第17話 覚醒


 私とラシェールとの魔法勝負は続く────



 彼女は空気の塊を複数作り出し、同時に発射した。


 ゴッォオ!!!



 複数の魔法を、完璧に制御している……。


 ────中々やるわね。



 私は彼女の真似をして、自分の周囲に複数の氷の塊を創り出す。

 そして、ルドル目掛けて撃ち込んだ。



 ヒュゴッ!!!








「やりますわね。フィリス様! 次はさらに、数を増やしますわよ!!」


 ラシェールが、数百の空気の弾丸を作り────


 ヒュゴ、ゴオゴ、ゴゴッ、ゴゴゴゴゴゴオ、ゴゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴッ!!!!!!!!


 ルドル目掛けて放つ。

 まるでマシンガンのように、数十秒間、連射し続けた。


 ……すごい迫力だわ。



 ────やるじゃない。

 

 負けていられないわ。

 彼女が魔法を撃ち終えてから、私も同じように氷の塊を数百作り上げ、連射する。


 ドゴッオ、ゴゴゴオッ、ゴゴオゴゴッ、ゴゴオッ、ゴゴオ、ゴゴゴッ!!!!!!!!


 


 ふふん!

 どうかしら?


 あなたに出来ることは、私にもできるのよ。

 私はラシェールの方をチラッと見て、そんなことを思った。



 それを見たラシェールが、私に対抗心を燃やしてくる。


「今度は、隠蔽魔法も織り交ぜますわ!!」


 そう宣言したラシェールが、千を超える空気の弾を作り上げる。



 ────なるほど、隠蔽魔法ね。


 フィーちゃんが姿を消すときに、使っている魔法……。

 それをラシェールは、風魔法に織り交ぜて使った。

 

 風魔法は隠蔽魔法と相性が良いようだ。


 二種類の魔力を合成して、気配を発しない空気の弾丸を作り上げている。


 ────見事だわ。

 私は彼女の技量に感心する。

 


 

 しかもラシェールは、作り出した空気の弾丸の種類を変えている。


 半数近くを隠蔽魔法と合成し、残りの半分はノーマルな攻撃魔法だ。 

 気配を発する弾と、気配を消した弾の二種類を創り出していた。


 攻撃を受ける相手は、対処が困難ね。




 彼女が創り出した弾は、千以上ある。


 ……流石にこれは、あの男でも対処できないんじゃないかしら?

 


 私は心配になる。


 そもそも、人が的になる必要は無いわよね?


 

 私は今更ながら、それに気付いた。

 ────止めた方が良いわ。



 そう思って声をかけようとしたが、時すでに遅し……。


 ラシェールが、勢いよく、魔法の弾丸をルドル目掛けて解き放つ。



 シュゴゴゴゴゴッ、グオゴゴゴ、ゴォゴゴッ、ゴゴオ、ゴゴゴゴゴオ、ゴゴゴオ、ゴゴゴゴゴゴゴゴオ、ゴゴゴゴゴゴゴオ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオ、ゴゴゴゴゴオゴゴッ!!!!!!!!!!


 ────息もつかせぬ連続攻撃。






 ちょっ!

 これは、流石にやり過ぎよ!!

 

 私はあの男の、身を案じる。


 だが、私の心配をよそに────

 あの男はなんと、その攻撃の全てを刀一本で斬り防いで見せた。




 ……。


 ……何なのよ、あいつ。 



 強さが理不尽の域に達しているわ。


 

 …………。


 私はふと前世で見た、とあるアニメの怪盗の相棒を思い出す。


 あのサムライスタイルのキャラクターのような芸当を、ルドルはしれっとやってのける。



 ……はっ!

 そうだわ!!


 賢い私は、ここで閃いた。


 ────ひょっとすると、『こんにゃく』がアイツの弱点かも知れないわ。


 魔法でこんにゃくを出して、攻撃すれば……。


 私は魔力を集めて、こんにゃくを出そうとする。



 「えい!」


 ────ぼすん!!


 何も起こらない。 




 ……。


 ……失敗した。


 氷属性の魔力では、こんにゃくの具現化は不可能なのだ。


 私はしくじった後で、それに気付いた。








 ラシェールはこちらを見て、得意げに胸を張る。


「わたくしの、勝ちですわね!!」


 勝利宣言された。




 ……は?

 

 ……納得いかない。


 私は確かに、こんにゃくを作れない。

 

 だが、氷の塊を千以上、創ることは可能だ。

 彼女に実力が劣っているとは思えない。

 


 それにラシェールは杖を装備しているじゃないか、私は丸腰だ。


 公平な競争ではない。



 ……。


 ……私はよく考えもせずに、思い付きでこんにゃくを作ろうとして、失敗して負けた。


 そんな間抜けな負け方が嫌で、心の中で言い訳を並べ立てる。 



 

 ……。


 どうやら────

 私は意外と、負けず嫌いだったようだ。


 

 前世で諦め癖が付いていたのも、『勝負して負ける』のが嫌だったからかもしれない。レースに参加しなければ、負けることもない。



 前世では、それでも良かった。


 レースに参加せずに逃げても、自尊心は傷つかない。




 だが、フィリス・ライドロースとして生まれたからには、レースに参加しない=敗北である。そして、勝負して負けることが、こんなに悔しいとは思わなかった。



 その悔しさが、私の心を激しく燃え上がらせ、そして、凍てつかせる。


 ────プツンッ!! 

 私は冷静に、ブチ切れた。


「……まだ、勝負はついていませんわ」





 私はリミッターを外す。


 これまでは、強力な魔法を使うと体を壊すという教えもあり、どこか手加減しながら魔法を使っていた。


 その制約を解いて、私は全力で魔法を解き放つ────


 



 キィィイイイイインンンンンン!!!!!!!!!



 ルドル・ガリュードの立っていた場所を中心に、巨大な氷の塔が建っている。



 私が赤ん坊の時に、天使を氷漬けにした魔法だ。


 あの時よりも、さらに氷結範囲は広い。


 異空間の草原に、巨大な氷河が出来上がる。

 気温が急激に低下したことで、辺りに霧が発生して視界を遮る。

 



 ……。


 ……あっ!


 勢いでやってしまったが、あの男はあの中よね……。


 しまった!

 あいつを、氷漬けにしてしまった。





 いくらあの男でも、これでは死んでしまうわ。


「……あっ、────ああっ」


 私は焦る。

 焦燥感からか、目から涙が溢れ出る。





「心配するな。俺はこの程度では死なん」


 私の背後から、声がした。


 あの男の声だ。




 どうやら、ルドルは魔法攻撃を避けて、私の後ろに回り込んでいたらしい。


 私は気が抜けて、倒れ込みそうになる。


 そんな私を、あいつは支えてくれた。


 

 そのまま、あいつの腕に抱えられる。

 

 『お姫様抱っこ』というヤツだ。


 私は恥ずかしくなって、『降ろして下さい』と言おうとしたが、口が上手く動かない。




 魔力を大量に使い、疲れたようだ。

 眠くなってきた。 


 辺りの景色が一変する。

 私達は、お城の中庭に戻ってきていた。



「凄いですわ! 流石は、フィリス様ですわ!!」 


 私の魔法を見て、ラシェールが無邪気に喜んでいる。


 彼女の称賛を聞きながら────

 私はゆっくりと、眠りに落ちていった。


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