第37話 逆転劇


 前回のあらすじ


 悪役令嬢『ミルフェラ』が王子から、婚約破棄と国外追放を突き付けられた。

 怒り狂ったミルフェラは、私に向かって八つ当たりを開始する。


 禁止されている魔法を使って、攻撃してきた。



 悪役令嬢の魔法が放たれたが、私の護衛『ルドル』がそれを阻止する。


 悔しがり、憤るミルフェラ──── 


 …………。


 ……。




 私の護衛ルドル・ガリュードはそんなミルフェラに向けて、手にした棒を『ビシッ!!』と突き付けた。


 そして────



「おい小娘! どうした────? それで仕舞いか? 随分とショボい魔法じゃないか……まさか、それで全力って訳じゃないよな? 本気でやれよ!!」



 メチャクチャ楽しそうに、ミルフェラを煽る。


「────ほら、どうした? 待っていてやるから、もう一度、撃てよ!! ────今度は全力で来いッ! 小娘ッ!!!」


 

 彼女に手を向け、クイクイとやって挑発する。


 



 ……。


 なにやってるのよ、この男は……?


 私は身を乗り出して、ルドルの横顔を覗き見る。

 目元は布で覆われているけれど、生き生きしているのは分かる。


 ……すごく、楽しそうだ。



 その様子を見ていると、疑問が生じる。


 この男は本当に、前世で同級生だった『あいつ』なのだろうか……?








 前世の『あいつ』は、目立たない様に立ち回る奴だった。


 表立って動くタイプではない。

 裏で話をして調整し、こっそりとトラブルを未然に防ぐ……。


 そんな感じの奴で、争い事やトラブルを嫌っていた。




 こんな風に────


 相手を挑発して、問題を大きくするようなことはしなかった。



 そういうタイプではなかったはずだ。


 私はそんなことを疑問に思いながら、事の成り行きを見守る。






 ルドルから挑発された悪役令嬢ミルフェラは、もう一度魔法を使おうと準備を開始する。


 しかし、時間切れだ。


 ミルフェラを守っていたホールデン侯爵家の護衛達が、王子の護衛達に制圧されていく。


 護衛を失ったミルフェラは、王子の護衛に取り押さえられる。


 ミルフェラが展開していた魔法は、途中で中断され霧散した。



 あっけない幕切れだが、王子の護衛も無能では無いのだ。






 ……。


 ひょっとして────


 ホールデン家の護衛を制圧しやすいように、敢えて、あんな挑発を……。




 私はルドルの顔を見る。


 私の護衛は────


「もう、終わりか……」


 と呟く。



 そして────


「せっかく、この俺の強さを披露する舞台だと思ったのに、全然戦えなかったじゃないか、もっと頑張れよ。小娘……」


 と言いながら、とても残念そうにしていた。



 ……。


 …………。


 この男は、目立ちたかっただけの様だ。








「魔法の無断使用に殺人未遂……また罪を増やしたな。────ミルフェラ・ホールデン。…………呆れて、ものも言えん」


 第三王子ヤコマーダ・ガルドルムがそう言いながら、ミルフェラに近づく。


「私はこの者との婚約を破棄する! ────そして、ミルフェラ・ホールデンの身分をはく奪し、国外追放処分とする!! ……この処置は、すでに帝王陛下の内諾を得ているものだ」



 王子は声を張り上げて、そう宣言した。


 ミルフェラに対してだけではなく、会場に集まった舞踏会の参加者全員に周知する為だろう。




「異論のある者はいるか────? 今回の決定に不服がある者は、速やかに前に出て申し出よッ!!」


 …………。


 ……誰も前には出ない。


 この状況で、彼女を庇うバカはいないだろう。 


 大広間は静まり返った。

 


 いや、ミルフェラ・ホールデンの泣きじゃくる嗚咽だけが響く────



 そして彼女は私を睨みつつ、怨嗟の言葉を紡ぎ出す。


「なっ、なんでっ、私がッ、こんな目にッ……。お前のッ、お前のせいだっ!! うッ、うぐっ、────。…………許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、絶対に許さない。────お前のせいで、私は……、お前さえいなければ…………復讐してやる。────思い知らせてやる。絶対に、復讐してやる」


 ぶつぶつと、小声で私に対する恨み言を繰り返している。



 ────不気味だわ。


 早く連行して欲しいのだけれど、王子の指示がないのでそのままだ。








 ヤコマーダは大広間をゆっくりと見回して、異議申し立ての無いことを確認する。



 それから────


 王子は元婚約者に、最後の引導を渡した。



「この犯罪者を、連れて行け!!」





 王子がそう宣言した直後────


 信じられないような、逆転劇が始まる。





 突如として、頭上から、幾筋もの光が差し込んだ。


 その光は、ミルフェラに注がれている。


 王宮の大広間に、ざわめきが起こる。


 『……奇跡だ』という声も、そこかしこから漏れてくる。


 

 ────そして奇跡は、それだけでは終わらない。


 降り注ぐ光と共に、三体の『化け物』が姿を現す。


 …………。


 ……。


 化け物の出現と同時に────


 大広間にいたすべての人間に、恐怖がバラまかれた。






 教皇ニヤコルム・ヤコームル十五世が『化け物』に対し、慌てて膝をつき、首を垂れる。



 そして────


 『天使様……』と、呟いた。





 「くっ……」


 このタイミングで、出てくるとは────


 私が赤ん坊の時に、馬車を襲ったあの化け物たちが……。






 大広間が静まり返る。


 その場に集まっている人間を見渡し、『天使』が高らかに宣言する。 


 『ミルフェラ・ホールデンを聖女と認定する』


 

 どうやら────

 あの悪役令嬢が、帝国から追放されることは無さそうだ。


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