第36話 許せシャルロット
「私の職業は名探偵だ」
「自称でしょ?」
「違う違う違う! ほら……私達は召喚されて技能や職業が付与されているだろう……?」
和泉シャルロット
はぇ〜……やっぱり本人の傾向に沿った職業が当て嵌められるんだなぁ。
ともあれ、この和泉は自称から正真正銘の探偵に昇格したようである。
「私のスキルには『追跡術』というものがあってだな、まだLVは低いようだが地図を見れば何となく居場所が分かるらしい」
「凄っ……」
「この追跡術を発動させて地図を見れば王女の居場所までの経路が青い線によって映し出すことが出来る」
「なんか探偵関係なさそうだけれど……でも凄いね」
「だろう? 私は名探偵だからな」
和泉の追跡術により王女の居場所を掴むことが出来た。
やはり彼女は4区に居るらしく街の中心地から外れた場所に囚われていることが判明した。
「でも皆と作戦会議しているうちにやっとけば良かったんじゃないの?」
「その時はスキルの存在を見落としていたんだ、仕方がないだろう?」
「これまでの推理と考察を一瞬で無に帰す解決法になったね」
「一々君は喧しい!!! いいだろう!? 結果的に私のおかげで居場所が判明したのだから!」
拗ねてしまわれた和泉。
揶揄うのはこの辺りにしてだな……! 散々弄んだ小夜くんは相手を褒めることを忘れない男なのだ。
「でも凄いよ和泉。君がいなければ見付けられることはなかったはずだ」
「だろう?」
「流石だよ和泉。真面目な話になるけれど君がB班にいなければ……こうも容易く解決出来なかったはずだ」
和泉の追跡術は現状地図を見なければ分からないらしい。
すなわち地図を持ち出した僕がいなければ、探偵の和泉がいなければ王女誘拐事件の解決に近付くのは困難だったと言える。
「さて行くか! 王女の居場所に!」
「待て待て待て、待たないか小夜くん。君は王女の元へ行ってどうする気だ?」
「救出作戦に移るわけだけど。急にどうしたの?」
「急にどうしたは君だ! いいか? 私達の役目はなんだ?」
「王女の救出でしょ? 何言ってんの?」
「違う違う違う! 救出は兵士の役目だ! 私達は王女を捜索することであって救出自体は専門の者に任せておけばいい! それに危険な行動は慎めと先生や椎奈さんから再三言われただろう!?」
急に良い子ぶりやがってコイツ……。
後は待ち構えているだろう誘拐犯と僕が八百長をしつつ和泉に真を呼び寄せることで計画は成就するというのに。
あ、そういえば真が闘う誘拐犯が留守だったらどうしよう……。そうなれば真の不戦勝で特に名場面もなく救出してしまうな……。
どうしよう……その時は僕が誘拐犯と偽って真と対峙し、無様に負け散らすのがいいのかな……?
「まぁいいか。とりあえず行こう」
「よくないよくないよくない! 私達の今後取るべき行動はだな、王女の居場所を兵士に報告することだ!」
「報告している間に別の場所に移動されたら面倒でしょ。見張っとかなきゃ」
「私の追跡術があるから移動しても居場所は分かる! だから皆と合流して報告をするのが優先だ!」
正論言いやがってコイツ……。
僕は引き留める和泉を引き摺りながら彼女が示した目的地へと向かう。
「見張りは建前で突撃する気だろう……!?」
「う、ううん……」
「子犬の君が誘拐犯に敵うはずがない! 君のそれは勇気ではなく無謀だ!」
「だとしても……男の子にはカッコつけたい時があるんだよね」
「限度を知れ! 君は自分の命に無頓着過ぎる!」
その言葉に僕は思わず足が止まり、急に止まったことで背中に和泉が激突する。
「いだだ……急に止まるな馬鹿者……」
「やっぱり僕は命には優劣があると思うな」
「ううん? 急にどうした……?」
「トロッコ問題ってあるじゃん。他人を救出するために他人を犠牲にするか的な。やっぱり命には優先度ってあると僕は思うんだよね」
未来ある子どもと先行き短い老人の片一方どちらを救うか? 僕は容赦なく子どもを選択する。
同様に一国の王女と無力無能能無しの召喚者の片一方ならば、僕は遠慮なく王女を選択する。
善人か悪人か、当然善人に決まっている。
僕における立ち位置は、後者であると僕は思っている。所謂価値が薄い者側だ。
「王女か僕の犠牲になるならば、それは当然僕であるべきだと思う。僕が突撃しなければ王女は死ぬ。僕が突撃すれば王女は死なない」
「それは仮定の話だろう!? 誘拐犯の動機は政治か金銭だ! 易々と殺すとは思えない!」
「それも仮定の話だよ和泉。そうではなく、ただの殺人鬼だったらどうする?」
「もう仮定の話しかしてないじゃないか……! だから私達は確実性のある兵士に委ねるのが当然であってだな……!」
そういうわけにはいかない、僕は時間が惜しいんだ。
それに僕は死なない。僕って弱体化しているけれど犯罪者程度には負けないから。
「大丈夫だよ僕は死なないから」
「子犬に負ける君ならば瞬殺されるに決まっているだろ!」
ウーン……設定上赤ん坊以下の僕が突撃への信憑性を持たせるにはどうすべきだろうか?
あ、丁度いいことにアレが使えそうだな。
「さっき僕はミカに打たれたでしょ? でも死ななかったでしょ? だから大丈夫さ」
「それは三日月さんが本気でなかったからであって誘拐犯が本気で君を殺そうとしたらどうする……!」
「ヨシ、そろそろ目的地だな」
「話を聞けぇ……!」
そうして目的地の住宅街付近に到着する。どうやら王女は建物の何階かにいるようである。
後は僕の聴覚で犯人と思わしき居場所を探ることで何とかなるな。
見張るだけだから平気と告げても、信頼度の低い僕を和泉は信用せず元の道に引き返そうとする。
「君を行かせるわけにはいかない……!」
「だから見張りだけだと……いい加減分かってくれよ和泉。何もしないままバッドエンドになる結末は嫌なんだ」
「もし仮に……君を死なせてしまった場合、バッドエンドになるのは私達──私だぞ!?」
「王女は救出されハッピーエンドになるじゃないか。というか僕は死なないよ」
「何を根拠に死なないと吐かせるんだ君は……!」
僕の胸を弱々しく叩く和泉に諭すも彼女は納得しない。
だが、明確に大丈夫だと言える根拠を披露するわけにもいかないし……このまま突っぱねて突貫するわけにもいかないしなぁ。
第三の策、報告しに行くと見せ掛けて現場に戻り、誘拐犯を始末し僕が誘拐犯になりすます策が最善か?
でも、それだと真じゃなくて兵士が来そうだし……。真を呼べと和泉に頼んでも拒絶されるのは目に見えるし……。
「流石小夜さん! 先に居場所を突き止めるとは……!」
そうこう試行錯誤していると勘のみを頼りに居場所を特定した飛香が到着する。
エッ、この子本当に勘だけで居場所を特定したの……!?
「僕じゃなくて和泉のおかげだよ。それより飛香にお願いがあるんだけど……」
「はい!!! 何でも言ってください!!!」
「和泉を抱えて真を呼んできてくれる?」
「了解しました!!! で、ですが……何故武部さんを……? そこは兵士ではないのですか?」
た、確かに! そもそも何故兵士じゃなく真くんを援軍に寄越すんだという問題が発生する……!
だ、だが僕を変に信頼する飛香なら適当な理由でも変に解釈して理解してくれるだろう。
「エット……S級の真の方が強そう……とか? と、とにかく真くんを頼むよ早急に」
「了解しました!!! では失礼します和泉さん」
「ま、待ってくれ! この男は誘拐犯に突撃する気だぞ!? 君からも何か言ってくれ飛香さん!」
「小夜さんなら心配ありません。余裕です」
「君達は何を根拠に大丈夫と言えるんだ! 嫌だ! 君を行かせるわけにはいかない! 君を死なせてしまったら私が他の皆に恨まれ何故行かせたと非難される! そうなれば私は君のせいでいじめられっ子になるんだぞ!? 私がいじめられっ子になって小夜くんはいいのか!?」
飛香に背負われた和泉は暴れ回り喚き散らす。
飛香に心配ありませんと何度も諭されても和泉は納得せず。
散々言葉を浴びせた和泉は鬱屈し弱々しく声を震わせて囁く。
「嘘吐き……! 女の敵……! 小夜くんのことなんてどうでもいい……!」
「見張るだけさ。何も心配はいらない」
「自殺志願者の大馬鹿者……! 君なんて大嫌いだ……! もう勝手にしろ……!」
顔を曇らせ恨み言を連呼する和泉に向き合い、僕は彼女の額に人差し指を小突く。
「許せシャルロット」
遂に和泉の虚勢を張っていた顔は瓦解し、普段の飄々とした姿からは想像も出来ないような縋るような声を出す。
「あぁ……! 嫌だっ! 嫌だ嫌だ嫌だ!」
「頼んだよ……飛香。無事送り届けてあげてね」
「了解です小夜さん!!! 任せてください!!!」
「私は……! 君との約束がまだ……!」
そうして抱えられる和泉を見送り僕は再度状況を整理する。
先ず事前に敵情視察を行うことになるが仮に真でも対処可能な場合、どうやって真が王女を救出する流れを作り出すか。
八雲さんや伏見先生に和泉が危険行為は避けろと再三促しており、実際に突撃して王女を救出するのは禁じられている。
そうなると真が到着しても見張りを行うだけとなり王女救出場面は発生しない。
これを発生させるため僕が無策にも突撃もとい犠牲になる必要があるのだ。
王女の居場所を突き止めた僕達であったが、なんと誘拐犯は王女を連れて別の場所に逃走しようとしていた。
正義感のある僕は見逃すわけにもいかず食い止めようと誘拐犯と悶着を起こす……といった展開である。
飛香と和泉に「王女を発見した。今小夜くんが見張っている」の証言の元に駆け付けた真は、僕と誘拐犯が激戦を繰り広げる光景を目の当たりにする。
劣勢な僕に真は援護に入り、見事S級である彼が誘拐犯を成敗したことで王女救出は達成。
そのため今回の僕は黒幕ではなく主人公の引き立て役。
如何にも雑魚そうなかませ犬を演じるのだ。
結局時間稼ぎしか出来ず無様に敗北した僕は「へへへ……遅えよ英雄」と彼の手を取ることで舞台は幕を閉じる。
こうして……真と王女の恋は成立するといった脚本だ。
いやまぁ、あの二人のことだし何れ恋仲に発展するんだろうけれど……ちっと余計なお節介焼きすぎちったかなァ?
とりあえず王女は5階建てのアパートにいるようだ。
1階3部屋なので15部屋探れば王女の居場所に行き着くことになる。
誘拐犯が滞在中であれば喋る内容から特定が出来る。しかし面倒臭いことに留守か無言であれば雑音から王女の声か呼吸音を辿らなければならない苦行にぶち当たってしまう。
というか王女と接点の少ない僕が呼吸音を特定なんて、そんな変態な所業が出来るわけないだろと。
ともあれ本腰入れて特定作業を開始するかと僕は各部屋の扉に聞き耳を立てて様子を探る。
(…………)
一部屋目は留守であるのか生活音が響かない。
この作業は側から見れば変質者その者なので早目に作業を終えたい。
そうして1階はハズレだと2階に上がり同じ作業を繰り返す。
(アァッ! ハァッ!)
(イク! イクウ──!)
夕方にもなっていないのにお盛んな連中だ。
僕は聞かなかったことにして次の部屋に移動する。
(しかしどうすんです兄者。王女なんか手に入れたところで俺達下っ端にゃ何も出来んですぜ)
(馬鹿言え弟者よ。こんな良い品を手にいりゃ身代金を要求しようが奴隷に売っ払おうが何とでもなる)
(成り上がりってやつですかい。流石俺達ですぜ)
(こんな良い物を提供してくれた奴には──)
「警察だ! お前等を王女誘拐の罪で逮捕する!」
僕は部屋の扉をぶち破って突撃を開始した。
椅子に腰を下ろす左の男と机に手を置いて佇む右の男は僕の乱入に唖然と口を開かせた。
「兄者! 俺達の拠点がバレちまった!」
「バレちまったもんはしょうがねぇ……一攫千金の野望のため、お客様を丁重に持て成すとするかぁ!」
「流石兄者! やってやりましょうぜ!」
その敵の姿を一目見た僕は真でも余裕だなと確信し、第二の段階到着までの時間稼ぎに移ることにした。
僕の引き立てっぷり、刮目しやがれ!
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