第5話 最強
私の目の前で六体の化け物が、まとめて氷漬けになっている。
これは、私がやったことだ。
魔法で凍らせた。
……。
…………。
だが、上空を突如として、通過した突風は────?
あれは、私ではない。
……自然現象でもないだろう。
あんな不自然な風は、起こらない。
明らかに超常現象、すなわち魔法だった。
いったい誰が────?
援軍、なのかしら?
あの化け物を吹き飛ばしたのだから、味方よね……。
でも、そうと決まった訳では────
────ピッシッ!!!
私が思考を巡らせていると、化け物を閉じ込めている氷にひびが入った。
くッ────!!
ひょっとして、まだ生きているの……?
こいつら────
氷に入ったヒビが、どんどん拡大していく。
パキッ!! バキッ! バキバキバキッッッ!!!!!
私の作った氷を割って、化け物が外に出てきた。
「勘弁してよ、もうっ────」
化け物たちが、慎重に私を包囲する。
そのうちの一体が剣を携えて、私に接近してきた。
────ビュッ!!
私の頭上に、剣が振り下ろされる。
私は、魔力切れだ。
魔法はもう、使えない。
今度こそ、本当に死んだわ。
そう覚悟する。
しかし────
ガキィィイいいいいンンンン!!!!!!
化け物の振るった剣は、刀によって防がれた。
私と化け物の間に、一人の男が立ち塞がっている。
刀で化け物の攻撃を防いだ男は、手刀を化け物の胸に突き立てる。
そして、握り潰すような動作をした。
化け物の身体が崩れ、消滅していく。
男の手には、壊れた機械のようなものが握られている。
────敵の、動力源を潰したんだわ。
私を助けてくれた男は、化け物を難なく始末した。
しかし、敵はまだ五体いる。
五体の化け物は剣を構えて、同時に男に襲い掛かった。
寸分の狂いもなく、振り下ろされる五つの剣────
しかし男は、不敵な笑みを浮かべる。
「────神速の太刀」
迫りくる化け物の刃が男を捕らえる前に、男の刀が五体の化け物の胸にある、動力源を両断していた。
……。
……凄いわ。
いったい、何者なのよコイツ────
味方、よね…………?
そうじゃなきゃ困るわ。
私の不安が、男に伝わったのだろう。
そいつがこちらを向き、『心配するな』と言って、不敵な笑みを浮かべる。
────ドキン!!
その男の顔を見たとたん、私の胸が高鳴る。
────あれ?
私は男の顔に、見覚えがある。
どこかで会ったような……。
そんな気がした。
だが、どこで会ったのか、思い出せない。
生後すぐは視界がぼんやりしていて、記憶も曖昧だった。
その時かしら……?
私がそんなことを考えていると、男が立ち位置を変える。
「暫く、そこでじっとしていろ。……来るぞ!」
男は片腕で、刀を肩に担ぐように構えた。
────っ!
私も気付く。
高速で近づいてくる、不吉な気配の群れ……。
あいつらだわ。
風で吹き飛ばしただけだから、まだ死んでなかったのね。
分厚い氷に閉じ込めても死なないし、なんて頑丈なのかしら。
化け物の群れが私を目がけて、高速で飛来してくる。
私の前に立ち塞がるのは、刀を構えた剣士が一人。
絶体絶命のピンチのはずなのに、何故だか私は安心していた。
男は、敵の到着を待たなかった。
その刀に風の魔法を纏わせて、振るった。
────ヒュゴッ!!!!!
刀から、風の刃が解き放たれる。
高速で空間を切り裂いて進んだ風の刃は、化け物の胸を抉り、敵の動力源である魔導コアを切断する。
コアを破壊された化け物は、力を失い地に落ちて、やがて消滅した。
────敵の数は数百はいる。
そいつらが空を飛び、物凄いスピードで迫ってくる。
しかし、男が繰り出す風の刃は──
奴らがここに到達する前に、その全てを切り伏せていた。
……強い。
本当に、何者なのよ。
この男────
年の頃は、三十前後かしら?
黒い髪、精悍な顔つきで、刀と強力な魔法を操り、人間を遥かに凌駕していた化け物を、あっさりと全滅させた…………。
人間を遥かに凌駕した化け物を、倒すことが出来る。
だとすれば──
その者は人間という枠を、遥かに超越した存在といえる。
吸血鬼────
私は瞬間的に、そう連想した。
この人はきっと、吸血鬼だ。
もう一度、髪を確認する。
黒かった。
特徴は一致する。
日中は力が出せないという話だったが、今日は曇天で、太陽は雲に隠れている。
実力を発揮できないというほどの、環境では無いのだろう。
人の生き血を、飲むのかどうかは分からない。
助けたお礼にと言って、要求されたらどうしましょう?
────困るわ。
両親に負担させるわけにはいかない……。
だって、あの化け物共の狙いは、私だったんだもの。
────その時は、私の血を提供することにしましょう。
……。
…………。
それにしても、吸血鬼というのは、言い伝えほど怖くはない。
それどころか──
あの男の顔を見ていると、何故だか凄く安心する。
安心した私は、猛烈な睡魔に襲われる。
馬車の振動で目を覚ましたところで襲撃に遭い、化け物に命を狙われる中で緊張感が続いた。
その上、大規模な魔法を使って、疲れきっている。
私は、まだ赤ん坊だ。
睡魔には勝てない。
瞼が下がる。
もう意識を保てない……。
だから、寝ることにした。
寝る子は育つ────
前世の『ことわざ』だ。
単なる迷信ではなく、子供の成長には睡眠が不可欠なのだ。
私は早く成長したい。
謎だらけの状況で、知りたいことは沢山あったが、眠気には勝てなかった。
…………。
……。
次に目覚めた私は、お城の部屋にいた。
辺境伯のお爺様のお城だ。
田舎の領主らしい頑丈な造りで、部屋も広い。
歴史を感じさせる調度品が多く、それなりに豪華な部屋だった。
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