第48話 決戦前日の密会


「闘気というのは、物体の強度を上げたり、魔法の構成を破壊したりできるエネルギーだ。────分かりやすく言うと『精神のエネルギー』のようなものだな。……肉体に闘気を纏えば、鉄の刃も生身で受けて、跳ね返せる」



 強度を上げる? 魔法の破壊────?



 …………う~ん。


 ……分かりにくいわ!!



 精神のエネルギーって何よ?





 刃物を生身で受け止めれるって……。


 それは流石に、無理なんじゃない?



 だって、鉄よ?

 刃物なのよ────?


 反射的に『そんなの無理よ』と思ったが、この世界にはすでに、魔法という不思議エネルギーがあって、私もそれを使っている。


 さらに、闘気という謎のエネルギーがあっても、おかしくは無い。



 無いんだけど、う~ん……。



 まだ懐疑的な私に、ルドルは実際に闘気を体感させる。


 私の腕を掴んで『これだ』と言い、腕を闘気で覆った。



 ああ────


 ……なるほど。


 …………確かに、魔力とは別のエネルギーを感じる。








「……これが、────闘気」


「闘気は心のエネルギーだ。────感情で操作する。最初は扱いづらいが、慣れれば無心でも使いこなせるようになる。────お前も訓練中に、たまに扱っていた。……無意識にな」



 ルドルが言うには、パンチやキックの練習の時から、私は時々、闘気を操っていたらしい────


 言われてみれば、プンスカしながら攻撃した時には、心なしか威力が増していたように思う。



 その闘気をガードする時に使えれば、痛みを感じなくて済む。


 ────という訳だ。




 是非とも、操れるようになりたい。


 攻撃を防ぐときに受け身になるのではなく、『弾き返してやる!』くらいの強い気持ちを持って、力を入れるのがコツなんだそうだ。




 そんな便利な力があるんだったら、最初から教えなさいよね!


 これだから男子は、気が利かないんだから!!



 ────私の戦闘訓練は続く……。








 そして────


 私を誘拐しようと企む第三王子との対決まで、あと一日となった。


 明日は王子から観劇に誘われている、約束の日だ。




 私は何とか、『闘気』を感じ取れるようになってきた。


 まだ、自在に扱える程ではないが────

 ガードするときに強い気持ちを持ち、肉体の強度を向上させることが出来るようになっている。

 

 あの男からも、上達の早い方だと褒められた。





 

 それにしても────

 闘気、か……。


 この力には、魔法の構成を破壊する性質がある。



 発動前の魔法であれば、この力でキャンセルできてしまう。


 発動したした後の魔法でも、パッと消すことは出来ないが、崩れやすくすることは可能だそうだ。



 う~ん…………。


 と、なると……。



 この世界の貴族は、魔法という強力な力を扱えることで、その優越的な地位を維持している。


 貴族は魔法が扱えるからこそ、特権階級でいられるのだ。

 


 だが、闘気を用いた戦闘技能が広がれば────


 その魔法に、対抗できてしまうんじゃないかしら……?




 聞いてみよう。


「あの、ルドル様……」


「ん? なんだ?」



「この、闘気という力は、国を揺るがす『力』ではないですか……?」


「────ああ、そうだな」

 


 この男はなんてことないように同意するが、この力の危険度を本当に分かっているのかしら……?

 


「使い方が広がれば、大混乱になりませんか?」


「俺の故郷の『ヤト皇国』には、闘気の使い手は結構いるが、混乱は起こらなかったな。────この力を使える剣士は『剣豪』を名乗れるようになり、貴族身分も与えられる」



 ……へぇ、なるほど。


 支配階級に取り入れたのね。



「────そうですね。下手に押さえつけようとするよりも、良いかもしれません。賢いやり方だと思います。……でも、ガルドルム帝国では、それは無理だと思いますわ。────貴族や聖職者は『平民の成り上がり』を、決して認めないでしょう」 



 ヤコムーン教の教えでは、生まれ持った地位は絶対だ。


 ────変更は許されない。 



 親の身分を子が引き継ぐというのが、『当たり前』という価値観が浸透している。




 

「この闘気という力────国の上層部に知られると、扱える者は首を刎ねられてしまいますわ……」


「────その時は、俺が『上層部』の首を刎ねてやるさ」


 ルドルはこともなげに、そう言った。


 怖いこと言うわね。




 でもまあ、それもそうね。


 もともと私は、神から命を狙われている。『異端』だもの。 

 

 少なくとも、この帝国の中では、いつ殺されてもおかしくは無い。



 だから────


 『使える力』は、少しでも増やしておいた方が良い。



 私は訓練に励んだ。








 第三王子との対決を明日に控えた夜────



 私はルドル・ガリュードに、呼び出される。

 ────場所は、あの男の作った異空間だ。

  

 呼び出されたのは、寝る前だった。



 ベルが私の所にやって来て、異空間へと運んだ。

 ここに来る前は夜だったのに、ここには青空が広がっている。



「この世界は、いつも昼なのよね────」


 私は景色を見渡す。


 緑豊かな広大な森が広がり、その奥には、切り立った渓谷がいくつもある。 

 その渓谷に、幾筋もの滝が流れていた。

 


「こんな時間に呼び出して、どういうつもりなのかしら?」


 私はなぜか、ちょっとドキドキしている。


 ……ん?

 

 ……なんでだ?


 


 これって、やっぱり────

 『密会』ってやつ……よね?




 男が夜に女を呼び出して、二人っきりに……。


 何も起きない、はずも無く────


 


 ……いやいや、あの男に限ってそんな……。


 でも、あいつも男だし、私も美少女だし────



 あり得なくも……ない……?




 えーっと……、ちょっと待った!


 そういうのは駄目よ!!



 まだ、心の準備が……。 


 ……。

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