第3章 黒幕召喚者の成り上がり
第30話 僕はエロい目で見られている
記念すべき異世界生活3日目の朝を迎えた。
異世界召喚初日は思わぬ形で救国の英雄となったが、先日は僕に病弱設定が追加され、飛香とミカが特異出身であったことが発覚し、鈴華に告白を受け、ラナイアに素顔と名前を把握されるという、踏んだり蹴ったり何も得ることも出来ず終わった。
これも全て己の実力不足が原因であると自身の精神力を鍛えるため、日課のトレーニングに没頭する。
庭園にて逆立ちでの腕立て伏せに精をなす。
次は己の煩悩を祓うために坐禅を組む。
黒幕活動……というか自身の欲を優先した結果、僕はラナイアに全てを暴露する末路となった。
これも全て僕の自制出来ない精神力が招いた結果。
今後失敗を重ねないために自制する強靭な精神力を持つことが大事なのだ。
ちなみに唯一の成果である贋作絵画は部屋に持ち帰ってきた。
愛着を持った僕は部屋に飾り「趣のある良い絵だ」などと感想を漏らしていると、それを見た尸織に「先輩って相変わらずセンスないっすね」などと美的感覚を貶された。
そういえば今回相手した血の王冠は結構大規模な組織であるらしく、奴隷部門の他にも密輸や麻薬や詐欺などの部署もあるらしい。
となれば他を襲撃することも可能だなと僕は睨む。
いや当分怪盗紛いのことは控えるはずでしょと自分を自重させ、僕は続け様に生まれる煩悩を祓うため坐禅に没頭する。
「おや小夜くんじゃないか。精神統一かな」
「和泉さん? あぁ、自分の弱い心を鍛えようと思ってね」
瞼を開くと目の前には自称探偵こと
彼女は日本人とフランス人のハーフであり、八雲さんや黒猫さん同様にゴシップやらの噂好きの子である。
裏の話では彼女に取引を持ち掛けると物を頂けるそうである。それが何かは知らないし僕は興味ないので行ったことなどないのだが。
「これから朝食に行こうと思っていたんだ。どうかな、一緒に」
「喜んで共にさせてもらうよ」
和泉さんに誘いを受けて断る理由もないので応じる。
食堂に赴くと朝食を貰って僕と和泉さんは席に着く。
対面に座る彼女はコーヒーを口に含むと吐息を漏らす。
「それで三日月さんへの返事はどうしたのかな」
病弱設定が追加される前、僕はミカを強引に連れ出したことから一部の女子に告白ではないかと勘違いされる一幕があった。
結局は生徒会三人衆を含めた僕等が否定したことで騒動は終息したのだが、やはり僕とミカにそういう間柄ではないのかと推察する者はいるようで、山田田中筆頭に乙無くんや芦屋さんにまでも追求される始末。
「あれは違うんだよ。告白じゃない」
「まぁ当然知ってはいたけれどね」
じゃあ聞かないでくれよ。
もう八雲さんと黒猫さんでお腹一杯なんだよね。
「それはそうと私は心底信じ難い噂を耳に入れてしまってね」
「はぁ」
「なんだ、その興味のなさそうな表情は。君に関わる話だというのに」
また僕?
うわぁ、心当たりが多過ぎて聞きたくない。
病弱設定を認知されたか、鈴華の告白を覗き見していたか、それとも僕が暗躍するのを目撃していたか。
「尚更聞きたくないよ」
「昨晩、黄泉さんと飛香さんがどこに居たかご存知かな?」
「聞きたくないって言っているのにコイツ……」
もはや確信犯じゃん。存じている上で訊ねているよコイツ。
情報は掴んでいると薄ら笑いを浮かべる和泉さん。
その情報を元に僕を脅迫する気だな?
「話は変わるけれど昨晩一部の女子が集会を催してね」
「はぁ」
「参加者は鈴華さんと三日月さんと凛さんと輝梨那さんと椎奈さんと黒猫さんと茜さんと
一部じゃなくてウチの組の女子の大体が参加しているじゃん。不参加は黄泉と飛香と夜刀神さんと百地さんくらいじゃん。……あと那岐ちゃんもいないな珍し。
「そこで何を話したと思う?」
「さぁ……恋話?」
「正解」
やっぱり修学旅行気分なのかな?
黄泉と飛香もしていたしウチの人達は余裕過ぎないだろうか?
「更にね、とある筋からの情報によると男子達も恋話会を開催していたらしい。参加者は平太郎くんと豪くんと海くんと隼人くんと司くんと
エッ、男子諸君も集会開催してたの?
ちょっと待ってくれ、僕は招待されてないんですけれど。せめて招待くらいはしてくれよと。僕は男子諸君から仲間外れにされているのかな。
ア……いや、名簿を振り返ると真と鬼龍くんも参加していないな。
すなわちモテ男は除外すべきとの意向が加わり招待から排除されたのかな?
けれどもモテ男1位の轟くんは参加しているので矛盾してしまうことに気付いてしまう。
真や鬼龍くんは丁重にお断りして参加しなかったんだろうけれど、皆の人気者の僕が招待されなかったのは何故…………?
「実は女子と男子の間で様々な種目の投票が行われてね。君には大分儲けさせてもらっているし感謝の証として報告しようかと思う」
「地味に重要そうな単語が出たんだけれど。お前は僕の何で儲けているんだ」
「まずは顔が良い男子ランキングだ」
謎に僕で利益を得ている和泉さんは、僕の質問を一蹴してイケメンランキングの発表に移り出す。
いやそれ聞いたことあるし……と思ったが、どうやら馴染みのある順位は3組だけではなく他の組を交えた物だったようで、今回は3組限定に絞ったらしい。
「3位は
あれっ、僕が3位じゃない……? 暫定3位の僕は何処へ?
もしや1位に繰り上がりした説が濃厚……?
容姿端麗の美意識抜群の僕が論外なわけないよね。
溜めるに溜めた和泉さんは、ようやく結果を発表する。
「轟豪くんだ」
「もう結果が目に見えているんだよね」
ちなみに男子側である可愛い子ランキングは以下の通り。
1位
2位
3位天音鈴華。
もう納得で見え透いた結果だなと。特に目を惹くような展開やらはない。
「まぁ順当過ぎて退屈を感じたと思う。というわけで私達は少し違ったランキングを行うことにした。1から5のうち好きな数字を選んで欲しい」
「はぁ、じゃ1番で」
「流石小夜くんには天性の才能、ここ一番というものを引く能力はあるようだね。1番は内心エロい目で見ている男子ランキングだ」
あの子達、そんなアホみたいな順位付けしてたの……?
い、異世界召喚されてまで……!?
余談だが投票するお題には嘘偽りなく真実を告げる義務が設けられており、無投票や棄権の権利は設けられていないそう。情報保護の観点から投票者は秘密とさせられ、白紙の紙に名前を書くことで誰か分からないようになっているそう。
「3位は乙無司くん。2位は轟豪くん」
「はいはい真。順当順当」
「1位は……おめでとう。比良坂小夜くん、君だ」
「ぼ、僕……………………?」
「なんと12票中9票が君の名前だった。暫定1位は誇ってもいい」
有権者のうち75%が僕に票じていることになる。凄まじい得票率。
こ、怖い……! 確かに容姿端麗モテ男の自覚はある僕だけれど、そんな風に見られていたとは……!
逆に僕に投票しなかった3人は誰なんだと。
「君は心底驚愕しているようだけれど私達からすれば妥当な結果になった。あぁ小夜くんね、そうだよね的な感じで逆に冷めてしまった」
僕のエロさは周知の事実であったらしい。
納得の順位で逆に冷めさせてしまったとも。
ちなみに女性の敵ランキングでは3位の田中と2位の山田に接戦する形で僕は1位を獲得していた。
また攻めか受けかのランキングでは受け側として1位を飾り、見事僕は3冠王の座を手に入れることになった。
「話が横道に逸れたけれど本題へ戻ろうと思う」
「ごめん、話の本筋は何だっけ……?」
「黄泉さんと飛香さんの居場所についてだよ」
あぁ聞きたくない。
だって二人は僕の部屋にいたんだもの。
「君の話題が出た時にね、幼馴染である二人の話題も出た。彼女達は不参加と告げていたが、当事者である彼女達の意見も聞きたいと意見が生まれ、彼女達を再度招待しようという方向になった」
「はぁ」
「そこでね、一部で彼女達の部屋に来訪したわけだが返事はない。どうやら留守であったらしい」
「は、はぁ」
「もしや小夜くんの部屋に居るのではと我々は推測した」
正解。
そうなれば僕の部屋に突入……いやでも、ミカのような乱入者はいなかったし、解散後と思われる鈴華に遭遇したし……。
仮に僕の出立後に乱入したとしても話の辻褄が合わなくなる。
「一部の者で突撃すべきだとの意見も湧いたけれども、もし……仮に行為中であったとしたら邪魔するのも悪いと気を遣い、部屋に突貫する案は取り下げられることになった」
してないから。鈴華は若干意図はあったらしいけれど僕達には何もなかったから。
「一部好奇心旺盛な者は聞き耳を立てようと扉に耳を当てたが何の成果も上げることはなかった」
残念だろうけれど貴女達が期待するものは何もないよ。
というか突撃を支持して聞き耳立てた過激派は誰だよ。
「君には前科があるからね。彼女達は大分用心していたよ」
「前科……?」
「ほら、あの紬さんの件だよ」
あの山田田中が抜かしていたやつか!
いやあれは冤罪だと……それよりその疑惑はまだ引っ張るの? もう皆忘れてるよ。
「残念だろうけれど無実なんだよね。その時間帯には那岐ちゃんと世間話していたアリバイもあるし」
「既に那岐さんには確認しているよ小夜くん。無事無実が証明されて良かったね」
コイツ他人事のように言いやがって……。
その件でどれだけ僕が苦労したと思っているんだ。
「本当に無実で良かった。仮に真実であれば悲惨なことになっていただろうからね」
「えぇ……?」
「個々の名誉のために匿名にしておくけれど、君を討つべしとの意見が出たわけだよ。私は止めたけれどね」
「だがね、実は君の部屋に突貫するのは別の思惑があると私は睨んでいる」
「はぁ」
「小夜くんの部屋に突貫する前に多数決の採択を取ることにしたわけだよ。そうしたら賛成が9人となった。これの意味は小夜くんなら分かると思う」
ぼ、僕をエロい目で見ている得票数と一緒だ!!!
反対してくれた理知的な方々は誰なの?
それだけを教えて欲しい。投票者への態度を改めないといけないから。
「そう、賛成者は君にエロい気持ちがあったんだ。すなわち黄泉さんや飛香さんは表面上の理由付け。本当はエロい目的で小夜くんの部屋に行きたかっただけになる」
「反対者の名前教えてくれない?」
「ともあれ目的地を前にして私達は日和って……いや、やはり異性に部屋に行くのは破廉恥だろうということで、撤退……いや、転進したわけだ」
「あのさぁ……そういうのって男子がやる印象なんだけれど。逆に男性陣はそういうのなかったの?」
12人中9人が僕をエロい目で見ていると知り、彼女達の印象が変わってしまった。
もう僕が信じられるのは反対した3人と夜刀神さんと百地さんと那岐ちゃん、そして黄泉と飛香のみ。
あ、いや……幼馴染二人は僕の部屋を占拠した不届者だし、完全に味方扱いするわけにはいかないな。
「無論あったけれど、お引き取り願われたそうだよ」
「誰が仕出かしたのか想像が付くなぁ……」
「ともあれ転進した私達は、小夜くん並びに男子の部屋に突撃するのは止めておこうと固く誓い合ったわけだよ」
抜け駆け禁止と。
あ、でも昨日鈴華が冗談だと思いきや本気で夜這い目的で僕に部屋手前に来ていたな……。
あの子、生徒会長のくせに真っ先に約束を反故にしてるじゃないか……。
「だがね必ず約束を破る者は出現する。小夜くんは注意した方がいい」
「ご忠告ありがとう。……あの一つ訊ねたいんだけど、僕の何がエロいの?」
僕は自分自身を人間国宝にも値する絶世の美男子であると自認している。
ただ残念なことに顔が良いランキングでは圏外となり、エロい目と女の敵と受けランキングにて3冠王を手にしてしまった。
顔の良さ性格の良さを抜きにすれば自分のどこがエロいのかなど分かりやしない。
「それを私に聞くのか君は……?」
和泉さんは溜息を漏らすと呆れたように告げた。
今まで味方を裏切って暴露したのだから何を躊躇うのだと。
投票した理由みたいのとかないのかな。
「まぁいいや。とりあえず反対者の名前を教えてくれない?」
「それは不可能だよ。反対者の名前を挙げれば賛成者の名前が知れ渡るだろう?」
「じゃあ和泉さんが突撃に関して賛成したのか反対したのかは?」
「…………」
あ、この人──僕のことをエロい目で見てるわ!
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