第32話 嫌われ者の小夜くん

 王女の登場といえども僕達は狼狽えることなく、皆は快く参加を歓迎する。

 だけどさぁ……いいの? 僕達は異世界召喚されてから王女の異世界教育と場内案内や恋話しかしてないけれど。

 と思った束の間、王女の傍に控えている侍女のアヴェランスが本日の予定を告げる。


 「勇者様方には本日は王都街をご紹介する運びとなっております」


 それ以降でしたら問題ないとアヴェランスは王女に告げた。

 ようやく城外の観光が出来るんだなと現在引き篭もりの僕達にとっては嬉しい予定であるようで、彼女の言葉を聞いた皆は喜びを見せる。

 召喚者の数が予想に反して多かったため3〜5人程度の班を組んで別々の班で案内するらしい。30人+先生となるとこれまた大所帯で目立つからね。


 これまた個人の意思を尊重してくれるようで参加は自由だそう。

 となると先日ひっそり街に駆り出していた僕は欠席かな。余計な体力は消耗したくはない。

 一応全員に参加を問うと真面目な彼等は全員承諾となり、他の方々への参加の可否を訊ねるため生徒会+凛ちゃんが各自への聞き込みを行うことになった。


 「じゃ僕は不参加だけれど一応他の皆に確認してくるね」


 「…………?」


 「参加ですね承知致しました」


 鈴華の眼力に屈した僕は参加の方針となり、各々別れて聞き込みを行う。

 僕と真が担当する男子に聞き込みを行った結果、案の定というべきか欠席する者はおらず全員が参加となった。

 女子を担当した鈴華とミカと凛ちゃんの返事を交えると、当然と言うべきか拒む者は誰一人いなかった。

 勤勉というか場内に篭り続けるのも退屈だと感じたのだろう。


 食堂から別室に移動した僕達の前に、壇上に上がった鈴華は皆に問う。

 出席者の全員が着席しており皆は彼女の言葉に聞き入る。


 「さて……全員参加となった異世界観光ツアーであるが、ここで一つ重要な問題が生まれる」


 そんな鈴華に八雲さんは挙手をする。


 「先生〜重要な問題って何ですか〜? それとおやつは幾らまでですか〜?」


 「おやつは500円まで。500円を超えることは許さん。そして重要な問題であるが……班分けをどうするか……だ!」


 しょ、しょうもない……!

 わざわざ別室を借りて壇上に上がる程の議題じゃないよ。

 呆れた僕は挙手すると提案を告げる。


 「出席番号の頭から5人ずつ作ればいいんじゃないですか」


 「却下。小夜くんの案は飲めない」


 「理由をお伺いしても」


 「こういうのはやはり──仲の良い者同士で組んだ方が楽しいだろう!!!???」


 た、単純……! 理由が単純過ぎるよ……!

 僕の提案は皆も受け入れ難いようで提案に反対する者から罵詈雑言の声を上げられる。

 うわぁ四面楚歌状態。

 周囲に敵に囲まれ追放一歩手前の状況に陥る。


 「別に私達3組が仲が悪いというわけではなく皆が親密な仲良し軍団であるのは瞭然たる事実であるが、やはり最も親しい者同士、好きな人同士で組むのが最善であると私は考える」


 「異議なし!」


 「比良坂小夜を私刑にしろ!」


 鈴華に同調する声と同時に僕を罰せよなどの処罰を求める声も上がる。

 まさかこんな形で追放展開を迎えるとはね……。

 ──という僕への冗談も済んだところで僕の提案は拒絶され鈴華案が採択される運びとなった。


 「とりあえず6人1組の班を5つ作るのが丁度良いと思う。では諸君、仲の良い者同士で各々組んでみてくれ」


 鈴華の号令と同時に各自行動を開始する。

 僕が組むべき面子は事前に選抜している。

 僕の組み合わせは男子は真と鬼龍くん。女子は夜刀神さんと百地さんと那岐ちゃんの編成だ。

 男子は恋話に不参加であった僕の同志であり、女子は僕をエロい目で見ていない理知的な者達。

 さて皆に声を掛けるかな……と椅子から立ちあがろうとした瞬間、僕は二人に両腕を抱えられる。


 「当然僕達とだよね」


 「抵抗しないでください」


 「い、嫌だ! 僕は鬼龍くんと真と組むんだ! お前達と組む気なんて毛頭ない! 離せえええぇぇぇ……!」


 黄泉と飛香の相性抜群の拘束により確保された僕は、抵抗するも無駄だと諭される。

 そんな救いの手を求める僕の手を握る鈴華。


 「そして私達だな……」


 「当然でしょ」


 鈴華とミカが加入したことにより残り一人となる。

 救世主を偽る悪魔の登場に僕の形勢は増々不利に陥るが、僕はめげずに二人に救いを求める。


 「鬼龍くん! 真! 僕と組もう!」


 「俺ァもう組む奴決まってンだァ。悪ィ小夜ァ」


 「真! 真は僕の味方だよね……?」


 「小夜に誘われるのは嬉しいが……その、だな。お前は別の班に行け的な圧力が凄いから今回は遠慮しておくよ」


 鬼龍くんと親友である真に見捨てられ僕は孤立無縁に陥る。

 ならばと僕は女子である夜刀神さんと百地さんと那岐ちゃんに慈悲を乞う。


 「夜刀神さん! 百地さん! 那岐ちゃん! 僕と組もう!」


 「遠慮しておくわ。比良坂くんといると苛々するから」


 「断る」


 「ふゥン。君からの熱烈な誘いは歓迎ではあるが返事はノーとさせて頂く。すまないねぇ!」


 「あんれぇ……味方無し?」


 こうして僕は幼馴染二人と生徒会二人衆に捕縛されお縄になった。


 「嫌だァ……!」


 「いい加減認めたらどうだ小夜くん」


 「世の中諦めが肝心って言葉もあるでしょ。諦めなよ」


 「では皆さん、宜しくお願いしますね」


 あと一人誰……? となったが、案の定鈴華の親友である鳳凰院さんが加入となり僕の班は無事編成された

 生徒会三人衆+凛ちゃんという組み合わせも多いが、彼女は鳳凰院さんに遠慮して別の班に行っていた。

 凛ちゃんの存在は僕達の中で大きいようでミカがある提案を放つ。


 「コイツ飛香追い出して凛を率いるべきでしょ」


 「貴女が大人しく身を引いたら如何ですか。後から来たくせに甚だしいにも程がある」


 「はァ〜ン? 言うなお前? ──泣かすぞ?」


 「泣かせられるものなら泣かしてみてください。それが出来るならの話ですが」


 「本ッ当ムカつくなコイツ……!」


 「お二人とも……喧嘩は止した方が……!」


 け、喧嘩しないでよぉ……!

 アワアワしている鳳凰院さんが止めに入るが、二人の熱意は収まらず。

 わ、分かった! 二人の喧嘩を諌めるにはこの選択が最善だな──。


 「じゃ、僕が追放されることにするよ。そうすれば凛ちゃんが入れるね!」


 「「「「「却下で」」」」」


 「オォウ……息ぴったり」


 僕の安全策も拒絶されることになり、めでたく天音鈴華と橘三日月と月読黄泉と御崎飛香と鳳凰院輝梨那と僕という嬉しくもないハーレムパーティが編成されることになった。

 僕が必死に無駄な抵抗をする間、他の仲が良い者同士で班が組み上がったようだ。

 面子を確認すると班の振り分けは以下の通りとなった。


 A班

 藍葉澪さん

 有栖川侑衣さん

 芦屋茜さん

 千丈平太郎くん

 乙無司くん

 近衛高文くん


 B班

 八雲椎奈さん

 黒猫さん

 和泉シャルロット

 轟豪くん

 鬼龍暁斗くん

 武部真


 C班

 山田海

 田中隼人

 矢田部明やたべあきらくん

 御上英史郎みかみえいしろうくん

 炎堂猛えんどうたけるくん

 石川剣心いしかわけんしんくん


 D班

 庚硝子さん

 天童穂花さん

 百地幸愛ももちここあさん

 夜刀神咲夜やとがみさくやさん

 東條凛ちゃん

 神代那岐ちゃん


 E班

 天音鈴華

 橘三日月

 月読黄泉

 御崎飛香

 鳳凰院輝梨那さん

 比良坂小夜


 「──このような編成となったが異論はないだろうか?」


 「天音せんせ〜1個質問があるんすけどいいっすかー?」


 「はい、山田くんどうぞ」


 「E班の比良坂小夜くんがムカつくんですけれどどうすればいいですか? 僕と交換して欲しいです」


 僕も腹立つよこの編成に関しては。

 本来ならばE班は、鬼龍くん・真・僕・那岐ちゃん・夜刀神さん・百地さんとなるはずだったのに何の嫌がらせかこのような編成となった。


 「僕のE班と交換してもいいけれど、恐らく山田一人だけになるけれどいい?」


 「天音せんせ〜、この調子に乗っている男を殺っちゃってもいいですかー?」


 「僕も海くんに同意で小夜くんに殺意が湧いています。殺っても情状酌量で何とかならないですかね?」


 うーん、殺意が染みる。


 「半殺しくらいなら平気だと思うよぉ。多分小夜くんは死なないから大丈夫だと思うよぉ」


 「ついうっかり殺っても間違いで済むにゃ。多分にゃんとかにゃる何とかなるにゃ」


 うーん、君達の敵意が五臓六腑に染みる。

 これこれ! 当初僕が求めていた追放される前の糾弾される状況!

 君達もさぁ、今なんかじゃなくて測定の時に披露すべきだよね。

 僕が満足に頷いていると状況に異を唱える者が現れる。


 「あ、あのぉ……! そ、そこまで、そんな風に酷いこと……言わなくても、いいと思いま……す! 比良坂さんが……可哀想だと思い……ます!」


 僕を擁護するのは控え目で内気な性格である庚さん。

 あのあがり症で大勢の前で発言することが苦手な彼女が意を決して僕を擁護した事実に目を疑う。

 凄い優しい……庚さん神か……?

 僕をエロい目で見ていない3人目の人物は君だなと確信する。


 「ありがとう庚さん、嬉しかったよ。僕を擁護してくれて」


 「は、はぃぃぃ……!」


 「ただ一部を除いて冗談だからさ。気にしないで平気だよ」


 山田田中は僕への殺意は本気だろうが、八雲さんと黒猫さんのは普段通りの僕を弄られずにはいられない彼女達の趣味なのだ。

 僕が庚さんの傍に寄って片膝付いて彼女に感謝を申し上げると、何故か他のE班の面々が顔を顰める。

 

 「フッ……サヤくんが構わないのならッ! この僕がッ! この近衛高文がッ! E班に交換して頂くことは可能……だろうかseñorita Amane……?」


 「申し訳ないが班決めは確定したということで近衛くんのお願いは受け入れられない。申し訳ないな」


 「Oh My God……見事振られたね。では大人しく敗者の僕はサヤくんに譲るとしよう……。彼女達を頼んだよサヤくん……!」


 近衛くんの交換要請が鈴華に即時却下される茶番劇もあったが、僕への罵声大会は落ち着きを迎えることになった。

 

 「では昼食後にて観光ツアーは開始となる! 遅刻だけはしないように! では解散!」


 鈴華の号令にて一先ずお開きの形となった。

 そういえば先生はどの班に組み入れるのかなと思案していると伏見先生とイリス王女、アリストヴェール先生と傍付きのアヴェランスが姿を現す。


 「あ、あの差し支えなければ、私が勇者様方の案内を買って出てもよろしいでしょうか……?」


 良い子の王女は異世界教育と同じく名乗りを上げてくれる。

 変装はするだろうが一国の王女が街中に駆り出してもいいのだろうか。血の王冠のような不成者がいないとも限らないし誘拐とかされないだろうか。

 僕達の召喚の件については国民の間では非公開にされており公表されていない。

 そのため僕達も変装する必要があり少数での観光を義務付けられる。

 だから護衛の兵士が揃って街中に駆り出せば必然的に目立ち周囲の視線を寄せ付けてしまう。

 大丈夫なんですかねぇと懸念を抱いていると、護衛の変装した兵士は傍で侍らせておくから問題ないと彼女自身が自負していた。


 「イリス王女……しかしながら、やはり私めは心配でございます……。ご厚意は私めにしても嬉しいのですが、やはりここは他の者に任せた方が宜しいかと……」


 「爺や……! いつまでも城に籠っているのは退屈なんです……! それにいつまでも子ども扱いしないでください……!」


 ふゥン。なるほど……そういった込み入った事情があるわけだねぇ?

 まぁ護衛の兵士はいるわけだし、戦闘経験はないにしても一応僕達は勇者だから然程心配する必要はないんじゃないかな、などと他人事の僕は適当に考える。

 それに宰相の国家転覆が一昨日起きたばかりだし、連続して王女誘拐なんて騒動起きるわけないでしょ(フラグ)。

 ともあれ子どもらしく我儘を言う王女に同調したのか、鈴華は彼女の肩を持つ。


 「これでも私達は勇者。仮に不測の事態が起きても対処は出来ると思います。それに私は合気道を習っていたので」


 「アマネ様……」


 「勇者である天音鈴華がイリス王女を守ると誓いましょう」


 畏まった鈴華は片膝を付いて王女の手を取る。

 そんな鈴華の仕草を見て王女は頬を赤く染める。

 あれっ、王女そっちの気もある……?

 いや、これは年上の格好良いお姉さんに憧れ的な感情を抱いただけだなと僕は自分自身を説き伏せる。

 僕個人としては鈴華×王女より真×王女派であるためこの展開はイカンと余計なお節介……軌道修正に走ることにする。


 「王女殿下はE班より真のいるB班が適任じゃないかな。僕はB班の案内を推薦するよ」


 「お、俺?」


 「B班にはS級の真とA級の鬼龍くんがいるわけだしね」


 そう……B班には我々召喚者の中でも指折りの実力者がいるのである。

 筋が通っていると皆は納得してくれることだろう。


 「一応E班にも私とキリナと鈴華がいるけれど」


 そ、そうだった……! こっちにはS級とA級が二人もいる! 何でこんなに実力者がいるんだよ……! これだと鈴華×王女が成立してしまう……!

 だが、ヘマ後……いや今回はヘマしてないけれども、僕の誘導能力を舐めるなよ?


 「そうだね、だけれどね、残念なことにE班にはF級無能の雑魚召喚者として名を馳せる僕がいる。僕がいることにより皆にデバフがかかり迷惑を掛けてしまうのが目に見える。だから……そう、最も安牌なB班にいる方が安全なのさ……」


 「言ってて悲しくならない……?」


 「ならない方がおかしいでしょ」


 こうして自分を犠牲にすることにより皆は納得し、王女は無事に真のいるB班を担当することになった。


 「というわけで頼んだよ真」


 「あ、あぁ……任された?」


 この観光ツアーが終わった後、真と王女がどんな雰囲気だったのか八雲さんと黒猫さんと和泉の噂好きトリオに聞いておこ。それだけが僕の唯一の楽しみだ。

 君達の恋の成就はね、恋のキューピッドである小夜くんの掌の上で踊らされていたのさ。

 そう内心高笑いしながら真と王女の恋が進展することを望んだ。

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