第39話 悪戯好きなラナイア
夕食を終えて一旦解散という流れになり、またもや恋話会まで待機という形になった。
参加者が多いので欠席してもバレないのではと思ったが、三人組+和泉に欠席するなよと念押しされる。
隙間時間の間は惰眠に耽っていようと自室に篭ることにする。
ちなみに僕の部屋に我が物顔で占拠していた二人の不届者は、これまた他の女子や先生から同室は厳禁だと言い渡され、不満そうに渋々な顔で了承していた。
ともあれ一人の時間を久しぶりに過ごせるなと部屋に戻ったや否やベッドに倒れ込む。
寝坊しないように体内時計を1時間くらいに設定して眠りに着こうとすると──。
「あら、もう寝ちゃうの?」
瞼を開けると目の前には制服姿のラナイアが添い寝していた。
それウチの制服だし……どこで調達したのか、それに何で僕の部屋に居るのかなどの疑問が浮かぶ。
「あぁ、これのこと? 可愛いから拝借したのよ。どう似合ってる?」
「とても良くお似合ですが大人が無理して着ている感がコスプレ感が凄い。う〜ん90点」
「貴方に褒められるなんて着てみた甲斐があったわね。後半は余計だけれど」
案の定、ラナイアは誰かの制服を盗んだようである。おまけにサイズが合っていないのか「胸がきつい」と第二ボタンまでを外して色気を出す。
誰のを拝借したのかと問うと丁度背丈が同じくらいな鈴華だという。鈴華さん……。
「それはそうと何用なんですか。ただコスプレ披露しに来たわけじゃないんでしょ」
「あら、用事がなければ貴方に会いに来ちゃ駄目なの?」
「仮にも千年王国の盟主なのにサボっちゃっても大丈夫なの?」
「サボりじゃないわ。ちゃんと休暇を貰って来ているから心配は無用よ」
ラナイアは有給を使用してまで僕に会いに来たようである。アレかな、先日僕に拷問を味合わせずに撤収されたから、その腹いせに僕の元に参上したのかな。
僕はラナイアから顔を背けようと寝返りを打つと、彼女に寝返りを無理矢理起こされ元の位置に戻る。
「悪いけれどこの後予定があってね。今日はお暇してくれない?」
「私より彼等の方が大事なの?」
彼女みたいな発言しやがってコイツ……。
高天高校の連中もラナイアもどっちも大事に決まっているだろうと。照れ臭いので言わないでおくけれども。
「恋話会するらしいわね」
「えっ、何で知ってるの」
「フランから聞いたわ」
報連相を怠らないアヴェランスは、恋話会に参加することや僕が兄弟に集団暴行を受けて王女を救出させた一件も把握しているらしい。
いや恋話会は報告しなくていいでしょ。
「私も参加しようかしら」
「駄目に決まってるでしょ。見知らぬ謎の美人エルフが参加したら、ちょっとした騒ぎになるよ」
「あら、貴方は私を美人だと思ってくれているの?」
僕の美的感覚が鈍っていなければラナイアは、僕の知る限りの人物では一番容姿が良い。
山田田中は勿論のこと、うっかり真が彼女に惚れてしまう危険がある。そんな魅力のある人物なのだコイツは。
真×王女を一押しする主義者の僕にとってラナイアを参加させるわけにはイカンのである。というか、そもそも部外者のラナイアを参加させるわけにはイカンだろうと。
「とにかく駄目だ駄目」
「どうしても……駄目?」
だから、そんな可愛い顔をして僕に迫るなと。
心なしか胸の谷間を寄せ付けて強調しているような気がした。
何なの? 君達は色仕掛けがマニュアルに記されているの?
だが勃起不全性欲皆無の僕に色仕掛けは通用しないので如何に巧妙な技術を駆使しようが意味はない。
「大体ラナイアが知らない人間の恋話なんか聞いても面白くないでしょ」
「女の子は知らない相手の恋話でも楽しめるものよ? それに私には『記憶消去万年筆試作1号記憶なくな〜るくん』があるわ」
ラナイアが谷間から取り出した便利道具は、ボタンを押すことで万年筆が発光し、その光を見た人間の記憶を消去させるというもの。
要はコイツは何食わぬ顔で参加した後にラナイアが参加した記憶を都合良く失くすとのこと。
「これで問題ないわ」
「いや参加した初っ端で誰だコイツってなるでしょ」
いや待てよ……?
この万年筆を用いれば僕のヘマもとい設定を抹消出来るのでは? そうすれば僕の病弱と王女救出立役者の功績を失くすことが出来るのでは……?
「ちょっとそれ貸してくれない? ちょ〜っと皆から抹消させたい記憶があってね」
「いいけれど試作段階の物だから1時間前の記憶しか消せないわよ?」
「へぇ凄い。まぁいいや貸して」
ダイヤルで時間の調節をすることが出来るらしく、1時間前と言ったがそれ以前の時間の記憶も消せるらしい。
最高で1日前であり僕の病弱設定は事実となってしまうが、王女救出が失くなるならいいやと拝借することにした。
「ただ1時間前になると対象の人格が破壊され廃人になるわ」
「何それ怖い」
「これ正確には記憶を消去させることじゃなく人格破壊が使用目的なの。消去はおまけよ」
だったら記憶消去万年筆じゃなくて人格破壊万年筆に名を改めろと。というか、そんな物騒な代物を使用出来るわけがないだろうと。
病弱と救出は諦めるとして後で尸織に試してみるかと、このままお借りすることにした。
「使用回数は10回だけれど私が既に7回使用したから残り3回ね。……やっぱり、残り3回で心許ないから返してくれる?」
どこでこんな物騒な道具を7回も使用したんだ。
魔力による充電機能があるらしい。まぁ特段使用する場面もないし別にいいかとラナイアに手渡す。
まぁコイツなら心配ないとは思うが、ふと気掛かりに感じた僕はラナイアに問う。
「一応聞くけれど僕に使用してないよな?」
「──勘が良いのね貴方は」
うわぁ、やったわ……コイツ……!
どこかで僕の記憶を消去しているわコイツ……!
怖いよ……! 僕はラナイアに何をされているの……!?
「貴方には悪戯程度しかしてないから安心して」
「悪戯されているんだ……尚更安心出来ないよ。何したんだよ……」
畏怖した僕は起き上がりラナイアから距離を保つ。
そんな僕にお構いなしにワイシャツのボタンを全部外すラナイア。綺麗だと感じても反応はしない僕であるが、急に発情期を迎えるコイツが何を仕出かそうとするのか予想は付く。
「可愛い……。既に一回しているのに震えちゃって」
エッ、僕はラナイアと経験しちゃったの!?
いやいやそんな記憶は…………アッ! 人格破壊万年筆で記憶を失くされているわ!
舌舐めずりして僕に接近する半裸のラナイア。壁に追いやられた僕に逃げ場はない。
そんな彼女は唇が触れ合う距離に近付くと囁く。
「──というのは冗談よ」
良かった……責任を取らなくていいんだ──安堵する束の間、ラナイアは目を瞑ると唇を僕に重ねさせた。
そして強引に舌を捩じ込まれ口内を奴に掻き乱される。同意なしに強制はイカンだろと抵抗する僕を屈服させると、ラナイアはそのまま僕をベッドに押し倒す。
そもそもコイツに抵抗しても敵うはずがないので、ならば満足するまで身を任せようと受け身の姿勢で身を委ねる。
その後、5分間弄ばれた衰弱する僕の胸元でラナイアは囁く。
「続きはしないでおくわ。本当は貴方から来て欲しいから」
「そうっすか……」
上半身を起こしたラナイアは乱れた髪を靡かせると僕に万年筆を見せる。
お前、最初から僕の記憶を抹消させるつもりで──ッ!
万年筆を奪い取ろうとする僕に彼女は告げる。
「愛しているわレイ。それとごめんなさい──」
発光と同時に僕の記憶は消去された──。
「…………」
いつの間にか熟睡していたらしい僕の側には何故か制服姿のラナイアがいる。おまけに何故か膝枕されている。
彼女は見上げる僕の髪を撫でると「おはよう」と微笑む。
何故僕の部屋に幼馴染二人ではなく千年王国の盟主がいるのだろう。それとその制服は何なのだろう。
「とても良くお似合ですが大人が無理して着ている感がコスプレ感が凄い。う〜ん90点」
「貴方に褒められるなんて光栄ね」
この子一応僕達より百年は生きているし制服って柄でもないでしょ……。
「それより何しに来たの。夜這い?」
「私がわざわざそんなことのためだけに貴方に会いに来るわけないでしょ」
確かに。我等が千年王国の盟主であるラナイアが夜這いだなんて馬鹿げた理由のみで顔を出すわけがない。
となると何かしらの計画のために連絡に来たのだろうか。いやでも連絡役のアヴェランスがいるわけで、わざわざ盟主様自ら赴くとは……。
「ともあれ僕はご多忙な身でね、盟主様の相手をする時間はないんだ」
「恋話会するんでしょう?」
それもアヴェランスから筒抜けになっているのか。そんな情報はラナイアに報告しなくてもいいのに律儀な子だ。
恋話会ということは王女救出の件も伝わっていそうだな。
「王女誘拐事件はご存知かな」
「えぇ、フランから既に聞いているわ」
「誘拐の件に関して気掛かりな点がある」
誘拐犯である僕が相対した兄弟、あの二人は王女を誘拐した犯人ではない。
あの程度の実力者が皆の目を盗んで王女を攫うことなど不可能。あの二人の他に別の実行犯がいるわけである。
──今回の件で17人の同胞が亡くなった。
ラナイアが僕を嵌めた日に告げた謎の今回の件とやらには、宰相と血の王冠とは別の猛者が関わっていると睨んでいる。
すなわち今回の実行犯は、王女を攫った猛者の一人ではないかと。
「心当たりのある人物はいないかい?」
「現状最優先駆除対象を駆逐した今、ベルノワ市には重要な人物はいないはずだけれど……」
エッ、いないの……?
じゃ、じゃあ……君達は誰にやられたの……? 実行犯は何者なの……?
ア、いや……千年王国に存在を悟られない程の実力者がいるのか? となれば僕が敵うはずもないし厄介だな……。
「そういえば……私達とは無関係な別件になるけれど、少し前に帝国貴族の屋敷にある高額な絵画が盗みに遭ったそうよ」
「本当に別件だね」
「叫んでいる男の油絵らしいけれど、丁度部屋に飾られている絵画と特徴が一致しているわね」
ラナイアは僕が先日屋敷から調達した絵画を指差す。
あの贋作絵画が……実は帝国貴族の盗品……?
いやいやいや! ないでしょ。だって僕は血の王冠の屋敷から拝借した物だよ? それにアレは贋作……高額なわけがないよ。
「や、やだなぁー……ご、誤解だよ! そもそも僕が召喚されたのは一昨日……時系列が一致してないだろ? それにこれは贋作。きっと贋作さ」
これが万が一帝国貴族からの盗品だったら僕は盗んだ犯人として断罪される恐れがある……! そうなると僕は帝国の敵となり怪盗として名を馳せることになる……!
面倒事に巻き込まれる前に絵画の処分……証拠隠滅をしないと……! あ、そうだ……千年王国に押し付けよう!
「実は君への贈り物として拝借していたんだった。ラナイア、君に譲るよ」
「貴方の好意は嬉しいけれど私達は厄介事に巻き込まれたくないから遠慮しておくわ」
自分から厄介事に首突っ込むくせに今になって何を尻込みしてんだよコイツは!
「受け取ってくれラナイア。僕からの君への感謝の気持ちなんだよ」
「強引ね。強引なのは私を口説く時だけにしてくれない?」
「綺麗で美人なラナイアに似合う美しい絵画だと思わないかい? さぁ受け取ってくれ!」
「美しいというより寧ろ禍々しいけれど」
お前等はやっていることは盗賊と変わらないんだから素直に受け取ってくれよ……!
というか帝国貴族→血の王冠の屋敷→僕の部屋に行き着くとかどうなってんだよ! 紛らわしいことするなよ……!
イヤ待て……まだ本物と確定したわけじゃないんだ。
仮に本物だったとしても闇夜に紛れて捨ててくればいいだけの話。そんな単純な話じゃないか、COOLになれ比良坂小夜……!
「そろそろ時間ね。私はお暇させてもらうわ」
「か、帰っちゃうの?」
「あら、あれだけ私を帰らせたかったのに急な心変わりね」
「グッ……! もういい、お前なんて知らん! さっさと帰れ!」
「寂しいことを言うのね。まぁいいわ、お休みサヤ」
非情なラナイアは窓から飛び降り姿を眩ます。
というか、アイツは何用で僕の前に顔を出したのか。
まさかコスプレ披露しに来ただけ……?
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