第13話 果てなき輪舞

 まるで、脚に重しをつけられ、泥沼に放り込まれたかのようだった。

 咲久弥の意識は、そんな悲惨な状況から、どうにか浮上したのである。

 ふと目を覚まして、そこが、私室にして医務室であることに気づいた刹那、咲久弥は、シーツに爪を立てながら咽び泣いたのだった。


「昨夜はよく眠れなくて……体の調子がすぐれません」

 咲久弥は毎朝、山田のオフィスに出向いて、問診を受けることになっていた。

 医務室が私室と化したため、オフィスで体調をチェックされるというのは、些かあべこべな話ではあった。

 実のところ、咲久弥は、睡眠不足というより、凄まじい悪夢にうなされたのだが、そのことを口にするのは憚られたのだ。

「そうか。じゃあちょっと、服の前をはだけて」

 そんな山田の指示に従って胸元を露出することすら、今朝の咲久弥には苦痛だった。

 山田は、元々医師である。手慣れた様子で聴診器を駆使した後、二度ほど頷いた。

「射精を行うことに支障はないだろう。よろしく頼むよ」

 山田は、屈託のない笑顔で、咲久弥の手に容器を押しつけたのである。

 咲久弥は悟っていた。山田が関心を寄せているのは、咲久弥自身ではなく、彼の精液や血液に対してなのであると。

 そんな山田に、悪夢の内容を打ち明ける気にはとてもなれず、咲久弥は、彼のオフィスを辞したのだった。

 廊下を歩きながら、窓越しに中庭を見下ろせば、人狼の戦闘員たちが張っているテントが目に入った。

 テントの外には、四號らしき後ろ姿も見て取れた。

 咲久弥はこれまで、どんなに辛くとも、その時できることには取り組むという姿勢で生きてきた。もっともそれは、主にシミュレーションの世界で培われた精神だったが。

 今日も、射精を試みてから、素晴や四號と合流して、日課をこなすしかないのだろうか……

 咲久弥は、大きな溜め息を吐きつつ、医務室へと入り、後ろ手でドアを閉めようとした。しかし、不思議なことに、いくら力を込めても、ドアはびくともしなかったのだ。

 振り向いた咲久弥が見たものは、灰色の人狼の巨躯だったのである。

 声ひとつ上げる暇もなく、咲久弥は、腹に強烈な膝蹴りを食らって、吹き飛ばされてしまったのである。


 咲久弥は、くぐもった悲鳴を漏らしたが、言葉は紡げなかった。罵声を浴びせることも、やめてくれと乞うこともできなかった——きつく猿轡を噛まされていたから。

 脚の間に不穏な肉塊を押し当てられた刹那、せめて体をずり上げて躱したかったが、それすら叶わなかった——すらりと長い彼の両脚は、引き裂かんばかりに大きく広げられて、双つの引き締まった足首は、別々の柱に縛りつけられてしまっていたのだから。

 咲久弥の裸体は、ねっとりと舐め回されようが、肉を抉るごとくに揉みしだかれようが、熱く硬く猛り狂う男根に押し入られようが……なす術もなくされるがままの玩弄物へと貶められたのである。


 猿楽の一座は、とある村の長者に、思わぬ長逗留を依頼された。

 長者には、病み上がりである、幼い一人娘がいた。双子のねねとののが、その遊び相手として、丁度良いからということだった。

 一座の白拍子たちは、近く開催される村祭りで舞を披露することになった。ただし、踊り手は女子おなごに限るというのが、村側の要望だった。

 その間、軽業師たちは、民家の屋根を葺き替えるという、意外な仕事を得たのである。

 一座の者たちが、ほとんど出払った中、咲久弥は、ねねとのののお目付け役として、長者の屋敷に留まることになった。

 咲久弥が、三人の幼女たちによるお手玉遊びを、微笑ましく見守っていたところ、庭から下男に声をかけられたのである。

「咲久弥さん、ちょっとばかりこちらへ。手伝ってほしいことがありまして……」

 柔和な笑顔で、揉み手しながら頼まれたのである。

 咲久弥は、すぐに応じて、庭へと下りた。童たちに、「いい子にしておいで」とだけ言い残して……


 ところが、庭を歩いて、角を一つ曲がったところで、笑顔だった下男が豹変したのである。

「下賤の者よ、用を足せ」

 下男は、やおら咲久弥の腹に、小刀を突きつけたのだ。

「逆らうなよ。あの双子を犬の餌にされたくないならな」

 別の下男に背後を取られて、羽交い締めにされてしまった。

 ねねとののを人質に取られた以上、ここで風の妖術を駆使することは、咲久弥には躊躇われた。

 しかし、下男ははっきりと「用を足せ」と言ったのだ。このままでは、男二人がかりで体を弄ばれてしまうに違いない……

「酔!」

 咲久弥は、自分を羽交い締めにした男の顔へと掌を向け、呪文を唱えたのである。

 もしも、もう一人の男が現れて、咲久弥の手首を捻り上げたりしなければ、背後の下男は眠りこけてくれただろうに。

「こいつは、風の妖術を使いますぜ。おそらく、妖の血を引いてやがるんでしょう。なあに、手を縛って口を塞いじまえば、どうということありませんがね」

 咲久弥は、愕然とした。

 なんと、彼の手を捻り上げたのが、一座の仲間であるはずの大男——吾兵衛だったからである。


 咲久弥は、土蔵の中へと突き飛ばされて、猿轡を嚙まされた。

 そこは、昼間であっても薄暗かった。

 しかし、手荒に衣服を剥ぎ取られて、仰向けに押し倒された少年の裸体が、このうえなく白く滑らかであるということを、明り採りの窓から射し込む陽光が、容赦なく暴き立てていた。

 少年は、両腕を後ろ手にきつく縛られたため、はからずも胸を反らして見せつけるような格好となった。

 さらに、長い両脚を引き裂かれて、それぞれ別の柱に縛りつけられたことで、引き締まった小ぶりな尻は、少しばかり宙に浮かんで、絶好の見せ物と化したのである。

 吾兵衛は、下卑た笑い声を零しながら、咲久弥の右足の親指に、可愛らしい鈴なぞ結びつけたのだった。


「では、妖魔調伏ようまちょうぶくの儀式を始めようか」

 土蔵の薄暗がりの奥から、墨染めの衣を纏った捕食者が現れた。

 それは、決して妖ではなく、人間の、旅の坊主だった。彼は、長者の一人娘の病を、祈祷によって癒したことの見返りとして、美少年の肉体を所望したのだという。

 それこそが、咲久弥が、無理矢理にこの土蔵へと連れ込まれた理由だった。

 そして、妖魔調伏などという口実を入れ知恵したのは、吾兵衛以外に考えられないだろう。

 坊主は、墨染めの衣を翻して、咲久弥が閉じることすら許されぬ、両脚の間に陣取った。

 はじめに、宙に浮かんだ尻を、そして、窓越しの陽光が照らし出す胸元を、焦らすようにゆっくりと鑑賞したのである。

 少年の顎を掴んで、その容貌も吟味した。

 咲久弥は、類稀なる翡翠色の瞳で、懸命に睨み返した。震えてしまうことを禁じ得ない自分に腹を立てながら……

「さて、どこからどう調伏したものか……」

 捕食者にとって、少年を屈服させることは、決定事項だった。その美貌が散るどころか、狂い咲くまで、玩弄の限りを尽くしてやるまでだ。

 やはり、けしからんと思うのは、少年の胸に息衝く双つの実が、未だ小さく色づいてもおらず、慎ましいことだった。これからどんな目に遭わされるのか、わからぬわけでもあるまいに……

 捕食者は、口の端を吊り上げた。

「おのれ、妖め! かようにして人を誑かすか!」

 いかにも坊主らしい口調で、高らかに因縁をつけるや、咲久弥の胸の双つの実を、力任せに抓り上げたのである。

「ぐぅっ、んーっ……」

 美貌は歪みながら背けられ、くぐもった苦悶の声が、猿轡越しに滲み出す。

 理不尽な痛みに戦慄きながら、無防備に晒された首筋が哀れだった。

 坊主は、その首に舌を這わせて、甘噛みした。いっそ食いちぎってやったほうが、少年は楽になれるだろうにとほくそ笑んだ。

 坊主は、いよいよ、咲久弥の小ぶりな尻を、両手で引きちぎらんばかりの勢いで揉みしだいた。そして、その奥に潜む蕾に指をかけて、強引に抉じ開けたのである。

 どうせ散らし尽くされる蕾を、丁寧に馴らしてやるような情けなど、微塵も持ち合わせていなかった。

 猛り狂う男根に押し入られた刹那、切り裂かれるような痛みが、咲久弥を襲った。翡翠色の眼は、ひび割れたように見開かれ、美しくも虚ろな涙が、とめどなく流れ落ちたのである。

「ああ……おまえの柔襞が、天衣てんえのごとく纏わりついてくるぞ……」

 坊主は、咲久弥の涙をねっとりと舐め取ると、耳の穴にまで舌先を捻じ込み、熱く囁いたのである。

 苦痛に耐えかねた咲久弥の身悶えすら、坊主を悦ばせただけだった。

 美しい少年が、絶え絶えの浅い呼吸しかできずにいる様もまた哀れだった。

 そして、坊主は、咲久弥の内奥を、強かに打ち据えるかのように、「妖魔調伏! 妖魔調伏!」と唱えつつ、情け容赦なく腰を振りたくったのだった。


 随分と長い時間をかけて、坊主の男根がようやく爆ぜた頃、翡翠色の眼は焦点を失い、少年の美貌から、散り初めの絶望が濃密に香り立った。

 その胸元は、左右からにじり寄った下男たちにより、すっかり苛め抜かれていた。

 人の姿をした蛭たちのせいで、赤くぷっくりと膨れ上がり、ぬらめく歯型まで刻みつけられて、実に淫靡だった。

 坊主は、墨染めの衣の袂で、そんな胸元を撫でさすり、美少年の白い喉元が引き攣れ、白濁に塗れた内奥の柔襞が引き絞られる様を楽しんだ。

 そして、吾兵衛は、指を咥えて見ていた。咲久弥の足首が縛りつけられた柱のそばで、その足指を一本ずつ口に含みながら、責め立てられる美少年を見物していたのだ。

 咲久弥は、ただ解放されることのみを切望していたが、その願いは、粉々に打ち砕かれた。

 その後も、勇んで衣を脱ぎ捨てた坊主だけでなく、下男たちや吾兵衛までもが、かわるがわるに、少年の内奥へと押し入り、暴虐の限りを尽くしたのである。


 咲久弥は、体を休める暇すら与えられぬまま、とっぷりと日が暮れてもなお玩弄され続けたのだった。

 男たちの毒牙の、絶え間なき摩擦や放熱が、なす術のない素肌や粘膜を浸潤して、少年の正気に揺さぶりをかけるのだ。

 いつしか、全身がじゅくじゅくとした傷口と化したかのように、少年の裸体は敏感となっていた。

 猿轡越しに漏れる声も、ただ苦しげなばかりではなく、次第に艶めかしさを帯びてゆく。

 そしてついに、咲久弥の裸体が弓なりに反り返り、その足指が扇形に広がる瞬間が訪れたのである。

 栗の花が咲き乱れたかのごとき臭気が立ち込めた土蔵の中で、彼の右足指に結びつけられた鈴が、場違いなほど涼やかに鳴り響いたのだった……

 そんな瞬間が訪れたのは、決して、一度や二度のことではなかった。

 咲久弥は、必死にこらえようとしたが、男たちに寄って集って、ズブリ、クチュリ、ゴリュリと突き崩されてしまったのである。

 猿轡越しであっても、甘く甲高く鼻にかかった悲鳴が、長く尾を引くように迸った。

「やはり、流浪の民だな。もっともっと歌うが良い!」

 坊主の汗と涎が、ぼたぼたと降り注いだ。

 そして、咲久弥の「歌」は、捕食者たちの動きを、一層激化させただけだった。

 体の自由が利かぬ中で、咲久弥の魂は、泥沼をのたうち回った。

「咲久弥よ、俺はいつの日か、おまえのことを滅茶苦茶にしてやりたいと夢見てたんだ。おまえも……こうされたかったのだな」

 順番が回ってくるのを待ちかねて、咲久弥の裸体にむしゃぶりつきながら、吾兵衛は、してやったりと笑み崩れた。

 咲久弥は、世を儚み、涙した。


「素晴、咲久弥とは、まだ合流していないのか?」

 彼の私室を訪れた四號は、開口一番、そう言った。

「ああ、今朝はまだだよ。だって……あいつには、があるだろ? 朝は、こっちからは声をかけづらいし、咲久弥のほうから来てくれるのを待ってんだ」

 素晴は素晴なりに気をつかっているのだ。今日は、咲久弥がちょっと遅いこともあって、備蓄食料の中から、レモンティーを持ってきたりもしていた。

「いいか。俺の仲間たちが、四人とも見当たらない。早々に探索に出掛けたのかと思ったが、探索時に携行するはずの荷物は、テントの中に残されているんだ」

 素晴は、晴天色の眼を見開いた。

「あいつらまさか……」

 軍事用の人狼たちは、これまでにも、咲久弥への敵意を露わにすることがあった。山田博士にも釘を刺されていたはずだが、まさか、咲久弥に何か悪さをするつもりじゃ……

「思い過ごしならいいんだが」

 四號もまた、素晴と同様の危惧を抱いたらしい。

 二人は、上階にある医務室へと向かうべく、駆け出したのだった。


「おい、咲久弥! 俺だ! いるなら開けてくれ!」

 素晴は、医務室のドアを乱打した。実は、ドアを開けるための最新の暗証番号は、わざわざ咲久弥に訊かなかったのだ。

「どうかしたか?」

 ドアは、すんなりと内側から開かれたのだ。灰色の人狼——一號の手によって。

 一號は、素晴には淡々と接したが、その後ろに立つ四號には、些か棘のある視線を向けたのだ。

「同志よ。我々四名は、高尚な芸術を嗜んでいる真っ最中だ。今からでも、こちら側に加わるか?」

 一號が立ち位置を変えると、その後ろで、二號が、高々と「芸術品」を掲げたのである。

 それは、咲久弥の裸体だった。

 咲久弥は、ひどくぐったりとして、顔を伏せていた。猿轡を噛まされたうえ、頭上で両手を縛られていたのである。

 二號は、咲久弥の交差した両腕を掴むや、その白い裸体を、片手で軽々と持ち上げて、一幅の掛け軸であるかのように見せびらかしたのだ。

 咲久弥の首筋には、噛み傷が刻まれて、胸から脇腹にかけては、爪痕が走っていた。

 三號が、咲久弥の胸を摘み上げ、五號が、その股間のか細い陽物を扱くと、傷つけられてなお白い裸体は、ぴくり、またぴくりと戦慄したのである。


 四號からの急報を受けて、山田が医務室に駆けつけた時、軍事用の人狼四名は、既に姿を消していた。ただ、五號の右腕が食いちぎられて、床に転がっていたことを除いては……

 素晴は、口の周りばかりか顔中を鮮血に染めて、立ち尽くしていた。

「その姿のままでやったのか? 軍事用人狼の腕を?」

 山田は、尻尾を生やした人間の少年に目を丸くしつつ、大きな溜め息を吐いたのだった。


「同志たちよ、離脱するぞ。我々はもはや、山田一雄の指揮下にはない」——五號が負傷した後、一號がそう宣言して、四名が立ち去ったということは、四號の口から山田の耳にも入っていた。


 山田が、次に目を向けたのは、卓上に転がった容器だった。

「ああ、ノルマは果たしてくれたようだね、咲久弥くん」

「自分でしたわけではありません! 人狼たちに……尻の穴に指を入れられて……」

 咲久弥の証言は、消え入るように途絶えた。彼は、引き裂かれた衣服のかわりに、予備の病衣を纏って、部屋の片隅で椅子に腰掛けて、自分で自分を抱いていた。

「なるほど、前立腺を刺激されたわけか。射精を促すには合理的な手技だな」

 六つの視線が、山田を射抜いた。

「おい、博士! ベッドやカーテンを見てみろよ、ズタズタだろ? 咲久弥は、風を使って抵抗したんだ。そんくらい嫌だったのに、無理矢理されちまったってことだろーが!」

 素晴は、全身に装填するように力を込めながら、声を荒げたのである。

「はあ……見事にズタズタだね。物資の調達は、困難を極めるというのに……」

「おい、おっさん! 咲久弥の気持ちを考えやがれ!」

 素晴の口調のたがが外れた。

「気持ちだと? そんなにお気持ちが大切だというのなら、きみたちは、まずは僕のことを労るべきだろう! 分身たちに理不尽に離反された、この僕のことを!」

 山田は、そう言い放ってから、咲久弥を睨みつけた。

「咲久弥くん。そもそもきみは、決定的な性的暴行は受けていないはずだ。なぜなら、あの人狼たちは……」

「ええ、やつらは去勢されていましたよ。その事実を見せつけられました」

 去勢された人狼たちは、恨み言を並べ立てながら、去勢されていない咲久弥に危害を加えたのである。

「そうとも! 彼らは軍事用だ。そして、人狼は人間と交雑可能なのだ! 去勢しておかなければ、輸出先で無断で劣化コピーが大量生産されて、商品価値が暴落するのが目に見えていた! 去勢は、至って合理的な処置だったのだよ!」

 山田は、自身の正当性を吠え立てた。


「マスター、俺もかつて、軍事用のマインド・コントロールを施されていた当時には、去勢された事実に疑問を抱くことはありませんでした。しかし、オメガ・パンデミックを境として……」

「口を慎め! 四號! マインド・コントロールを継続できなくなった原因は、あくまで物資の欠乏だ! 断じて僕の落ち度などではないのだからな!」

 山田は、急に涙声となって、頭を抱えたのである。

「なぜだ……僕は、最高の配慮をしたじゃないか……僕の精子を使って、遺伝子的には彼らの子も同然な存在を生み出そうとすらしたんだぞ……彼らも皆、『わかりました』と答えたというのに……」

「マスター、俺はともかく、他の四名にとっては、あなたとは話にならないということが『わかりました』という意味だったのかもしれません」

 四號は、普段と変わらぬ口調で言った。

 山田は、ますます色をなした。

「四號! 今すぐここから、研究棟から出て行け! 僕が許可を出すまでは、この研究棟に入ることも、咲久弥や素晴に接触することも、一切禁止だ!」

「……マスター、了解しました」

 怒気に満ち溢れた山田の命令を、四號は、受け流すように受け入れたのだった。

 ただ、医務室を出ようとした彼は、一度だけ振り向いた。

「素晴、顔を洗え。あいつの血を、咲久弥に嗅がせるんじゃない」

 静かにそれだけ言い残して、四號は立ち去ったのである。


「さて、きみたちの処遇だが……」

 山田は、形式的な権威にこだわるように、咲久弥と素晴を睥睨した。

「まあ……僕とて医者でもある。性的な被害を受けた人間は、自尊心が低下するなど、メンタルに悪影響が出かねないという知識は持っているからね。咲久弥くんは、研究棟内で休養しなさい。休養するからには、棟外への外出は厳禁だ。素晴は、咲久弥くんを護衛するように。四名の裏切り者どもが、また襲ってこないとも限らないからな」

 山田は、それが言いたいことの全てであったようで、精液の容器を手にして、医務室から出て行ったのである。

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