第18話 夢の中


 私は夢を見ている。

 

 意識は薄ぼんやりとしていて、まどろみの中だ。

 ────喉が渇いて、起き上がる。


 ベットから降りて、歩き出した。



 水を求めてお城の中を彷徨っているうちに、使用人の居住スペースまでやって来たようだ。


 私は部屋のドアの前で立ち止まる。



 ここは確か、メイドのンガ―ちゃんの部屋だ。


 私は部屋の中に、お邪魔した。






 ……。


 ンガ―ちゃんはベットで寝ている。

 その隣にはルドルが連れていた、褐色の少女が一緒に寝ていた。


 ンガ―ちゃんと褐色少女は年齢が近い。

 もう仲良くなったみたいだ。


 ────寄り添って、寝ている。



 私はベットの上に上がり、彼女たちを起こさない様にゆっくり近づく。

 気配を消す魔法を使っているので、至近距離に近づくまで分からないだろう。

 


 この気配を消す魔法は、ラシェールとの魔法勝負で見ている。

 

 魔力の性質を同じように変化させてみたら、出来たので使っている。




 私は体重をかけないように馬乗りになり、お互いの顔をゆっくりと接近させる。


 私の目の前に、ンガ―ちゃんの首筋がある。


 ────美味しそうだわ




 かぷっ……。


 チュー、チュー。



「ぷはっ────」


 喉の渇きが癒される。

 でもまだ、足りないわね。


 …………。


 ……。


 隣には褐色の少女がいる。

 


 ────彼女も、美味しそうね。


 私は褐色少女の首筋に口を近づけて……。


 かぷっ!


 チュー、チュー。



「────ふぅ」



 私は満足して、自室へと戻る。

 

 まだ眠かったので、そのままベットに入り眠った。


 ……。


 …………。







 ────翌朝。



「────ふあっ」



 目覚めた私は、あくびをしながら伸びをする。


 なんだか今日は、体が軽いわ。

 昨日、思いっきり魔法を使ったので、それでスッキリしたのかしら?


 適度な運動は、健康を保つ秘訣である。

 これからも気晴らしに、魔法の練習をした方が良いかもしれないわね。


 私も随分と、身体が成長した。

 もう、魔法を使っても良いだろう。




 ……。 


 ────はっ!!


 私はここで、昨日のことを思い出す。


 顔から血が引いて行く。

 なんて事かしら。


 昨日のラシェールと魔法勝負の途中で、私は疲れて眠ってしまったのだ。


 それも、あいつに抱きかかえられながら────

 

 お姫様抱っこ!!





 思い出すと、顔が赤くなる。


 ────失態だわ!!


 あいつは暫らく、この城に滞在する予定なのに……。


 どんな顔で会えばいいのよ。


 ────もう!!



 

 私が真っ赤な顔で、テンパっていると──

 コンコンっ、コンコン!!


 部屋にノックの音が響いた。

 セレナが、起こしに来てくれたようだ。


 私はもう起きているけれど、彼女を部屋に招き入れる。

 

「────どうぞ」



 セレナにはいつも、朝の身支度を手伝って貰っている。

 入室を拒む理由などない。





「────邪魔するぞ」


 そう言って入ってきたのは、ルドル・ガリュードだった。



 ええっ!!


 あの、私────

 寝起きで、寝間着姿なんですけど……。


 そんな乙女の戸惑いを完全に無視して、あいつは遠慮も容赦もなく、まっすぐに私の側まで来た。 

 

 そして、私の事をじっくり観察する。




「────ふむ、どこにも異常はないか?」



 デリカシーの欠片もない男が、寝起きの美少女をまじまじと観察しながら、そんなことを聞いてきた。


 …………。


 ……ひょっとして、昨日私が勝負の途中で疲れて寝てしまったので、心配して様子を見に来たのかもしれない。



 きっと、そうだろう。

 私はそう思った。


 ────そうでなければ、ただの変態だ。








「だ、大丈夫ですわ。ルドル様……あの、わたくしまだ、身支度を整えておりませんので────」


「そうか、異常がないならいい。────暫くは安静にしていろ。……ベル、異変があればすぐに知らせてくれ」



 あいつは妖精のベルに指示を出して、部屋を出て行った。

 

 ……何だったのかしら?

 私の事を、心配していたのよね?



 まあ、それなら、悪い気はしないわ。

 


 私は、世界一可愛い美少女に成長した。

 自分で言うのもなんだが、愛らしい容姿をしている。


 ────あいつも私の事を、気になりだしたのかしら?


 ……。


 きっとそうね。

 なにしろ、私は世界一可愛いんだもの。


 男なら気になるわよね。


 ……。


 …………。





「────ふひっ、ふひひひひっ!」


 私は思わず、笑い声を漏らしてしまった。


 美少女にあるまじき、不気味な笑い声だ。




 ベルがはっと目を見開き、『異常発見』と叫ぶ────。


 ルドルが秒で、部屋にやってくる。



「────どうした?」


 『不気味な笑い声を、あげていたわ!!』



 問いかけるルドルに、ありのままを報告するベル────。


 ……。


 私は恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠した。


「なんでも、ありませんから、身体に異常はありません。大丈夫ですから!!」


 

 …………。


「……多少の異常は、報告しなくていい」


 あいつはそう言うと、部屋から出て行った。






 セレナが私の朝の身支度をする為に、部屋にやって来た。


 これから一日が始まる、爽やかな朝だ。



 

 昨日からルドルとラシェールと、褐色少女がこのお城に滞在している。


 滞在期間は、一か月ほどになるだろう。

 その間はあの男が、私達の戦闘訓練を直接指導することになる。





 今日は午後から戦闘訓練の予定だ。

 私は訓練場に移動した。


 この日は、蹴り技の訓練から始める。


 ラシェールと、褐色少女も訓練に参加する。

 この二人もルドルが指導して、格闘技の鍛錬を積んでいたようだ。


 動きが様になっている。



 ────負けていられないわ。





 私はローキックから順に、ミドルキック、ハイキックと繰り返し練習していく────


 ローキックは相手の太ももや、ふくらはぎを狙うキック。

 ミドルキックは腹や胸を狙い、ハイキックは頭部を狙う────


 蹴り技は決まれば威力は絶大だが、その分こちらの隙も大きくなり、バランスを崩しやすい……。

 相手の動きを読んでタイミングと距離を見計らい繰り出さなければ、相手のカウンターを受けるリスクが大きい攻撃方法だ。



 蹴りの威力は、腕の振りと腰の回転で決まってくる。


 何度も繰り返して、体で覚えていく────

 相手を蹴る瞬間に、蹴り足に体重を乗せることが出来ていればベストだ。


 

 ────あいつが見ているわ。


 私は張り切って、サンドバックを蹴りつけた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る