第34話 愛と勇気と絆

 僕達は異世界召喚されて常人では有り得ない能力を有している。

 以前アリストヴェール先生に伺う機会があった。

 一般的な男性の能力値ってどれくらいなんですかと。

 王国の兵士を基準にすると大体の数値は100程度になるらしい。訓練や鍛えた上での数値でだ。

 だが僕達は訓練など修行をしていないにも関わらず100以上の数値を持ち、おまけにLVが上がれば更に強くなれるという仕様。

 じゃ平均5くらいの僕って何ですかと問うと赤ちゃんだそう。まぁ赤ちゃんでも10以上はあるらしいので僕は赤ん坊以下になるのだが……。

 本当に僕の数値は何なのだろう。第三者によって改竄させられてるの……?


 だから召喚者として例外な実力を身に付けた僕等なら、その辺のモブ犯罪者程度なら蹴散らせる。

 余程のことがない限り危機的な状況に陥ることはないが、まだ相手の実力を見極められていない。

 先日の血の王冠程度なら容易いだろうが、宰相基準になるとB級の者達は厳しいことが予想される。

 それこそ八雲さんの危惧する状況になり得る。


 だから、このような展開に動かすことにしよう。

 僕が敵を見極める→弱かったら真に倒してもらう→助けた英雄として真は王女と結ばれることに。というような真×王女を加速させる大計画である。

 んじゃ猛者相手で真の手に負えない相手だったらどうするのという話になるが、その場合は僕が謎の道化師038番くんとして振る舞い、王女を見事助けた対価として王国に報酬を突き付けることにする。

 ア、いや……そういえば仮面は部屋に置いたままだったな。そうしたらアヴェランスの財布で適当に素顔を隠せる物を買って貰えばいいか。


 前者であっても後者にしても僕に徳しかない好都合な話。

 もう自分の才能が冴え過ぎて怖いよ。


 だから、とりあえず僕が捜索に行きますと名乗りあげることにしよう。

 そして敵を見極めて後は真にぶん投げる。それが最適解。

 いやでも八雲さんの方針と異なるじゃん? という話になるのだが、それに関しては彼女の言葉をよぉ〜く思い出して欲しい。


 ──私はみんなが大好きだから危険な目に遭って欲しくない。


 このみんなには僕は含まれていないのである(涙)。

 それを裏付けるのが恋話と班決めでの一幕。

 僕は恋話から仲間外れにされ、女性の敵1位を獲り、比良坂小夜を私刑にしろなど殺してもいいですかなど半殺しにしてもいいなど罵詈雑言と辛辣な扱いを受けている。

 こんな奴を大好きに含めますか?

 含めるわけがないですよねと。

 だから……そう僕が名乗りを上げれば「あぁそう。小夜くんなら死んでもいいよ」などと冷淡な返しをされるに違いない。

 そして僕が王女を見付け、真に後はお願い……と一任することで僕の悲願は叶う。


 完璧な布陣だ。

 今の皆は自身のやるせなさから塞ぎがち。

 ヨシ……僕の嫌われ具合、刮目してもらおうかな?

 僕は恐る恐る皆の前で手を挙げる。


 「僕が……行こう」


 「小夜……?」


 僕の名乗りに即座に反応するのはミカ。

 君なら八雲さんの意見に賛同して僕を先遣させてくれるよね。


 「皆の意見は分かる。──だとしても、僕は見過ごすわけにはいかない。困っている人を見捨て、何もせずに傍観するのは嫌なんだ」


 僕の発言に皆は黙って耳を傾けて、僕の手を黄泉と飛香は握り締めた。

 僕を全肯定してくれる君達なら僕の行動を賛同してくれるよね。やっぱり持つべき者は幼馴染だなと痛感させられる。

 ついでに僕の無能を追加させることで僕への信頼度を高めることにしよう。


 「君達はS級とA級とB級だ。だが僕は無能のF級。この中で価値は最も低い。だから僕一人どうなろうと大したことはない」


 30人の中の外れ1人くらいどうなろうと何の影響はない。流石に君達の一人を失ってしまえば王国の立場的にも良くないだろう。


 「だから君達の代わりに僕が行くよ。何もしないのは嫌だから」


 嫌われ者の僕が犠牲になります……と心寂しい様子を漂わせ立ち去ろうとすると、僕の頰に強烈な平手打ちを浴びせられる。

 僕に一発放ったのはミカ。

 突如僕の頬を打ったミカは、何故か頰に涙を滴らせていた。


 「そんなことを言う小夜は嫌いだっ!」


 知っている……君が僕を大嫌いなのは周知の事実だけれども……! なのに何で泣いているの君は!? 行ってらっしゃいと感涙するはずじゃないの!?

 二度目のミカの涙に僕は狼狽し、女の子を泣かせた屑野郎として皆の前で滑稽に晒される。

 そんな僕に平手打ちを浴びせたミカに飛香は食ってかかる。


 「貴女の感情には僅かに同意はしますが彼を打ったことに謝ってください」


 「うるさい! お前には関係ないっ!」


 「いいから謝れ!!! 橘三日月!!!」


 け、喧嘩しないでよぉ……!

 一応人混みの少ない場所で密談してるけれどさぁ、何事かと周囲の人が駆け付けるかもしれないじゃん……!

 殴り合いに発展する勢いだったので二人を鈴華と鳳凰院さんが取り押さえる。


 「命に無価値だなんて優劣だなんてないよ……!」


 表情を曇らせたミカは声を震わせながら告げた。


 「小夜くん、撤回して欲しいな。私も小夜くんは価値が低いなんて思わないよ」


 八雲さんの発言に僕は耳を疑う。

 あれっ、君達二人は特に僕を嫌い犠牲を賛美してくれる存在のはずじゃ……まるで僕を引き留めるかのよう。

 君達は僕を嫌っているからこそ先遣を容認してくれるはずでは……?

 鈴華と黄泉と飛香が僕を引き留めるのなら分かる。ただ最も逆に等しい君達が何故……?


 「小夜くんは貴方が白色だからと態度を変えるとお思いですか? 本当に?」


 「鳳凰院さん……」


 「以前も仰ったはずです。そんなことは決してありません。ですから自分を卑下しないでください」


 ──まさか行かせてもらえるほど嫌われていないのではと。

 中途半端に嫌われているからこそ許可して頂けなかったのではと。

 そうなると僕の発言は効果皆無だったなと素直に謝罪することにした。


 「ごめん……皆。撤回する──ただ、それでも僕は行く。僕はやるべきことをやる」


 「はぁ……小夜くんも頑固だね……」


 「僕の頑固さは理解しているだろう? ただ別に犯罪者を相手するなんて話じゃない。皆、これを見てくれ」


 僕は先日血の王冠の拠点を盗人するために使用した地図を皆に見せる。

 観光ツアー時に何となく持ち出していた物である。


 「これは……王都の地図ですね。街並みの位置が記されています」


 地図を眺めるアヴェランスが呟く。

 僕は地図を見比べつつ東西南北を確認して解説する。

 ベルノワは約100㎢くらいの広さであり、東京で例えると世田谷区2個ほどになる。

 ベルノワには20の区域がある。僕達の住むグロワール宮殿はどの数字にも該当しない特別区。その宮殿を囲むように他の20の区域で構成されている。

 今回観光ツアーにて案内されたのは近郊の1〜4区のみ。

 ちなみに先日僕が盗人した豪邸は大分離れた18区である。

 地図を眺める鈴華が率直な疑問を問う。


 「小夜くんはいつの間に地図など入手したのだ?」


 「鈴華が武器に気を取られている隙に買ったのさ」


 「そ、そうか……ではこの丸印は?」


 ま、まずい! その印には血の王冠の拠点が記されている……!

 娼館と賭博場ですなんて言うわけにもいかないし適当に誤魔化すことにした。


 「えっと……なんか観光名所……らしいよ?」


 「そうか……無事解決したら是非二人で行ってみたいな」


 そんな場所行かせるわけがないだろと。

 なんか二人での部分が強調されていた気がするのは僕の思い込み?

 そして状況と環境を飲み込んだ和泉が僕に代わり皆に説明する。


 「私達が今いるのは3区。そしてイリス王女が行方不明になったのは4区。仮に迷子なら4区ならばそこを捜索すればいいけれども万が一誘拐だったとするなら別の区に連れ去られている可能性がある」


 「行かれてたら面倒臭ェ話になンなァ……」


 「既に1〜4区を離れている可能性はないと思う。50kgの女性を抱えて移動するのは中々苦労する話だ。それに街中は人も多いし目立つ。だが、馬車や荷車に荷物として乗せられて移動させられてしまえば別だけれどね」


 「つまりアレかァ。探すとなりゃ4区。人を絞るとなりゃァ馬車やらの連中っつうことだなァ?」


 そんな方針が定まっていく中、伏見先生は釘を刺す。


 「待ってください! 貴方達は探しに行く気ですか!?」


 そう問われた鬼龍くんは申し訳なさそうに頭を掻くと言葉を返す。


 「すんません先生、俺ァ小夜にあンなこと言われちゃ動かずにはいられねェっす。俺も黙って見てンだけはァ断る……!」


 「鬼龍くん……!」


 「何も別に犯罪者と闘う気などありませんよ先生。私は居場所を突き止めるだけ。後は兵士にでも何でも王国に委ねれればいいだけです」


 「和泉さん……!」


 僕への賛同者の登場に伏見先生は煩慮を抱いた。

 そんな僕と鬼龍くんと和泉さんの賛同に心動かされる者は続出する。


 「悪いな椎奈。俺も行くわ」


 「豪くん……」


 「このまま見過ごすのもカッコ悪ぃじゃん?」


 轟くんは八雲さんの肩を叩いて僕と鬼龍くんの間に割り込み、僕達の肩に腕を回した。


 「行こーぜ、なぁ? ぱぱぱっとやって直ぐ終わりにしてやろうぜ?」


 こうして轟くんという加入者も増え、元より捜索に関して賛同していた鈴華と鳳凰院さんも同調する。

 そして基本的に僕の行動に付き従う方針である黄泉と飛香も加入したことにより、特に意思表示していないのは黒猫さんとミカと真となった。

 黒猫さんは八雲さんの体に登って彼女と顔を合わせる。


 「ごめんにゃ椎奈。実を言うとにゃーも探したい側だったんだにゃ。ただ……小夜くんのように決心は出来なかったけれども」


 「うん……」


 「椎奈がにゃー達私達を思って制しているのは十分理解しているにゃ。だから椎奈を否定なんてしないし嫌いになるなんてことは絶対にないにゃ」


 「にゃー子……」


 「けれど、にゃーは……全員揃っての恋話会したいんだにゃ」

 

 八雲さんは黒猫さんを抱き寄せると顔を触れ合う。

 この親友同士の名場面に感動のあまり涙しそうである。

 そう感激している僕の前に目を赤くさせたミカが近寄る。


 「小夜。貴方の行動がみんなの意識を変えさせた。だから決して、小夜の存在は無価値なんかじゃない」


 「そうかな。皆ならこう決断してくれたと思うけれど」


 「小夜の存在は小夜が思っている以上に大きい。だから、自分を過小評価なんてしないでもっと自分を大事にして?」


 となると僕は然程嫌われていなかったと……?

 嫌いではなく苦手程度だったのだろうか?


 「ごめんねミカ」


 「ううん。私こそ打ってごめん」


 そんな僕とミカの一連のやり取りに割り込む者がいた。


 「私は貴女を許すつもりなどありませんが」


 「お前に許されても許されなくてもどっちでもいいわ」


 だから喧嘩しないでよぉ……!

 良い感じの雰囲気だったじゃん……!

 そんな赤く腫れた僕の頬を黄泉は優しく摩る。


 「大丈夫小夜? 痛かったよね?」


 「あれは僕の自業自得というか……まぁ仕方ないよ」


 「ううん、後半は正直余計だと思うけれど前半はかっこよかったよ?」


 「本当? 冥利に尽きるな」


 「うん。やっぱり小夜はかっこいいや」


 と、またもや黄泉と僕の特有な雰囲気を三人組に釘を刺されたことで後は真だけとなった。

 真×王女の恋を成就するため彼の戦闘を望んでいるが、まぁそうしたものに無縁だった彼を無理強いさせるのも気が引けるな。

 真は怖いのだろう。暴漢と対峙するかもしれない危険に、そうした社会に足を踏み入れることに。

 やっぱり僕がレイとして報酬を貰う方針に切り替えた方がいいかなぁ……。もう少し真の勇気や覚悟を積み上げてから計画を立てるべきか?

 そう自問自答していると突如真は自身の頬を叩いて喝を入れる。


 「決めた。俺も行く」


 「いいのかい真?」


 「小夜が行くと決めてから俺も行くと決断した──つもりだった。でもやっぱり怖い……怖いが、俺もこのまま燻っているだけじゃ駄目だと、俺もお前のような勇気を持たなきゃ駄目だと思ったんだ」


 「期待しているよS級の英雄」


 「言うな恥ずかしい」


 真は苦笑いして僕の肩を軽く叩く。

 一応決心はしてくれて何よりではある。

 方針は変わらないでおくが……強制だけはしないでおこ。

 皆の結束は高まりつつあったが唯一端から傍観している八雲さんだった。そんな黒猫さんを抱いたままの八雲さんの元に轟くんは向かう。


 「こうなっちゃアイツらの意思は変わらないぜ」


 「はぁー……みんな本当……お人好しすぎないかな?」


 「お前もそんなアイツらが好きなんだろ?」


 「うんまぁね。しゃーない……私も行くよぉ、仕方ないし」


 「いいのか?」


 「私は流されやすい風来坊のような性格だからねぇ。それに今更横槍入れようなんて気も起きないよ」


 反対派だった八雲さんの意思も変わり、本心では納得していないようだが渋々受け入れる。

 残すは僕達の実質的保護者である伏見先生だが、先生は皆に視線を浴びられると大きく溜息を漏らして額に手を当てる。


 「貴方達が決めたことなら先生は何も言いません……ですが! 決して危険な行動だけはしないように。それを先生と約束出来ますか?」


 皆は首を縦に振る。

 僕は皆の結束力と愛と勇気と絆を見せ付けられ、ある凄い何かを感じさせられた。

 これは──そう、一体感。


 凄い一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきている確実に、着実に、僕達の方に。

 中途半端な結末になるのだけは止めよう。とにかく僕の計画をやってやろうじゃん。

 目の前には沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。

 信じよう。そして共に戦おう。

 他の暗躍者千年王国邪魔尸織は入るだろうけど、絶対にヘマするなよ。

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