第49話 ネタばらし

 ルドル・ガリュードの作り出した異空間──

 私はそこに、呼び出されている。



 この世界の大草原の中には、ポツンとテラスがある。


 大自然の中に創られた真っ白な人工物が、違和感なく景色に調和している。


 私はその、西洋風の東屋に招かれた。



 あの男に促され、私は椅子に座る……。


 ルドル・ガリュードの様子はいつも通りで、性欲を持て余しているようには見えない。

 







 まあ、冷静になって、よく考えてみれば────


 この男が、私に言い寄るなんて……無いわよね。



 『男から呼び出しを受ける』なんてことに慣れていないから、変な妄想をしてしまっていた。


 何であんな風に、勝手に盛り上がっていたんだろう────?


 恥ずかしいったら、ありゃしない。



「……すーはー」


 気付かれない様に深呼吸して、私は平静を取り戻す。



 まだ、ちょっと、胸がドキドキしていた。









 私は椅子に腰かけて、彼の入れてくれた紅茶を飲む。


 あいつも私の対面に腰かけて、こちらを見つめている。



 ────じっくりと、話をする気ね。


 でも、あまり遅くなるのは、良くないわ。

 私の不在に使用人が気付いたら、騒ぎになるもの……。


 

 ここ最近は『不審者による襲撃』が相次いでいるし、第三王子の動向もある。


 あまり遅くなって、皆に心配をかけたくはないわ。



 そんな私の心配を察したのだろう。



「前にも説明したが────この空間の時間の流れは、俺の意思で変えることが可能だ。……向こうの事は、気にしなくていい」


 ……そういえば、そうだった。

 

 これまで、この空間で魔法の訓練をした時は、元の世界と時間の経過が同じだった。だから、忘れていたが────


 時間の流れを変えることが、可能だと言っていたわね。



 

 ────神様かよ!!


 私は心の中で、小気味よいツッコミを入れる。




 こちらで数十分過ごす程度なら、元の世界の時間は殆ど経過しない。


 そう、調整するそうだ。




 それなら時間を気にせずに、じっくりと話が出来るわね。



「こうして、ここにお前を呼び出したのは……他の者がいる場では控えた方が良い内容の話だと、判断したからだ……」



 ……ふむ、む?


 セレナやジャックにも、聞かせられない話……?



 なによ、それ……?


 あいつは────

 私をじっと、見つめたまま話し始める。







「結論から言うと、────第三王子ヤコマーダと、その取り巻きのエドワー・ヘンツ、トーマスン・ネイビアの両名、そして先日、屋敷を襲撃したマンイル・ムーディ……この四名は『転生者』だ。────ヤコマーダの周辺をベルに偵察させた時の、奴らの会話の内容で判明した。」


 ベルの偵察時、マンイルは騎士団に捕まっていて、ヤコマーダの側にはいなかったが、王子たち三人の会話から仲間だと判明したらしい……。



 …………そう。




 転生者────


 あの王子たちが……。





 ……そうよね。


 私が転生しているんですもの。



 他に居ても、おかしくはないわ……。







 私の動悸が、何故か激しくなる。


 それは、ここに呼び出された時の、お気楽なものでは無く────



 ……。


 ……否な予感がする。


 背筋が冷えて、冷たくなっていく────

 


「転生者は他にもいるようだが、────共謀してお前を攫おうとしているのは、その四人……。そして、そいつらは前世で、お前と同じ小学校に通っていた────元同級生のようだ」



 あぁ────



 否な予感が、当たった……。



 王子とその取り巻きが転生者で、前世の私を知っている。


 『ゲロ子』というあだ名を付けられていた、小学生の時の私を……。



 ……最悪だわ。


「……ッ!! なんで……どうして、そいつらが、────私が転生者だって、前世の知り合いだって……分かったのよ?」



 そう────


 転生者がいたとしても、前世の知り合いだなんて、分かる訳ない……。




 お互いに自己申告でもすれば、確認を取れる。


 だが────

 前世の事は誰にも、言っていない……。




「────奴らの会話の内容からすると、どうやら、黒幕はヤコムーンの様だ。……奴が王子たちの前世の記憶を復活させて、その上で、お前の情報を提供している」



 ヤコムーン────

 神を名乗る、偽物の神。




「…………なんで、そんなことを?」


「狙いは解らん────奴は頭が悪いらしいから、案外、何も考えていないのかもしれん……」



 理由は、よく分からない……。




 ────は?


 なによ、それ……。




 私は眩暈を起こしたような感覚に陥る。


 頭が、くらくらしてきた。



 絶対に知られたくない前世の事を、何の理由もなく吹聴されたの────?




 本当に、なによ?


 ────それ!!



 私は怒りたいのか、泣き出したいのか、罵って呪いたいのか、悲嘆に暮れたいのか、それとも────もう、何もしたくないのか。


 ……自分でも何がしたいのか、よくわからない。




 小学生時代の同級生が、転生して身近にいた。


 私の事を見下して、バカにしていた奴らが……。



 よりによって、そんな奴らと────

 生まれ変わってから、再開するなんて……。




 しかも、そいつらは────

 それを知った上で、私の事を攫おうとしてる。


 ……何のために?


 

 私が美少女に、生まれ変わったから?

 

 顔と身体が目当て────?


 

 前世で私の事を馬鹿にして、見下して、イジメてきた奴らが…………?




 …………。


 ……。


 節操がないにも、程があるわ。

 

 私はあいつらの下劣さに、呆れながら怒っていた。




 だが────


 この事態は、チャンスなのではないかと気づく。



 あの王子の事は、後回しだ。

 


 私にとって大事なのは────


 目の前に座る、この男との関係なのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る