第13話 気持ちの整理


 私の心は、前世に縛られている。

 

 ────解ってはいる。

 こんな拘りは取るに足らない、ちっぽけなプライドなのだと。



 私は転生した。

 もう、生まれ変わっている。


 前世の拘りなど、捨て去ってしまえばいい。

 ────何の支障もない。



 ……。

 でも、私には、それが出来ない。


 こんな『呪い』のような気持ちでも──

 前世の私が、生きていた証なのだ。

 

 そう思うと、無かったことには出来なくて、どうしようもないモヤモヤが続く。








 ……。


 …………。


 ────ったく、何なのよ。


 これは……。



 答えの出ない問題に、悩み続けている。

 ────段々、面倒臭くなってきたわ。



 アプローチを変えましょう。



 『恋愛』とか『恋心』から離れて、今後の方針を決めましょう。


 ────そうよ、それがいいわ!



 やっぱり、生まれ変わった私は頭が良いわね。

 

 自分で自分を、褒めてあげたい。







 私は赤ん坊の頃、『天使』に襲撃されている。


 ということは、いつ帝国の中枢から排斥されるか分からない。


 そんな私がこれからこの世界で生きていくには、まず自分が強くなることだ。

 そして、それと同時に仲間を多く作る必要がある。


 

 前世の私は常に孤立していて、イジメられやすい存在だった。


 逆に言えば……。

 お友達を多く作っておけば、帝国から手出しされにくくなるだろう。



 結婚とか恋愛感情は置いておいて、まずはお友達から────


 生まれ変わった私は、この容姿のおかげで人から好かれやすい。

 その特性を活かして、いざという時に助けてくれる『お友達』を沢山作っておくのだ。


 私に向けられる無数の恋心に振り回されることなく、こちらが状況をコントロールする。


 名付けて『仲良し大作戦』!!



 ────我ながら、いい考えだと思う。

 

 ……となると、私が真っ先に『手を組む』のなら『あいつ』なのよね。








 どうやらあの男も、『天使』ひいてはこの世界の神、『ヤコムーン』と敵対しているようだ。


 ……天使をやっつけまくってたしね。



 明らかに、敵対関係にある。



 あいつは強くて、私と利害関係が一致している。



 ……。


 ルドル・ガリュードは、恐らく『吸血鬼』だ。


 私と同じ『神敵』なのだろう。

 だとすれば……。


 ────敵の敵は味方。



 私が『手を組む』としたら、あいつが一番適任なのだ。


 恋愛感情なんかなくても、あいつとの関係を構築できる。


 ────仲良くする理由がある。

 私はちょっとほっとして、そして、嬉しくなった。

 





 ルドル・ガリュードは歳を取らない。

 私が始めた会った時、見た目は三十前後だった。

 

 それから七年以上経過しても、見た目が変わらないのだ。



 私が集めた伝承にある、吸血鬼の特徴は────


 ・年を取らない。

 ・人の生き血を吸う。

 ・昼間は活動できない。

 ・黒髪。

 ・人を魅了して、従える能力がある。


 当てはまらないものもあるが、『年を取らない』という、人間ではありえない項目が該当するのだから、疑いを持つには十分だ。


 藪蛇になりそうだから、ベルに確かめてはいないけれど──

 恐らく、あいつは吸血鬼だ。




 お父さまやお母さま、そしてお爺様も、それに気付いているはずだ。


 けれど皆、そのことに言及しない。


 恐らく、あの男の強さに利用価値を見出して、対立しないよう敢えて気付かない振りをしているのだろう。

 


 ライドロース家は、力を欲していると思う。

 お父様たちは『天使』に襲撃された私を、そのまま育てている。

 

 教会や帝国に突き出さずに、育てている。

 これは『神敵』を匿う行為だ。



 ────バレれば、ただでは済まない。


 そんな危ない橋を渡りながら、天使を打倒した謎の実力者ルドル・ガリュードと、親密な交友関係を維持している。




 これだけ並べれば、ライドロース家の意向はおおよそ推察できる。


 私の『仲良し大作戦』は、ライドロース家の思惑と重なる。



 少なくとも、邪魔にはならないはずだ。


 ────よし!


 今後の方針も決まり、気分もすっきりした。

 







 私は強くなるために、鍛錬に励む。



 今日は、フックの練習だ。


 このパンチは、相手の横から攻撃を加えることが出来る。

 敵のこめかみや顎、脇腹を狙って拳を打ち込む。


 このパンチも腰の回転が重要になる。

 接近した敵の急所に打撃を与えて、仕留めることが出来るパンチだ。

 

 敵の攻撃を避けて崩れた体勢から、反撃する際に、上体を戻す反動を拳に乗せると効果的だ。


 反動を上手く利用する攻撃なので、他のパンチとのコンビネーションで使う。



 

 他のパンチのおさらいをしながら、フットワークも確認する。


 ステップを踏み、小刻みに移動しながら──

 前後に開いた足の前足を軸に、後ろ脚を半回転させ、体の向きを変える。



 そしてパンチを放つ────


 パシィィインッ!!

 

 私のパンチが、サンドバックに突き刺さった。





 私はこの世界の神の敵、『神敵』だった。


 そんな私を鍛えているルドルには、何か思惑があるのかもしれない。




 だが私にも、私の考えがある。

 一つは『仲良し大作戦』、そしてもう一つは、私自身の強化だ。



 『強くなりたい』というのは、私の意思だ。


 私はこれから、この世界で、『神敵』として生きていくことになる。

 ……帝国とも、戦うことになるかもしれない。



 未来の事は、誰にもわからないが──


 その可能性は無視できない。



 

 私が帝国と対立し、戦う事態に陥れば……。

 きっとあの男は、私を護ってくれると思う。


 天使に襲撃された、あの時みたいに……。



 でも、あいつに護られるだけなのは、癪に障るのだ。

 だから強くなる。


 将来、あいつと一緒に、戦えるように────


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