第40話 恋話会その1
予定通り恋話会を実施することになり僕は集合場所の鈴華の部屋に赴いた。今回の参加者は鈴華・ミカ・鳳凰院さん・黄泉・飛香・和泉・凛ちゃん・八雲さん・黒猫さん・伏見先生・王女・真・轟くん・鬼龍くん・僕である。
いや多くない……?
先生と王女を除くと3組30人中13人が出席していることになる。普通4〜5人程度でやるもんじゃないの? おまけに参加はしないもののアヴェランスが同席しているため、この場には16人もいるということになる。
参加の意思表明をしていなかった鬼龍くんが出席しているのは、今回の王女誘拐事件の協力者として皆に出席を促されたからである。
相変わらず陰の薄い小夜くんは両脇に幼馴染を添えながら優雅に紅茶を嗜む。
最近能力値発表や病弱設定に王女誘拐事件などで僕は目立ち過ぎていたため、僕は自重しようと聞き役に徹することにする。
それにこの頃は鈴華とミカと鳳凰院さんからの当たりがキツイため、そうならないように気を付けようというわけである。
おまけにこの三人組に和泉が追加されそうな予兆がある。それはイカンと僕は大人しくする必要があるのだ。
ともあれこの大人数で恋話って何をするんだと事の成り行きを見守る。
別に順序や進行なんてなく各々自由気ままに談笑に耽っている様子である。
王女の側には鈴華と八雲さんがおり、伏見先生は轟くんと鳳凰院さんが語り合っている。
こりゃ抜け出してもバレないな……。
「どこ行くの小夜? 脱走?」
「いやお花摘みさ」
「では私達もご一緒します」
両脇の幼馴染に「お花を摘みに」と告げると二人も立ち上がるので、異性同士で連れションは駄目だろと押し留める。
そうして忍足で気配を殺しながら扉に手を掛けると僕の肩にも手を掛けられる。
「どこへ」
「行くつもり」
「なのかな小夜くん?」
「ご、ごめんなさい」
容易く三人組に拘束され僕の脱走は叶わなかった。
三人組に連れ去られた僕は監視の目を光らせられ、彼女達の中に組み込まれる。
幼馴染二人も僕の側によると凛ちゃんが音頭を取る。
「では雰囲気も和やかになったところで恋話会を開始したいと思います。どうぞ拍手を」
あれっ、まだ開始されてなかったんだ。というか恋話って司会とか必要なの? 自然に話が進んでいくようなものじゃないの?
拍手をする理由は不明だが僕以外の皆が拍手をしているので僕も遅れて行う。
「先ず皆様には軽い自己紹介を行って頂きます。では幹事である私から。2+2=80、彼氏いない歴=年齢の東條凛です。どうぞよろしく」
合コンかな?
凛ちゃんの挨拶を終えると拍手が響く。
いや自己紹介必要あるのかなと思ったが、王女に顔と名前を一致させるため必要だなと納得する。
凛ちゃんから時計回りということで続いて自己紹介するのは鬼龍くんとなった。
「鬼龍暁斗だァ。恋話なんて興味はねェがァ……参加しねェと勝手に好きな人を捏造して、ソイツと気まずい関係にさせるぞなんて脅迫されたンで参加したァ。八雲と黒猫は覚えとけよォ」
か、可哀想……! 八雲と黒猫の被害者は僕だけじゃなかったんだね……。
そうして鬼龍くんに同情する中、自己紹介は続いていく。
「
「八雲椎奈だよぉ。恋愛対象は女の子限定。女の子が多くて嬉しいよぉ」
「轟豪、ハイ、ヨロシクゥ! 普通にノーマルな感じなんで女の子が沢山で良いねぇ!」
「彼等の担任をしております伏見結梅子です。未だに場違い感は歪めませんが歓迎されているらしいので、ありがたく参加させて頂きます。どうぞよろしくお願いします」
「和泉シャルロット。今日は楽しませてもらおうか」
「橘三日月でーっす! みんなからはミカって呼ばれてまーっす! こう見えて美少女の人気者です! どうぞよろしく!」
「月読黄泉です。僕は隣の小夜の彼女だよ。どうぞよろしく」
黄泉の発言に皆の視線が僕に集う。特に四人組からの視線が痛い。ちょっと待て、僕は何もしていないんだけれど。
お前のせいで早速目立ったじゃないか。
謎の幼馴染の発言を尻拭いする形で僕は自己紹介を行う。
「戯言を吐かす黄泉の幼馴染の比良坂小夜です。彼女じゃありません。どうぞよろしく」
四人組以外からの拍手を受けて僕は飛香に譲る。
「まだ恋人ではありませんが小夜さんの幼馴染の御崎飛香です。どうぞよろしく」
余計な禍根を残すな。君達は僕に恨みでもあるの?
幼馴染二人の空気の読めない挨拶により僕への敵意は上昇しているようだが、僕は気にせず平静を装う。
「えぇと……鳳凰院輝梨那です。恋愛事情には疎く、高校生になるまでは誰かに恋をしたことはありませんでした。そのため面白い話などありませんが皆様よろしくお願いします」
へぇ、つまり鳳凰院さんは高校生になって誰かに恋をしたのか。鳳凰院みたいな別嬪に好かれるなんて光栄だろうなぁ。
そうして鈴華の前に本日の来賓客であるイリス王女へと移る。
彼女は相変わらず緊張した様子で挨拶を告げる。
「イリス・エクス・リュミシオンです。皆様には気軽にイリスと呼んで頂きたいです。どうか勇者様方……よろしくお願いします」
拍手喝采を浴び王女は恥ずかしげに縮こまる。
初々しい感じがなんかいいねぇ……。
そう王女を眺めていると彼女と目が合い直ぐに逸らされる。……何今の?
謎の疑問を残させる王女の仕草に戸惑いつつも、堂々と立ち上がる鈴華は意気揚々と告げる。
「天音鈴華だ! 生徒会長兼勇者をしている! よく会長は恋愛に興味なさそうと勘違いされるが一切合切そんなことはない! これでも乙女! 私は恋話や恋愛に興味津々だ! 今も好きな人に攻勢を仕掛けている真っ最中! 直に彼は私に陥落するだろう! さぁ諸君、今日も楽しもうじゃないか! 宜しく頼む!」
「へぇ会長ちゃんに好きな人がぁ……」「陥落するらしいにゃ」などと八雲と黒猫の僕を見る目が痛い。
いや陥落するどころか城壁に傷一つすら付いてないけれど。
鈴華にジト目で視線を送っていると彼女と目が合い、こっそりと鈴華は僕にウィンクを放った。
そして自己紹介の大取りを務めるのは王女救出の本当の功労者でもある将来王女と結ばれる予定の真くんである。
「武部真……。一応英雄なんて職をやらせてもらっている。どうぞよろしく」
真くん……君には失望したよ。
最後の締めを括る主演なんだから皆を沸かせるような挨拶をしてくれないと……。
これはガヤ芸人の僕が主演を引き立てる必要があるなと再度引き立て役に戻ることにする。
「は〜い、真くんに質問なんですけれどぉ、この中で付き合うとしたら誰が良いですかぁ?」
「えっ、何だその質問は……? 急に言われても凄い困るんだが」
僕のウザ絡みは恋話会こそ本領を発揮する。同じくウザ絡みのプロである八雲さんと黒猫さんも僕に同調する。
「そう言われても別に……なぁ?」
「なにさ真くん、私達の中にはいないってことなのかなぁ? はぁ〜失礼な男だねぇ」
「
本当我儘な男だよ真くんは……。
君が挙げる名前は王女一択だろう?
「言え」コールが鈴華とミカと八雲さんと黒猫さんと凛ちゃんと轟くんから上がる。
「っ……! 序盤からこれは早過ぎないか!? 駄目だ、まだ言えない! そういう小夜はどうなんだ!?」
返答に窮した小心者の真は僕にぶん投げる。
はぁ〜真くん、僕も言えないと踏んで投げたのだろうけれどそれは愚策だよ。
「そんなん黄泉と飛香に決まってますやん」
「嬉しいなぁ小夜。僕も小夜一択だよ。僕が本妻ということになるね」
「側室になりますが黄泉さんになら正室を譲っても構いません」
そんな幼馴染同士で和気藹々としていると明確な殺意を浴びせられる。誰だ舌打ちしたの。
まぁ僕の回答は模範回答過ぎて退屈だったため、幼馴染以外であれば誰だとミカにより回答を要求される。
「いやもう僕は回答したからいいでしょ……別の人行こうよ」
「小夜くんが回答してくれないと次の人に行けないんだよねぇ? 詰まっているから早くしてくれる?」
恋話で醸し出す雰囲気じゃないよ。
特定の人物からの圧力が凄いんじゃあ……!
ミカに切迫される僕であったがこれも返答に窮することはない。そんなん決まってますやん。
「えっ、凛ちゃんでしょ。馬鹿なの?」
「私ですか。照れますね」
だって生徒会三人衆を除くと一番仲が良いし。
言うまでもない特定の人物から盛大に溜息を吐かれ、そう言う流れが出来たのか「付き合うとすれば誰」を回答することになる。
現状の回答は下記の通りとなった。
僕→凛ちゃん
黄泉→小夜くん
飛香→小夜くん
八雲さん→黄泉
黒猫さん→鬼龍くん
轟くん→八雲さん
鬼龍くん→無回答
凛ちゃん→無回答
和泉→無回答
鳳凰院さん→無回答
ミカ→無回答
鈴華→無回答
真→無回答
おい、鬼龍くんから無回答が連続しているじゃないか……! は〜あ、白けるわこんなん。奥手な少年少女が多いことで。
真面目に名を挙げた僕〜轟くんは立派だよ本当。
「無回答は卑怯じゃないかなぁ?」
「そうにゃ。
「そうだそうだ! この卑怯者! いませんなんて回答も無しだぞ!」
僕と八雲さんと黒猫さんは抗議の声を挙げる。
そんな抗議活動を行う僕達を轟くんは静止する。
「まま、そう焦んなよ。それよりイリス王……イリスと伏見先生がいるんだぜ? とりあえず先生からどうぞヨロシクゥ!」
「えぇっ!? 先生も回答するんですか……!? というか先生が一番回答しちゃ駄目だと思いますが……! だって教師と生徒ですよ!?」
まさか自分も回答権があったとは思っていなかったのか伏見先生は大きく狼狽える。
確かに教師という立場上生徒をそういう目で見るのはイカンでしょ。そう内心呟くも色恋沙汰に興味津々な外野の女子が先生に押し迫る。
「大丈夫ですって先生! 教師と生徒の恋愛小説やドラマなんて物もあるし!」
「ここは異世界、日本国憲法に準ずる必要はないでしょう先生」
生徒の模範たる生徒会が後押しするなよ。
鈴華とミカを筆頭に肉薄された伏見先生は遂に白状する。
「武部くん……ですかね……?」
「えっ、俺ですか……!?」
「か、勘違いしないでください! 貴方は一番手間が掛からないですし問題行動も起こさない模範生ですので! 私が皆さんと同年代であれば武部くんかなぁと考えただけです!」
ふゥン、伏見先生の推しは真くんねぇ……。
それはアリだなと僕の思考が研ぎ澄まされる。
鈴華から借りた漫画では主人公のハーレム要員には教師も含まれていた。伏見先生は美人で男子からも人気はあるし主人公候補随一である真くんには先生も相応しいのではないかと思い至る。
「他言無用ですよ……? 本当……保護者や他の教師に知られれば問題になるので……」
「心配ありませんよ先生。今日の密談は他言無用がお決まりなので」
そうして鈴華から言質を取り疲弊する先生の次は、無回答の卑怯者を一旦飛ばして王女となる。
王女も順当な回答になることは明白だが……。
まぁ真くんと名前を挙げてもらい彼には王女を意識してもらうことにしよう。
そんな王女は顔を真っ赤にさせて心を決めたように息を呑むと遂にその名を挙げる。
「私は! サヤ様! ヒラサカサヤ様をお慕いしております!」
「……なんて?」
「うぅ……サヤ様です……」
王女から挙げられた名前は天変地異を引き起こすほどの衝撃を僕に引き起こした。
んな馬鹿な──と肩を落とす僕が王女を見詰めると、彼女は羞恥心に塗れた真っ赤な顔を手で覆った。
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