第55話 番外編・超魔人 『天使座談会』
聖ガルドルム帝国の、王宮の大広間────
舞踏会が開かれている会場に、幾筋もの、神々しい光が降り注いでいる。
神を名乗る人造疑似生命体・ヤコムーンが派遣した、超魔人による演出だ。
ヤコムーンの命により、王宮に待機していた五体の超魔人が、降り注ぐ光に合わせて天井付近から、ゆっくりと降下していく────
超魔人の外形は、人の形を模している。
だが、その体の表面は、人とは異なり、真っ白だった。
そして、顔のパーツは目、口、耳、鼻のいずれかが、一体につき、一つだけ付いている。──といった異形である。
今回彼らは、この特別任務のために、通常は着用しないローブを、それぞれが纏っていた。
これもまた、神々しく見せる為の演出だ。
大広間に集まった帝国貴族の子弟たちは、超魔人が登場すると同時に、恐怖で竦み上がる。
天使たちが放っている魔法、他者を『畏怖』させる波動の影響だ。
暴徒鎮圧用に開発された魔法だが、自分たちが『人間より、遥かに上位の存在である』と、手っ取り早く教え込むのに便利なので、彼らはこの魔法を、好んで使っている。
この国の支配者階級の前に『天使』が降臨するのは、実に数百年ぶりになる。
だが、その場にいた誰もが、頭上から降りてくる異形の姿を見て、即座に『天使』だと理解した。
その姿は聖書や歴史書、それに絵画で伝わっている。
もしも、予備知識を持たない者が、彼らに遭遇すれば────
誰しもが、天から舞い降りた超魔人を、『化け物』だと思うだろう。
舞踏会の会場に居合わせたヤコムーン教・教皇ニヤコルム・ヤコームル十五世が、真っ先に跪き、頭を垂れて『天使様』と呟いた。
『天使』達は教皇を無視して、自分たちに与えられた任務を果たす。『ミルフェラ・ホールデンを、聖女と認定する』と、会場に集っていた全ての人間に宣言した。
静寂が支配する会場に驚きと、声にならない、ざわめきが起こる。
……。
…………。
これは────
その後の超魔人同士による、念話でのやり取りである。
『ったく、かったりーな。なんで俺たちが、こんなことしなきゃ、いけねーんだよ! やりたきゃ、自分でやれば良いだろうが……ヤコムーンの野郎!!』
『口が過ぎるぞ、目玉……ヤコムーン様は、我らに命を下すことの出来る上位存在────いわば、司令官なのだ。……上位者を敬わねば、組織が機能不全に陥る』
『──ってもよ。あいつの立てた計画が、狂いまくっててよー。その尻拭いで、俺たちが『冬眠』から叩き起こされる羽目になってんじゃん。────あいつが、このままトップで、大丈夫なのかね?』
『…………現状に不満があったとしても、だ。────命令系統の書き換えは不可能なのだ。我らに出来ることは、ヤコムーン様を信じる他あるまい……』
『あー、まあ、なぁ……』
『そりゃあ、そうだけどよー』
『……んんっ? オイッ! オイオイ、オイッ!! お前らッ!! ────そんなこと、喋ってる場合じゃねーぞ。────『あれ』見ろ、あれっ!!!!』
『……んー?』
『何だよ、『あれ』って?』
『────って、うげぇええッ!!!! あそこに居るの『最強』じゃねーか!! ────こんなとこで、何してんの、あいつ? てか、ヤベーよ。あいつが居るってことは、……俺達、殺されるじゃん』
『あー、マジかよ、もうッ! ヤコムーンの野郎……こんな所に、俺達を送り込みやがって!!』
『くそっ!! 『最強』の居るってことは、俺たちは捨て駒か……』
『てゆーか、ここは帝国だろ? あいつ、ここで何してんの?』
『────あいつの後ろに『神の寵愛』がいるから、……それを守ってるんじゃないか?』
『『神の寵愛』って、最優先、抹殺対象の……?』
『んー、つまりよぉ……『神の寵愛』を、訳の分からんイレギュラー『最強』が守ってるのか…………詰んだ────もう駄目じゃん、俺達────どうやっても、勝ち目無いだろ? なんだ、 このムリゲー……?』
『……お前ら、指令書くらい、ちゃんと読んで来いよ』
『えっ? 指令書────?』
『……『神の寵愛』を調査した結果さー、あいつ────『前世の記憶を持った転生者』らしいんだよ。それに対抗する為に、こっちも『神の寵愛』と因縁のある魂を探して、そいつらの前世を、片っ端から覚醒させることにしたんだ。────あの『聖女』もその一人、という訳だ』
『────は? 転生者? なにそれ?』
『なんでも、本物の女神が、そういう仕掛けをしていたらしい。『神の寵愛』は、前世の記憶を持ったまま、生まれ変わった人間なんだ』
『ふーん』
『それに対抗して、こっちも、か…………けど、そんなんで、『最強』と、『神の寵愛』のコンビを、どうにか出来るのかね~~?』
『確証はない。────向こうがやってるから、こっちも真似してやってみた。────という程度で、結果がどうなるかなんて、分らんそうだ……』
『なんだ、それ……? ふざけてるのか────? ヤコムーンの野郎……やっぱ、馬鹿だぜ!!』
『…………まあ、そう言うなって、あんな奴でも、俺たちの上司なんだ』
……。
…………。
超魔人たちが、念話での情報交換を終える。
大広間に集った人間達には、彼らの会話の内容など知る由もない。
『聖女』に任命され、思い上がったミルフェラ・ホールデンが────
「て、天使たちよ! 聖女として命じます。あそこにいる、あのブスを殺しなさい!! その手前にいる男も、一緒に! ……二人纏めて切り刻んで、魚の餌にしてしまいなさい!!!!!」
と、空気を読まずに、命令を出す。
超魔人たちにとって、その命令は────
無茶ぶりにも程がある、ものだった。
そもそも、彼らには、『聖女』如きの命令を、律儀に聞いてやる気などない。
…………。
……。
『────ふざけんなよ!! 糞がっ!!!! 相手は『最強』だぞ……勝てる訳ねーだろ!! やりたきゃ、テメーでやれよ!!! この糞虫が!!!!』
『……まあ待て、目玉────よく見ろ、最強は刀を持ってないぞ。ひょっとしたら、やれるかもしれん』
『────いや、無理だ。十年前のデータにアクセスしてみたが、奴が刀で武装していなくても、勝ち目はないな────ってゆーか、なんだよ、この化け物は? ……あいつがその気なら────俺達は、すでに殲滅されている』
『あー、うん。────こりゃあ、無理だね』
『くそー、今すぐ帰りてー。あの女、ぶっ殺して帰りてー』
『────そうも、いかんだろ。あの『聖女』を守るのが、我らの使命……』
『ヤコムーンの奴の命令を、シカトする訳にもいかんしな……』
『だが、『最強』に挑んでも、勝ち目はないぞ』
『……どうする?』
『……』
『────俺に、良い考えがある。……任せてくれ』
『マジで────?』
『よっしゃ、任せた!!』
『────がんばれ!!』
『頼んだぞ!!』
…………。
……。
天使達が事態を打開する為に、行動を開始する。
バチッ、バチバチバチィッ……。
異形の身体の周囲に、スパークが発生する。
そして、雷撃が放たれた。
ドゴォッォオオォオッォオオオンンンンンンン!!!!!!!
「ぐぎゃぁっぁっぁあああああああ!!!!!!」
『この、愚か者め!!! お前は確かに聖女に認定された。──その素質がある。それは確かだ。……しかし、貴様のその性根は腐りきっている。────よって罰を与えたのだ。──よく聞け、愚かなる人間どもよ。これよりこの愚か者を、聖女として教育するのだ!!』
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