第15話 共鳴


 空から船が降りてくる。

 徐々に地上へと迫ってくる船は、世界に数隻しかない、貴重な空飛ぶ交易船だ。


 その船の船首に、一人の少女が立っていた。


 大声で、お嬢様笑いをしていた女の子だ。

 少女は煌びやかなドレスを身に纏い、長いくるくるの髪を風になびかせている。



 船がゆっくりと、地面に近づき着地する。


 巨大で重量のある船が、ふわり、と大地に降り立った。






「────とうっ!」


 船首にいた少女が、船の着陸と同時にジャンプする。


 そして、船と同じように、ふわりと地面に降り立った。



 ────あの高さから飛び降りれば、良くて全身複雑骨折、悪ければ死ぬだろう。


 飛び降りた少女が無傷なのは、彼女が空中を落下中に浮遊魔法を使い、地面との衝突を回避したからだ。



 女の子は、私と同い年くらいだろうか?

 私と同じくらいの背丈で、可愛らしい容姿をしている。



 女の子は正面に立っている私を、まっすぐに見据える。

 私を見ながら片手を腰に当てて、もう片方の手で口元を隠す。

 

 そして、ふんぞり返り、再び笑い出した。



「オーホッホホッ! オーホッホホッ────!!」


 お嬢様の高笑いである。


 ……。


 …………。






 私は彼女の高笑いを受け、それに応える為──

 スチャッ──と、同じポーズを取った。



 手を腰に当て、もう片方の手で口元を隠す。


 そして────


「オーホッホホッ! オーホッホホッ────!!」


 

 生まれて初めて、高笑いをした。


 私の高笑いを見て、少女も再び笑い出す。

 それに対抗するように、私も高笑いを続ける。


 五分くらい、私達はただ笑い合っていた。




 ……。


「……なにをやってるんだ。────お前らは?」


 そばを通りかかったルドル・ガリュードが、呆れたように突っ込んできた。



 …………。


 約一年ぶりの、コイツとの再会がこんな形になるなんて。


 ────遺憾だわ。









「意地の張り合い、ですわ。────ルドルおじさま」


 私と笑い合っていた少女が、そう説明した。


 

 ……。


 ……意地の張り合い、か──

 まあ、そんな感じだ。


 先に笑うのを止めた方が、死ぬ────



 そんなノリで、お互いに笑っていた。







「そんな事よりも、この方ですわよね。────おじさまが仰っていた『例の少女』は……」


「…………『例の少女』? ルドル様は私の事を、何と仰っていたのかしら────?」


 私はあいつのことを、『ルドル様』と呼んでいる。


 こいつは命の恩人で、ライドロース家の客人だ。

 そして、私がお嬢様なので丁寧に呼んでいる。



 其れはさておき────

 気になるわ。


 あいつは私の事を、どう言っているのだろう……?

 すごく、気になる。




 私の疑問に、少女が答える。


「ルドル様はあなた様の事を、わたくしよりも『魔法の才能のある、こまっしゃくれたガキ』だと仰っていましたわ。────おーほっほほっ!!」


「あ、あら、そうですの。────オホホホホ……」


 …………。


 ……なによ、それ!!



 私の事を紹介するなら、他にもっと言うべきことがあるでしょ!!


 『世界一の美少女』とか、『とっても頭が良い』とか……。



 男ってほんと、そういうとこ駄目よね!


 ────もうっ。


 私は心の中で毒づきながら、あいつに向かって微笑みかける。


「ルドル様から、魔法の才能を誉められるなんて、光栄ですわ」


 一応、こう言っておく。


 私はお嬢様なのだ。



 ……。


 …………ん?


 よく見るとあいつの隣には、ンガ―ちゃんくらいの女の子がいた。


 ────誰かしら?







「ああ、コイツは孤児でな。俺が拾ってこの船で面倒を見てきた。────俺と一緒に、お前の護衛を担当する予定だ。よろしくな」


 ……ん?


 えっと、高笑い令嬢に、孤児が、面倒を見て、一緒に護衛────


 色んな情報が一度に来て、整理がつかないわ。



「そうですか、皆さま、長旅でお疲れでしょう。本日は我が家で、ゆっくりおくつろぎ下さい────」


 私はこの男を、出迎えに来たのだ。


 取り敢えず、家に招待してゆっくり話を聞こう。



 想定よりも大所帯になったが、私は三人のお客様を招いて、ライドロース城へと帰還した。


 






「申し遅れましたわ。わたくしはヤト皇国、空域辺境伯の娘『ラシェール・クラウゼ』と申しますわ────これから、どうぞよろしくお願いいたしますわ」


 高笑いの令嬢は、ラシェールという名前らしい。

 年齢はやっぱり、私と同じだそうだ。

 

 大陸の西と東では、扱われる言語が違う。だが、彼女は西の言語で流暢に挨拶をした。



 私も自己紹介する。


「こちらこそ、挨拶が遅くなり、申し訳ありません。わたくしはライドロース辺境伯の娘、フィリス・ライドロースと申します。────同い年の他国の方と、こうしてお話するのは初めてです。どうぞ、よろしくお願いいたします」


  

 令嬢同士の挨拶が終わる。


「こいつは氷竜をパートナーにしている。────後で見せて貰え」


 ルドルが私の個人情報を、あっさりばらす。

 そんな命に係わる、トップシークレットをあっさりと────


 私は氷の笑顔で、ルドルを見つめながら、どう誤魔化そうかと頭を回す。


 ……駄目だ。


 言い訳が何も浮かばない。

 私が固まりながら、頭を悩ませていると────





「────まあ! フィリス様は、竜に選ばれたのですか? わたくしのお母様と同じですわね。……凄いですわ! 羨ましいですわ!!」

 

 

 ……あれ?


 好反応が返ってきた。



「────心配するな。竜を敵視し、敵対するような『トチ狂った』ことをしているのは、ヤコムーン教の奴らだけだ」



 どうやら、大陸の東では──

 ヤコムーン教は信仰されていないらしい。


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