力がただ火を灯すだけで大きな火の玉となって出てくる程度に濃密な魔力が恐ろしい。


 リビリアめ、これを僕が御せると本気で思ってるのか?

 しかしリビリアの言った通り、こいつなら万魔の連中を根絶やしにすることすらできるかもしれない。


「おい?大丈夫か?」

「うわっ!」


 考え事に集中しすぎて目の前にいたことに気づかなかった。


「おいおいアキ、可愛いからって近づきすぎだろ」

「そ、そんなんじゃねえよ!」


 アキ…こいつの名前か?

 そしてダルダよ、まるで僕が恋してるみたいなにやけ顔はやめろ、これは恐怖の顔だ。


 いや、待てよ恋…恋か。今こいつは兵士と仲良くしてるし国に仕えてる可能性はある。となれば恋する僕がこいつに近づくというのはありえてもいいのではないか?


「えっとポーションって買ってもいいか?」

「え?あの僕のポーションは時間が経てば効果がないんです…」

「そうなの?ポーションてもっと万能なのかと思ってた」


 僕も知らん、実際ポーションじゃないしな。


「その子のポーションは特別性っぽいしな仕方ねえさ」

「エリクサー的な?」

「えりくさー?」


 多分流れ的に薬の名前か何かなのだろうけど聞いたことのない薬品名に思わず首を傾げてしまった。

 でもこれはチャンスでもあるはずだ、近づくのに理由があれば不信感も持たれにくいだろう。


「あの、薬が必要なんですか?」

「ん?あぁそういうわけじゃないんだけどいざというときにあったら便利だろ?念のためってやつだな」

「それじゃあ僕が一緒についていきましょうか?」


 直球すぎたか少し驚いた顔をされてしまった。そしてダルダは口笛を吹いて茶化すんじゃない。


「嬉しいけどさ、君には君の生活もあるだろ?」

「僕に親はいませんし家もないのでむしろ助かります。人助けと思ってどうでしょうか?」


 ここまで言えばどうだ勇者様、困ってるやつがいれば助けたくなるっていうのが僕たち魔族の勇者の共通認識だ。


「えと、どうしたもんかな…」

「回復役がいて困ることはねえんじゃねえの?教会から来る奴は大金ないと仕事しねえしさ」

「そっか…まぁお互いに困ってるもんな、えと、名前聞いてもいいか?」


 この場合偽名を言った方がいいのか、いやどうせ隔離されて幽閉されていた身だ。万魔でもレアラとゴドー、リビリアくらいしか僕の名前を知らないだろうし、見た目もリビリアとフィブラくらいにしか覚えられてないだろう。


「フィンと言います。勇者様」

「聞いたかアキ!お前の事を勇者だとよ!」

「え!?いや、俺はただの兵士だから勇者とかそんなんじゃないからね?ね?」


 ふむ。勇者として自覚してないのか?はたまた正体を隠してる?できれば出生などを知りたいところだけどまだ踏み込むべきではないだろうしここは少し引いて時を見て聞くとしよう。


「はい、アキ様。誠心誠意ご奉仕しますね」

「あのぉ、いや普通のだよね。うん、なんかよろしくお願いします?」


 ここでダルダの役目も終わりだろう。殺しておくか?

 いや…さすがにすぐに殺せば事態が大きくなるか。どうせならこの勇者を万魔のところへ導く際に処理しておくのがいいだろう。


「えと、フィン。男ばっかりだからむさくるしいかもしれないけど個室用意してもらえるように頼んでみるからな」

「僕は別にアキ様の部屋でも大丈夫ですよ?」

「それは色々俺がやばいからやめておこう?な?」


 うーん、この反応万魔の美貌が発揮しているのだろうか?いやフィブラの時は命令したら叶えるように動いていたし効いてないのか

 試しに隣にいるやつに少し声をかけてみるか


「あの…」

「ん?どうした?」


 僕は長く目が隠れる髪の毛を少し指で瞳が見えるようにして魔眼も発揮して言葉にする。


「少しアキ様と二人きりにしてほしいのですけど」

「あ、あぁ分かった!任せてくれ!アキー!俺ちょっと飲み屋のほうに行ってくるわ!」

「おい!仕事はどうすんだよ」

「大事な要件なんだよ!」


 ふむ。リビリアの術式で軽減されてるとはいえちゃんと効力はあるらしい。ということは魔眼で見えないほどの魔法障壁を勇者が周りに展開してる?

 万魔と争わせるとなったら術式を解除してお願いするのが良さそうだ。


 アキはどうしたんだろう?と疑問を抱いてるようだが…僕がそうしたとは気づいてもいない。

 もしかしたらアキは魔法関連に詳しくないのだろうか?それはそれで僥倖だが、万魔の知識レアラは魔術の権化ともいえるやつだから少しは教えていかなくてはいけないかもしれない。


 色々試したいことはあるけれどそれよりも親密になることも優先なので大人しく後ろへついていくと城のほうへ近づいて行ってる。


「アキ様はこの国で働いているのですか?」

「まぁ、そうなるのかな?近辺で冒険者ギルドで稼いでいたんだけどそれよりも給料の高いお城で募集があったからそこで採用されたんだよ」

「ではアキ様はお金のためならなんでもするんですか?」

「そういうわけではないぞ?さすがに人殺しとかはしないかな?魔物専門って感じだ」


 じゃあ大丈夫か、魔族は人間ではないし。人型のもいるけど根本的に魔族は魔力生命体だから人間とは呼べない。人間だと言い張るやつも一定数いるが些細な問題だろう。


「アキ様、僕がお金をだしたら魔族を倒してくれますか?」


 片目を見えるように懇願する形で頼んでみるがどうにも渋った顔をされてしまった。露骨すぎたか?


「俺は…その小さいころさ、魔族に助けられたことがあるんだ。だから悪い奴ならいいんだけど魔族にも悪い奴ばかりじゃないっていうか…ごめんな上手く言えなくて」

「いえ、僕も魔族には人間と同じ良い魔族悪い魔族がいることは知ってますので」

「え?そうなの?」

「はい。アキ様は知らないかもしれませんが僕の髪色や瞳は忌み嫌われるものなんです。その中で助けてくれた魔族がいたんです」


 もちろん嘘だ。忌み嫌われるといっても人間から嫌われることはあっても魔族からはほぼ監禁状態だった僕がそういう嫌われるようなことなんてほぼない。

 実際は嫌われていたのかもしれないがリビリアの話では危険だから隔離していたようなものだし嫌われてるとは違うだろう。


「そう、だったんだな。俺の気持ち分かってもらえて嬉しいよありがとうなフィン」

「いえ!アキ様が心優しい方でとても安心しました」


 迷惑なやつだ。憎しみでも持ってくれればいくらでも魔族を紹介してやったのに。

 でもまぁ、こんなお人よしみたいなやつに限って感情をうまく誘導してやればなんとかなるだろう。リビリアに協力要請を頼むか。


 適当に雑談をしていると前方から鎧を着た兵士が現れてアキが畏まった姿勢をするものだから僕も一緒になって姿勢を正すと視線を感じる。


「アキ、そいつは…」

「この子は薬師です。ヒーラーがいない俺たちの軍には少しでも必要かなと思い本人の意思も尊重して連れてきました」

「そう、か…男ばかりのとこだから個室はお前が用意してやれ」

「はい」


 なんだあの無駄に偉そうな雑魚は。アキなら剣を一振りで真っ二つにしてやれるだろうに…それとも利用価値があるのか?


「アキ様?」

「ん?」

「アキ様はもっとすごい人なんですから自信もっていいんですよ?」

「あはは…どうだろうね。俺は別に目立ちたいわけでもないし」

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