第26話 殺戮ショーの始まりや
尸織により特定された情報によると娼館・賭博場が血の王冠の拠点であり、ある豪邸には人身売買部門の幹部が身を構えているそう。
豪邸と聞いた僕は思わず心が躍り、そこ以外ないなと標的を確定させた。
敵情視察ということで高台から豪邸を眺めていると、やはり犯罪組織の幹部の拠点ということで警備は厳重そうではある。
これこそソメイユの睡眠魔法で突破出来れば穏便に事は運んだんだろうけれど、まぁ相手は犯罪集団だし一騒ぎ起こしても別にいいか。
警備が厳重だからと撤退する臆病者ではないのだ僕は。
「あぁん? 何だコイツ……! うわ、気持ち悪ぃ!」
姿を現した僕に警備している男は訊ねる。
気持ち悪いって失礼だな……道化師って強くて格好良いのに。コイツに美的感覚はないのかな。
「確認するけれど君達は血の王冠で間違いないかな?」
「だったら何の用だ? お前みたいな気持ちの悪い変態を相手にしている時間はねぇんだ。痛い目に遭いたくねぇなら消えな」
僕は男に詰め寄ると腹に拳一撃。泡を吐き出し白目になった男を沈黙させると僕は堂々と入り口から侵入する。
屋敷に来訪すると僕の姿を見た男達は一気に警戒し、一人の男が僕に近寄る。
「お前みたいな気色の悪い奴の来客なんて聞いてねぇなぁ? 何者だ、お前? それと門番はどうした?」
僕の仮面が不評過ぎて道行度に侮辱される。
全く、建前でも褒めてくれてもいいのだが。
「ある物に用があってね。それを頂きに来た」
「……! お前等! コイツを殺せ!」
怪盗のように手紙で予告宣言でもした方が良かったかな。
公で宣言した僕に彼等は武器を持ち出し襲い掛かる。
数は8人。彼等を無視して頂戴すべきなのだろうが、生憎僕には有り金の位置など分からない。
そうなれば全員を沈黙させてから悠々とお宝探しすべきだなと判断した僕は、剣を振り翳す男の頭を蹴飛ばし昏睡状態にさせる。
壁に激突し気絶させた光景に彼等は竦む。拾った剣を別の男に投擲すると額に命中し絶え入る。
銃を構え僕に狙いを定めた男に瞬時に距離を詰め、発砲音と同時に顎を蹴り上げる。
そうこうやるうちに残り5人となっていた。
僕は戦闘狂の気質があるのだが雑魚狩りを趣味とする者ではない。
小物風情には興味はなく淡々と敵を始末して強者の存在を待ち侘びる。
ただ本日は戦闘が主ではないので、うっかり戦闘本意にならぬよう気を付ける必要がある。
「待──!」
そうして一人の男の喉元を手で切り裂き、噴出した血液が僕に降り掛かる。
手にこびり付いた血を振り払い、面前の男に対峙すると彼は降参と言わんばかりに両手を上げる。
「降参だ! 頼むから命だけは……!」
命を乞う男の前に屈んで問う。
「君は人を何人殺した?」
「そんなの覚えて──」
駄目ですと喉を切り裂いて降参を拒絶。
僕は鬼ではないので降参する者には慈悲を与える。
ただの盗人風情なら見逃すが殺人鬼は即刻断罪。悪は即座に斬らねばならないのだ。まぁ降伏勧告せずに大分殺ってしまったのだが。
「死にやがれ、狂人が──!」
「怖気付に立ち上がるか! 面白い! だが君のそれは蛮勇だ」
剣を指で挟んで止め驚愕の表情を浮かべた彼に拳をお見舞いすると、難なく倒れ込む──と思いきや、そのまま僕の身体を羽交い締め にして拘束する。
見込みのある男もいるなと感心していると、そのまま僕に突き刺そうとする者がいたので、彼を身代わりにするとそのまま胸に剣が突き刺さる。
呆然とする男の喉をまたもや切り裂いて、二人を一気に始末すると、突如背後から僕は剣を浴びた。
「ぐっ……!」
「隙だらけだ化け物が……!」
何度も言うが今日は戦闘が主ではないので、先日のように攻撃を受ける行為は避ける方針でいた。傷が内臓に通って僕の病弱説が加速しては困るからである。
背後からの不意打ちをした者に振り返ると、何とその顔は女性。
ただ僕は女性相手だからと殺さない男ではないので、またしても首を一線して卒倒させる。
全員始末した僕は本来の目的に駆り出すかと心を弾ませていると挑戦者が乱入する。
その者は屈強な上半身を見せつけるように半裸であり、尚且つ乳首に星型のニップレスを貼るという特徴的な見た目をしていた。
格が違うなと直感で認識する。
「たかが一人相手に全員殺られちゃうなんて……貴方、只者じゃないわね?」
しかも何とオネエ。
これは確実に強敵だなと僕の観察眼が発揮される。
僕の中でこの属性のある者は強いという三大属性がある。
それは言わずもがな道化師。次いで関西弁の糸目。最後にオネエである。大体漫画などに登場するこれらの属性を持ったキャラは強者が多い。
身近に糸目の者がいるが奴は残念ながら関西弁ではない。
ともあれ今相対するオカマは、他の者を凌駕する実力者だなと直感で見抜く。
「はぁ……折角、楽しいコトしていたというのに……もう! 本当に使えねぇなぁ! この屑共が! 役立たずが! 能無しの畜生共が!」
オカマは横たわる一人を執拗に蹴り付け憂さ晴らしする。
ただ既に息絶えているため反応はなく、彼は退屈そうに骸に唾を吐き捨てた。
「ごめんなさい……少し品位に欠けていたわね。そうそう、客人の貴方に挨拶をしておかないと。初めまして、名の知れぬピエロさん。私は腸喰のカマーことオ・カマー。カマーちゃんって呼んでね?」
カマーは僕に投げキッスを放つ。
それを合図に三方向より奇襲する者に剣を貫通させられ伏兵がいたことを自覚した。
見事僕は内臓負傷し、また2日の期間が延長するのが確定した。これは聴覚を研ぎ澄ませるべきだったなと反省。
「困るな、折角治りかけだったのに」
「効いていない……!?」
「何だよアイツ……!」
「あんなの無理だろ!」
僕を奇襲した動揺している三人組を観察すると、顔立ちや身長から見るに子どものようである。
大方出身は孤児や元奴隷とやらで組織に加入させられ、戦闘の駒として扱われているのだろう。
男女平等思想を持ち容赦なく女性を殺せる僕であるが、流石に子ども相手となると僅かに躊躇いが生まれる。
「一応君達は見逃すけれどどうする? まだ僕とやる気なのかな」
「「「…………」」」
僕の問い掛けに沈黙した彼等の反応からするに僕の推測は的中したと言える。
カマーは彼等に発破を掛けて、葛藤を断ち切らせる。
「オラァガキ共! さっさと奴を始末するんだよ! 痛い目遭いてぇのかクソガキ共!」
僕を前にして敵前逃亡するわけにもいかず、上司の命令に背くわけにはいかないためか彼等は無謀にも突貫する。
彼等の首元を注視すると首輪が嵌められており、所謂隷属の首輪なのだろうと理解した。
契約者の命令に従わないと首が圧迫されるという単純な機構の魔道具である。
恐らく先日犠牲になったソメイユも同様の物を装着されていたに違いない。
これは契約者と対象者の魔力を通じて動作している物であり、他者が鍵を使用することは出来ず、強引に首輪を破壊させることは難しい。
だが解錠方法は単純だ。契約者である者を──恐らくカマーを始末すればいいだけのこと。
全く、拝借するだけの軽い気持ちで参上したのに少年兵に出会ってしまうとは。
苦手なんだよね、年下相手の戦闘は。
「ガハッ……!」
強襲する一人の脳を揺さぶらせて昏睡させると、もう一人の腕を掴んで床に投げ落とす。後方からナイフを投げ彼等を援護していた一人を打ち付け、これにより全員を無力化させる。
全員を屈服させた僕にカマーは喚き散らす。
「聞いてねぇんだよ、お前みたいな意味分かんない相手するなんて! あーもう! どいつもこいつも本当使えねぇ!」
残り一匹だなと、早いところ始末して本業に戻るかと詰め寄る。
「英雄気取りの殺人鬼が! お前も俺等と同格なんだよ、この偽善糞野郎!」
カマーは鬱憤晴らしのように僕を罵倒する。
ただ僕は特異にて人殺しの烙印は押され慣れている。それに人殺しは事実であるし。
自分の欲求のために他者を葬る極悪人であるのも認めている。
ただ私利私欲のために罪もない一般人を殺害するような輩ではないのだ。そこは履き違えないで欲しい。
「もう……! 何で私が人殺し趣味の悪趣味野郎の相手をしなきゃならないのよ! もう……死んで、死んで頂戴よおおおおお!!!」
僕の趣味が……人殺し?
僕は戦闘狂の自覚はあるが快楽殺人鬼であるつもりはない。
善人と悪人の見極めはしているし、何度も言うが無垢の一般市民を虐殺する癖はない。
まぁ僕が悪人だろうが殺人鬼だろうが何でもいい。
君が僕の観察眼に適った人物なのか、それとも僕の目は濁っているのか。
「なんだ、ハズレか──」
通り過ぎると同時にカマーは斬り刻まれた傷口から血を噴出し、両断されたことも気が付かずに倒れ伏した。
血塗れの屋敷を眺め、大分派手にやったなと痛感する。
僕の耳から察するに戦闘員は全員戦闘不能にさせたようであり、カマーのような新手の者はいないと検知した。
所詮犯罪者集団などこの程度なのか。
記念すべき異世界第一戦の宰相が凄腕の実力者に見えてくる脇役振りを披露してくれた。
さて本題に移る前に念のため確認しておこう。
隷属の首輪は外れたかなと多分気絶している少年兵の首に手をやる。
軽く力を入れると簡単に外れたため効力は無くなったのだと分かった。
これで君達はカマーの奴隷になる義務はないんだよと告げ、僕は屋敷漁りに勤しみ出す。
もう阻む者は誰もいないため悠々自適に夢を叶えさせることが叶う。
勝ち確なのでテンション上がりまくりである。
千年王国の奴等は別拠点の壊滅に追われているか、そもそも本日は実行日ではないため遭遇する恐れはない。そのように前向きな気概で僕は一個一個の部屋に侵入しては、口笛を吹きながら家宅捜索を行う。
税金を滞納していると思わしき犯罪者集団の物品は差し押さえです。
値打ちの分からない壺に謎の骨董品や誰が画家なのか知らない絵画などがある。
パクり……見たことのある画風の叫んでいる人の絵画を見て贋作確定だなと壁から取り外してみると、壁と絵画の隙間に挟み込まれていたのか一通の紙が落ちる。
僕はそれに気にも止めず机の引き出しや至る所を漁るが、僕のお目当てである金貨は発見出来ない。
しばらく漁っていると念願の金庫を発見。当然の如く破壊すると、中には僅かな金貨が残されていた。
人身売買の儲けが大量だって事前調査では耳にしていたはずなのだが。
まさかもう別拠点に移送されたのか、そもそも資金は豪邸には納められていなかったのだろうか。
「チッ……しけてやがんな」
こうなれば一人くらい捕縛しておいて宝の在り方を白状させるべきだったなと後悔。
少年等は未だにお眠であるし当分起きそうにはない。
現状謎の壺と贋作絵画しか持ち帰れそうにないなとウンザリする僕は、ふと先日の出来事を思い出す。
隠し部屋か地下にあるのが定番だったなと。
そうして2階から1階に降りて、凄惨な現場を通り過ぎ1階を散策することにする。
相変わらず目新しい物はないので、屋敷は外れで別の拠点が正解だったのかなと、一応贋作絵画を脇に抱えて撤収しようとすると、僕の耳に少年達とは違う静かな呼吸音が聞こえることに気が付く。
女性の……それに幼い少女のような吐息に、拘束された奴隷でもいるのかなと僕は監禁場所へと向かう。
屋敷の奥に施錠された扉があり、鍵の在り方など知らないが強引に突破出来るので僕は扉を打ち破る。
石畳の廊下を進んでいくと鼻を摘むほどの悪臭が漂っており、僕は思わず吐き気を催す。
そこにあるのは牢屋。
牢屋に目を凝らすと既に仏様になった者がいる。
そういえば奴隷部門の幹部の屋敷だったなと察する。
というか幹部は誰だったのだろう。あの宰相より圧倒的に格下であるカマーが幹部なわけないし。出張中か別の拠点に滞在中だったのかな。
そして、こんな状態で生存者なんているわけもないよなと、臭いもキツイので撤収しようとするが、一応確認しておくべきだなと聴覚を鋭敏にする。
やはり虫の息のような呼吸音が伝わる。
つまり生存者がいるということ。
流石に見過ごすわけにはイカンなと臭いを我慢して音の方向へ辿って行くと、やはりと言うべきか牢屋の中には手枷足枷首輪を付けられた完全装備の状態の少女がいた。
さて、どうすべきかと思案する。
あの少年兵達は放置しても問題ないだろうが、瀕死状態の彼女を救ってどうすんだという話になる。捨て犬を拾うことは訳が違う。
国王や王女に拾いましたと伝えれば、それは僕が外出していたことが発覚してしまう。僕の部屋に連れ込んで介護しても、僕の部屋には二人の幼馴染とノックもしないで部屋に乱入する者がいるのでバレるのは時間の問題だろう。
ウーン……どうすべきか迷うねぇと思案していると、彼女は掠れた声で僕に告げる。
「……貴方は、誰……?」
そう問われ先日やらかした経緯があるため今度は適当にはぐらかしておこう。
「悪い道化師さ」
「……お願い」
「ん?」
「……私を、殺して……」
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