第41話 恋話会その2
真×王女の恋を成立させようとしていたら王女→小夜くんになっていた件。
ど、どうしてなの……?
僕は王女誘拐事件では引き立て役として無様に滑稽な姿を披露しただけだ! それが何故僕に矛先が向く!?
ま、まずい……こんな屑人間をお慕いさせるわけにはいかない……! 何とかして軌道修正しないと……!
「王女殿下、貴女のお言葉は嬉しいのですが、私と貴女は身分が……何より私はF級の召喚者であり劣った蔑まされる者。そんな私にそのような感情を抱いてはなりません」
そう告げる僕の前に駆け寄ると王女は僕の手を握り締める。
「サヤ様の活躍は全てあの場にて聞いています! 貴方が私を救うべく必死に……身を削って立ち向かう勇気に……私は惚れました……!」
気絶してたんじゃなくて起きていたのかよ……!
エッ、でも飛香が解放したら気を失っていたはずでは……。
と、ともあれ僕の時間稼ぎ&引き立て役の演技が王女には刺さったらしく、僕が勇猛果敢に立ち向かう者に見えたようである。
「それに……サヤ様は何よりも私のことを考えてくれましたよね……? お父様に私の我儘を許して欲しいと……」
報酬要求の時にもいたのかよ……!
いやあれは年下への同情心でそれ以外のことはなくてですね。
「私などではなく王女殿下には相応しい男が……例えば真くんなどが──」
「私は他の者ではなくサヤ様に恋をしているのです!」
「え、えぇ……?」
「ですからサヤ様をお慕いしております!!!!!」
駄目だ……王女の恋煩いは吊り橋効果のようなもの。それと一時の気の迷いに過ぎない。きっと僕を知れば軽蔑するに違いないのだ。
「僕は女の敵と罵られる駄目人間ですよ?」
「それはサヤ様の魅力を知っていない愚か者が吐かしている戯言です! 何も気にする必要はありません!」
「僕はF級の召喚者ですよ?」
「私は順列や身分には拘りません!!!」
「僕には二人の幼馴染がいますよ?」
「私は愛妾でも問題ありません!!!!!」
「助けてミカ」
「自分で何とかしたら?」
ミカへ救いを求める声は虚しく拒絶され掻き消された。
王女の曇りなき眼と圧倒させる勢いに怯む。
ま、まぁ何れ僕に幻滅して真に心移りするだろうなと、一先ず彼女の気持ちを受け止めておこう。
「えぇと……王女殿下の思わぬ恋が公開される形となりましたが、無回答の人に回答をして頂くことにしましょうか」
「王女殿下ではなくイリスとお呼びくださいサヤ様」
「王女殿下……イリスの次は誰かな……?」
僕の促しに挙手したのはミカである。
ミカは不服そうに腕を組みながら吐き捨てる。
「私は小夜くんかなぁ。危険行為をするなとあれだけ言われたのに破ってイリスを助けた小夜くんかなぁ」
「私も小夜くんですね。仮に私もイリスさんの立場であれば惚れてしまうこと間違いなしでしょう」
「二人に同意だ。嘘吐きで女の敵で自殺志願者の大馬鹿者だが、まぁ嫌い程度の小夜くんだ」
「私もモテ男の小夜くんに一票だ。あぁ……求婚とはイリス宛てだったのだな小夜くん」
「では私も小夜ちゃんで」
「ンじゃァ俺も小夜に投票するかァ」
「というわけで俺も小夜に入れるよ」
そうして無回答の皆の回答は小夜くんということになり、15人中10人から得票した僕は皆から好かれていることが判明した。
……アヴェランス。ラナイアには絶対報告するなよ話が拗れるから。
席があるのかよく分からないが席替えとなり確実談笑に耽ることになる。
そうして僕は凛ちゃんと和泉と同席となり他愛もない世間話をすることにした。
「そういえばウチの組って結構美男美女勢揃いだけれど、誰かが付き合っているだなんて浮いた話あんまり聞かないよね。なんかないの? 誰々が誰かを好きだとか」
普通高校生なら誰々がカップルだとか出てもいいのだが、情報に疎い僕は何も耳にしたことがない。
噂好きの和泉ならば何か仕入れているだろうと問う。
「ウチのクラスは誰も恋人はいないぞ」
「えっ……本当?」
「言わば非リア充の集いだ」
嘘でしょ……何それ可哀想。もしかして3組呪われている?
いやウチには可愛いとして人気のある藍葉さん芦屋さん有栖川さんがおり、というか他の面々も全員美少女という仕組まれたとしか言いようがない組なのだが。
男子も真と轟くんと鬼龍くんは然り、言動はアレだが顔立ちの良い近衛くんや眼鏡を外すと美少年になる矢田部くんがいる。千丈くんと乙無くんと石川くんと御上くんと炎堂くんだってモテる要素は備わっている。
「ちなみに御二方は過去に彼氏がいた経験とかは……」
「私は年齢=ですので」
「私に彼氏が出来ると思うか?」
「そんな悲しいことがッ……! なんて現実は残酷なんだ……! まだまだ誰かと恋愛したい年頃だろうに……!」
「馬鹿にしているのか?」
僕が事情な現実に嗚咽していると和泉に脇腹を小突かれる。
「馬鹿になんかしてないッ! だって二人とも可愛いじゃん……!」
「「…………」」
「大丈夫! きっと必ず良い人に巡り逢えるから!」
そう僕は励ますように二人の肩に手を置く。
和泉は肩に置かれた手を振り払い軽蔑した視線を送りながら告げる。
「我慢していたんだが殴っていいか?」
「僕死ぬけれどいいの?」
「死んでいい」と冷淡に吐き捨てられ現実の非情さを痛感していると話題の矛先は僕に向かう。
「そういう小夜くんも私達の同類じゃないか」
「んまぁ、一応は……」
こう見えて僕は彼女達とは違い交際経験が皆無というわけではない。黒幕時代の前世では恋愛感情はなかったにしろ一応は何人かと交際はしている。
明確に覚えているのは寝取った女の子と鉈で僕を両断した子くらいではあるが、それなりに恋愛経験は豊富なのである。
「なんだその間は。まさか小夜くんには彼女がいたことがあったのか? まぁそんなはずはないか。君みたいな薄情な大馬鹿者に──」
「いなかったと言えば嘘になるね」
「は、はあああぁぁぁ!? なんだそれは知らんぞ!?」
大声を上げる和泉は注目を浴びると咳払いをして取り繕う。そんな和泉は僕に詰め寄る。
「私の情報には君の元カノはないぞ……!?」
「そりゃ言ってないし」
「というか君には元カノがいたのか……!?」
「そんな驚かれるようなことなの?」
そんなに僕が彼女出来なそうな人間に見えるのかな。失礼だなコイツは。
「つまらない自尊心のために嘘を吐くな……。いいんだ、誰も君を失望したりなどしない。正直になれ小夜くん」
「包み隠さず正直になっているんだけど」
つまり君達非リア充とは次元が違う存在なワケさ僕は。
ごめんねモテ男で……。
「衝撃ですね。まさか私の小夜ちゃんがどこぞの知らない女とそんな関係だったとは」
「若気の至りってやつさ。それに過去は過去。もう終わった話さ……」
「私は信じないぞ! こんな女の敵の大馬鹿者に好意を抱く者が……あ、いやイリスさんがいるのか……! ともあれ、私は信じないぞ!」
何を和泉は僕の交際歴に必死になっているの?
僕に元カノがいることにでも不都合があるの?
あ、もしやコイツ……僕に嫉妬しているな? モテなそうな僕に実は元カノがいたと聞いて羨んでいるな?
「可愛いなぁシャルロットは。やっぱり君も年相応に嫉妬するんだねぇ」
「だ、誰が君になど嫉妬するか……! 頭を撫でるな……!」
僕は反応の良い子を揶揄うのが趣味であり、普段済ました面をしている和泉の狼狽えるギャップには唆られる。
小動物を愛でるように和泉を堪能していると腕を粉砕させられるほどの握力で圧迫される。
「そろそろ」
「交代の」
「時間だな小夜くん?」
どうやら交代の時期となったらしく凛ちゃんと和泉とお別れして伏見先生とミカの二人と恋話することになった。
ゲッ、ミカかよ……。
「ゲッ、ミカかよ……」
「おぉーい、口に出てるぞ? 私の何が不満なのかな?」
滅相もございません。決してそんなことは……。
「先程凛ちゃんと和泉の話題で知ったんですが、どうやらウチの組は非リア充の集いらしいですね先生。他の組は付き合っている人とかいたりするんです?」
「噂で聞いた程度ですが1組の
へぇ……他の組にもいなかったら高天高校は呪われていることになるんだけれど安心した。
というか確実に人間じゃない苗字が出ているけれど大丈夫なの? 特異として出勤した方がいい?
もしやウチの組にも人間じゃない物が紛れていたりするのかな? あ、黒猫さんがいたわ。
「ところで小夜くん」
「な、何ですか」
「小夜くんに以前元カノがいたって話を聞いちゃったんだけれど……本当?」
これはなんと返答すべきか……。返答の次第によってはミカに絞殺される恐れがある。
以前交際していた子の記憶など記憶の片隅にもないし余計なヘマや深掘りされるのも御免だな……。
「す、すいません、実は見栄を張ったんすよ。軽い冗談のつもりで……」
「…………」
「僕って嘘吐きのお調子者なんで……ついうっかり」
「次はないと思え」
「ははぁー! 大変申し訳ございません!」
こうして本当にいた僕の元カノは忘却され消滅した。
そういえば寝取った子や鉈の子の名前ってなんだっけ……。まぁ何十年もの前の話だし別世界だし一生会うこともないだろうしいいか。
話を転換させるため僕は話題を振る。
「先生って美人じゃないですか。なのに何で彼氏いないんです?」
「美人って……お世辞は辞めてください。そうですね……仕事柄……まぁ言い訳みたいなものですけれどね」
真×王女計画が難航する今、僕は真×伏見先生を進展させるべく暗躍することにした。
「真くんなんてどうです? どう思いますミカさん」
「私もある意味ではアリだと思う……。なんかお似合いそうな雰囲気があるし」
「いやだから……生徒と教師ですよ? 御法度に決まっているじゃないですか……!」
あくまで以前の世界であればですよ先生。
もうここは異世界……日本の法律に縛られる必要はありやせん……。欲望の解放が下手だなぁ先生は……。先生が彼氏欲しいんでしょう……?
「このまま憲法の奴隷と化しながら一生恋人も出来ずに一人孤独に生きるのと柵から解放されて真と幸せになるのどっちがいいんです?」
「せ、先生を揶揄うのは本当に辞めてくれませんか……」
「周囲の知人は皆結婚して家庭を育む中、先生だけは一人っきり……そんなの辛いと思いません?」
「それは確かに……そうですが……!」
ヨシ、あと一押しでイケるな。
「そんな先生にお勧めの相手が丁度良いことにいるんですよ。彼の名前は武部真くん。容姿端麗運動神経抜群頭脳明晰と文武両道な好青年。家事万能な料理上手にして仕事疲れの先生を癒してくれることは間違いないでしょう」
「別に真に絞る必要はなくない? 先生なら異世界の男と仲良くなれるでしょ」
「黙ってろミカ……! もう少しで落ちるんだから……! ……そんな真くんの大親友であるこの僕が先生と彼の間を取り持ってあげましょうか?」
「比良坂くんのご厚意……? は、ありがたいのですが……やはり生徒と教師がそのような関係になるのは……」
種は蒔いた。
先生の心は良識と欲望の狭間で揺らぐ。
後は真の先生への想いを目覚めさせたい上で王女誘拐事件的なのが発生すれば落ちるなと確信。
そうして先生に植え付けさせたところで交代の時間となり、二人は僕の元から去っていく。
さて次の担当だが……。
「待ち侘びていたぞ小夜くん。さぁ思う存分楽しもう」
「よろしくお願いしますね小夜くん」
鈴華と鳳凰院さんという大分消耗しそうな相手を担当することになった。
急にドッとくる疲労感に愛想笑いをするしかなかった。
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