第21話 いざ、帝都へ


 聖ガルドルム帝国の貴族は、九歳から帝都に移り住み、社交を行う。


 私も、もうじき九歳になる。

 それまでに、帝都に移住しなければならない。




 ライドロース領から帝都まで、移動に三か月はかかる。


 ルドルとラシェールがこの地を去る頃に、私も引っ越しの準備を始めなければならない……。


 …………。


 ────お別れを意識すると、ますます寂寥感が増してくる。



 あいつが護衛する商隊は、ライドロース領には頻繁に訪れるが、帝都には近寄らないそうだ。


 もう会えなく、なるかもしれない。






 …………。


 ……。


 別に帝都に、行かなくてもいいんじゃないか────?


 そんな考えが浮かぶ。


 この国を出て、ラシェールみたいに商船に乗って、世界を巡る……。


 ……うん。

 ────それも、いいかもしれない。



 同い年の彼女がやっているのだから、私にだって出来るだろう。


 お父様に相談してみようかしら……?


 相談するなら、ルドルたちが滞在している今しかない────。



 よしっ! 決めたわ!!

 

 私は意を決して、お父様の執務室へと赴いた。



 



 コンコン、コンコン、────


 私は部屋をノックし、中へと入る。

 そこにはちょうど、ルドルとラシェールがいた。


「────ちょうど良かった。フィリスに話がある。今、呼ぼうとしていたんだよ」


 お父様がそう言うと、私に座るように促して話し始める。



「フィリスはこれから、帝都に移住するだろう。────その際の、帝都での護衛を、ルドル殿に依頼したところだ。……帝都への道中も、彼に警護を担当して貰うことになったよ」


 あら、まあ────!



「あの、ルドル様、────商隊の護衛は……?」


 私の疑問には、ラシェールが答えてくれた。


「それでしたら、心配いりませんわ。わたくしのお父様はこれから、ヤト皇国に帰ってお城の築城に取り掛かる予定ですの。────しばらく、貿易業は休止ですわ。それに、元々お母様やシャーリは、とっても強いので、ルドルおじさまがいなくても心配いりませんわ!」


 シャーリというのは、彼女のお母さんのパートナーの翼竜だ。


 小柄なフィーちゃんよりも、大きくてカッコいい竜だ。



 

 確かに竜が護衛として船に乗っているのだから、戦力は十分だろう。


 ルドルは世界を旅するついでに、護衛を引き受けていた。

 この国の帝都には、この男も行ったことがないので、私の護衛を兼ねて、この機会に行くことにしたらしい。



 そして────


「わたくしも、同行いたします!!────よろしくお願いしますわ。フィリス様! おーほほほっ!!」



 何故か、ラシェールも付いてくることになっている。


 ご両親は、よく許可したな……。



 ルドルが一緒だから、警護は万全と判断したのだろうが────

 それにしても、年端も行かない女の子を預けるとは……。


 ────可愛い娘を預けてもいい。

 彼女のご両親は、そのくらいライドロース家を信頼してくれているということだろうか……?


 商取引は昔から行っているし、関係は良好だが、そこまで信用されているとは……。



 ルドルやラシェールとお別れしなくて済んだのは嬉しいけれど、ラシェールに万一の事があってはいけないというプレッシャーが増えた。



 ────私がしっかりしなくっちゃ。


 私は旅行前に、気を引き締めた。



 それにしても、二人とも帝都行に付いて来るなんて……。

 私とお別れするのが、寂しかったのかしら────?


 ────そうだと嬉しいな。

 私はそう思った。

 




 ライドロース領から帝都ガルドールムまでは、馬車で三か月の旅路になる。


 私達だけではなくライドロース領内や、近隣の領地の貴族たちとも連れ立って移動する。

 それぞれが馬車に乗り、護衛を連れて、大所帯で移動する。

 ────荷物も多い。


 途中の通過する領地の貴族も合流する予定だ。

 その為、規模はさらに大きくなる。




 流石にここまで大きな集団となると、そんじょそこらの盗賊では手出しできなくなる。


 私達は安全安心に、馬車の旅を楽しんだ。




 ちなみに私達の乗る馬車は、地面からの振動と衝撃を緩和する工夫がなされている代物だ。


 ラシェールのお父様と、ルドルが共同開発した仕組みらしい。


 風系統の魔石と魔法陣を利用して、衝撃を大幅に緩和する仕掛けを施したそうだ。


 昔は馬車での長距離移動は拷問のようだったらしいが、デルドセフ商会から購入したこの馬車のおかげで、快適な旅を満喫できる。


 ライドロース地方の周囲の貴族は、大抵この馬車を購入し使用している。

 









 ……。


 …………。


 三か月の旅を終え、私達は帝都に到着した。

 帝都の貴族街の外れにある、ライドロースのお屋敷に向かう。


 ライドロース家の敷地は広いが、立地は悪い────

 お城から離れた場所が、宛がわれている。


 私の家は辺境伯で身分は高いのだが、中央からは敵視されている家なので、こういう扱いになる。



 ただ、私はこの立地を気に入った。


 お偉いさんの家から遠いので、気楽だし、外れにあるので敷地は広い……。


 ────良いじゃないか。




 さて、屋敷に到着し、荷ほどきを終えたところで、全員が屋敷のラウンジに集まる。


 この帝都で暮らす上での注意点を、改めて移住者全員で確認をする。




 まず、この帝都では、魔法の使用は禁止されている。


 この帝都には魔力を観測する魔道具が設置されていて、魔法を使用した者は、厳しく罰せられることになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る