第46話 デートに浮かれる天香さん

 入浴を済まし寝る準備万端の僕は3日振りのベッドを堪能しようとすると、僕のベッドには既に乱入者により占拠されてしまっていた。

 空き部屋を使ってくれと言ったような……と自身の発言を遡るが、もう熟睡されている天香を起こすのも忍びないと感じたので、僕は空き部屋に布団を敷いて眠りに着く。

 

 翌朝僕の部屋がもぬけの殻になっていて一騒ぎ起きるんだろうなと、生徒会三人衆や懇意にしている方々には申し訳なく思う。

 心配させるようなことをするなと説教した翌日には行方不明になられているわけで、つくづくアイツは学習しねぇ無能馬鹿大嘘吐き野郎だなと皆に心証を抱かせてしまう。


 愚者の魔女に嘘を吐いて帰るくらいなら自害した方がマシなので、何としても別の策を考えなければならないわけで。

 何か異世界を行き来する次元の扉みたいなのないかな。

 神隠しや行方不明になった資料でも漁ってみて異世界転移と関係ないか調査してみようかな。


 「寝れないね……」


 色々思案していると眠気も催さず僕はネットサーフィンをして気を紛らわそうと身体を起こす。

 ココアを片手に僕はPCを開き神隠し関連の単語を適当に検索。

 バミューダトライアングルにメアリーセレスト号や砂漠に第二次世界大戦時の戦闘機が原型を保ったまま発見されるなどの事件が見付かるが、大体は創作なので信憑性はない。

 昔の写真に当時の服装では有り得ない格好をした人物がいることから彼は未来人なのではと考察されもしたが、結局当時その服とかは有ったらしいので単に斬新な人なだけである。

 エレベーターで異世界に行く方法もあるが普通に実況動画が上げられているので行けないのは確定だ。


 思考を変えてこれまでの敵生体の資料を眺める。

 僕が討伐や捕獲した敵生体の大半は、他の惑星から地球に移住してきた者達である。

 人間に擬態して人間社会に溶け込む者や僻地で大人しく暮らす者など多々いるが、人類に協調する者は擬態して生活を許され安定した生活が保障されているわけだ。

 そんな保障されていない不法滞在者を検挙するのが僕の役目の一つでもある。


 だが、恐竜型敵生体のように知能の見られない連中は、一体どこからやってくるのだろうか?

 敵生体が引き連れた家畜が野生化したり、ペットが脱走したりと出自は様々だ。

 飛香の件は宇宙人のペットが繁殖したというものであるらしく本当に迷惑な話である。外来種って洒落にならないから勘弁してほしい。

 仮のそうでないなら自然発生……? どこから湧いて出てくるのだろうか?

 話を遡れば遡るほど我々人類もどこからやってきたんだという話になるのだが……。


 敵生体目撃の資料を眺める。

 秋田県に鬼の集団。三重県に鳥頭のボディビルダー。山梨県にキノコ怪人。島根県の廃校で深夜妖怪の大運動会が開催される。千葉県の住宅街に着ぐるみの変質者が出現。群馬県の廃墟に動く仏像の目撃情報有り。

 どれもこれも帰還の手掛かりになる情報はない。


 しかし群馬県の仏像……これは直感で強敵だなと分析。異世界の宰相以上……恐らく僕でも苦戦しそうな相手だろう。

 これは僕が請け負った方がいい案件だなと特異に連絡。群馬観光の合間に視察してこようか。

 島根県の運動会の方も気掛かりだ。山陰地方を担当する中国支部に任せればいいが……まぁあっちにも一等や実力者はいるだろうし、そもそも僕の担当は関東圏だからお門違いかな。

 

 どうしても精神が仕事の方に引き寄せられ僕の本来の目的を忘れ掛けてしまう。

 何にしても結局どう足掻いても帰還は叶いそうにない。

 これは黒幕も詰みかな?

 万策尽きたというほど解決策詰めてないけれども。

 後で六天魔さんに相談してみよ……。


 「まだ起きていたの?」


 そろそろ寝るかなと椅子の上で背伸びをする僕に声を掛ける天香。

 起こしちゃったかなと彼女に詫びを入れる。


 「いえ……トイレに行こうとしたら……灯りが点いていたから……」


 天香は僕の開いているPCの画面を覗き込む。

 天香は敵生体の資料を一瞥すると溜息を吐いて僕を労う。


 「異世界……? から帰ってきて早々、そんな張り詰めてどうするのよ。有給も申請したんだし一旦は忘れたらどう?」


 「だけれどね、僕は…………」


 「あんた言ったでしょ? 僕がいる必要ない、そっちは任せるって。優秀な人材は多くいるんだから心配しなくても平気よ」


 焦っては事を仕損じるから気長にやれということなのだろう。

 まぁ戦闘しか取り柄のない僕が足掻いても時間の無駄だなと諦めて六天魔さんに頼ることにしよう。

 「いいから寝なさい」と天香に促され、PCの電源を落として僕も改めて眠りに就くことにした。

 

 そうして日頃の疲れが無意識のうちに溜まっていたのか爆睡した僕は、設定したアラームでは起きられず天香により叩き起こされることになり、本日の予定である東京観光を行うことになった。

 僕は文京区に住んでいるので流れ的には、浅草寺→東京スカイツリー→しながわ水族館→日用品買い出しだなと分析。

 本郷三丁目駅でICカードを購入して1万円を注ぎ込み電車が到着するまで待機していると興奮した様子の天香が僕に発する。


 「東京ドームあるじゃない! 凄いわね天香! 毎日行き放題よ!」


 「そうなのかな」


 「行きたい! 巨人戦見に行きたい!」


 「あそこ毎日野球してるわけじゃないしご近所だからって言って常日頃行くわけじゃないんだよね」


 天香も京都に住んでいるからと言って毎日清水寺や金閣寺行ったりしないでしょ? 要はそれなんすよ。

 念のために東京ドームの予定を確認すると案の定予定欄は空白となっていた。


 「何も予定ないけれど帰り寄ってみる?」


 「うん! 行く!」


 もう反応が小学生。

 可愛いなコイツ。

 

 「そういえば東京タワーも見たいわ!」


 「しながわ水族館の帰りに時間あったら寄ってみようか」


 「うん! 絶対よ!」


 そうして和気藹々と童心に帰る天香を尻目に電車に乗り込む。

 何度も冷静になる僕は、学校……仕事……彼等……幼馴染……妹……千年王国……黒幕……帰還……の単語が脳裏に過るが、有給&僕では無駄だと思考停止して頭を空にすることにした。

 頼みの綱の六天魔さんには連絡済みで彼女が何とかしてくれると他人任せな無責任を露わにさせていた。


 浅草の雷門に到着した天香は、これまた大はしゃぎで僕の腕を掴んで駆け寄る。

 雷門は逃げませんよと告げる僕の言葉も聞かず彼女は携帯片手に写真を撮り出す。


 「こっちきて小夜!」


 「観光1日目でこれだと後が続かないよ?」


 「私体力に自信あるから! いいからこっち来なさい!」

 

 雷門を背景に僕と天香の自撮りを撮らされる。

 その後も本堂や仲店通りにて土産を購入する天香を眺めて、浅草を満喫した僕達は次の目的地である東京スカイツリーへと向かう。

 電車で直ぐに行けるが天香が東京の街並みを見て回りたいため徒歩で向かうことにした。

 吾妻橋を渡っていると天香はある物を見て「何あのうんちみたいなの」と失礼な発言をかます。

 それを訂正させて解説していると橋の前方と後方から見るからに一般人ではない風貌をしたアウトローの集団が視界に入る。


 「何あの人達。天香の友達?」


 「あんなごろつきが私の友人なわけないでしょ」


 僕の思い過ごしだといいなと思い無視して先へ歩もうとすると、アウトロー集団は僕達の方に近寄るのが分かる。

 あぁ、そういうこと……?

 白昼堂々、お盛んな連中だと溜息を吐く。

 集団は僕達を見て各々呟く。


 「あれが今回のターゲット?」


 「男の方は? 彼氏はどうするの? 殺す?」


 「可愛いじゃん。殺すだけじゃ勿体ないから嬲って犯そうぜ?」


 天香さん大分恨みを買っているご様子で。

 関西圏の関係者。言わば僕は巻き込まれたようである。

 無関係なら僕が手助けする必要もないかな。


 「どうするの? 僕達休暇中だけど」


 「私達の邪魔をする者は全て殺して、デー……観光を再開するわよ。あんたは大人しく待っていなさい」


 とりあえず凄惨な現場になるだろうなと本部と六天魔さんに連絡を入れて僕は橋の隅っこで座って待機する。

 日本刀や小銃を持つ武装集団に対峙する天香は、ふと彼女の姿は透明化されたように消えて見えなくなる。


 「おい、消えたぞ!」


 「どこ行った!」


 「奴の異能だ! 消えたわけじゃない! 奴のいた周囲を攻撃しろ!」


 天香の異能は凄く便利なもので相手の視界に干渉して撹乱させるというもの。

 透明化したのも実際には透明化しているというわけではなく、透明になったと僕達が錯覚しているのである。

 だから別に透明化じゃなくとも相手の視界に別の人物と誤認させたりすることや自身を巨大な怪獣に見せ掛けることも可能。

 あくまで視覚を支配するだけなため声が出れば天香の声だと種明かしも容易いのだが──。

 ともあれ消えた相手を対処するのは魔素を識別しない限り困難と言えるだろう。


 「か、刀を奪われた!」


 「どこにいん──ぐわあああああ!!!」


 「いいから捕まえろ! そうなりゃ勝ちだ!」


 僕から見ると暴れ回る集団の首や胴体が勝手に裂けて血が噴出する謎の現象に見える。

 こんな一般人も通る場所で問答を起こすのは勘弁して欲しいね。


 「勘弁してくれないかなぁ」


 小銃を持つ男の両腕が斬り落とされるとそのまま川に突き落とされる。

 僕は邪魔にならぬよう身を屈めて小銃を拾いに行く。

 僕を襲撃しようとする者がいたので拾った小銃で発砲して始末。

 やっぱり素手より銃の方が効率が良いなと改めて実感。


 「いたぞ! 殺せ!」


 「馬鹿、俺じゃねぇ──ガハッ!」


 「どれが本物なんだよおい!?」


 あぁ、アウトロー自身を天香に見えるように錯覚させているな。

 天香の異能は自分を他人に偽装すること同様、他人を別人に見せることも可能だ。

 それで同士討ちや相手を錯乱させることも出来るのである。

 そうして同士討ちで数も減り一人残した上での最後の一人の胴体を刎ねて天香は僕の前に姿を見せた。


 「もう僕じゃ君に勝てないね」


 「終わり。デートを再開するわよ」


 こんな大規模な戦闘が起きたら天岩戸や処理班の仕事が大変だろうなぁと同情する。

 血塗れの天香ちゃんと今の有様じゃ観光も難しいだろと中断を促す。

 とりあえず納得した天香は特異の者が参上するまで待機することにした。


 「あの人達は何? 友達?」


 「友達同士で殺り合わないでしょ。大阪で鬼の敵生体を潰したからその関係者じゃないかしら」


 「じゃ、まだ大元が生き残っているのかな。どうするの? 潰す?」


 「奴等の拠点も特定してないし情報部からの報告があれば潰しに行くわ」


 それまでは観光を満喫すると。

 だが、また追っ手も来るのではと問うと、その時はまた追い払えばいいと頼もしい発言を繰り出す。


 「それで生かした彼はどうするの?」


 「情報部に吐かさせるわ」


 うーん、流石優秀な一等なだけある。

 僕だったら敵対勢力全員皆殺しだし。そのせいで血の王冠を襲撃した時は大分時間を無駄にしてしまったわけだし。


 「こんなはずじゃ……!」


 「なんか怯えているよ彼」


 「勝てると踏んだ相手に自分以外全滅させられたらああなるわよ」


 一人で二十人程度を相手取るなんて流石天香なだけある。

 再生が取り柄で少し頑丈なだけの僕では成長期の天香には、もう敵わないなと再認識。


 「そういえば、その異能の名前なんだっけ」


 「──霞桜かすみざくらよ。カッコいいでしょ?」


 か、かっけェ……!

 ちなみに霞桜の名付け親は天香本人である。


 「僕に何か二つ名というか異能名ない?」


 「…………」


 天香はしばらく思案し、その冴えたるセンスを発揮させる。


 「……ゾンビくんでいいんじゃない?」


 「うわダッサ」

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