第19話 優しい者達
面談をして掴んだことがあるが、皆は概ね異世界召喚に関して肯定的であった。
一部異世界召喚を人生の転機だと万歳する者もいたが、帰りたいけれど帰る術がないなら仕方ない。現状を受け入れるしかない、不満を漏らしても何も起きない。皆がいるから平気だと言ったように、皆は現実を直視出来ていた。
当初は不満を溢していた彼等も情勢を鑑みれば受け入れる他なかったのだろう。
出来ることがあるなら何かする。ただ、まだ見ぬ敵や魔王軍と闘うのは怖い。そんな風な先のことを危惧する者もいた。
凄い良い子達である。
これなら追放展開も勃発するわけがない。
そうして異世界相談を終えた僕達担当班は能力値発表班と合流する。
大体の生徒は既に撤収していたが、一部の生徒は残って談笑している。
顔触れは、生徒会三人衆と伏見先生、黄泉、凛ちゃん、轟くん、八雲さん、黒猫さん、鳳凰院さんといった、よく見る面子である。
「
「んでぇ〜結果はどうだったのさ? ほれほれ」
うわ、出た……。
僕の顔を見た八雲さんと黒猫さんは、薄笑いしながら僕の元に寄る。
案の定その件かよ。鈴華が全面撤回したでしょうが。
「してないって。真も証人だから聞いてみたら? それより君達は戻らないの?」
「んにゃ、
「生徒会の能力値発表するっていうんで傍聴させてもらおうかなぁと。あ、ちゃんとミカちゃんや真くんの許可は取ったよ〜?」
この二人は噂好きの僕を貶めることに長けた者であるが、真面目な展開は流石に自重するので心配はしていない。
今いる顔触れは口が硬い。というか口が軽い山田田中と失言しそうな芦屋さん以外は問題ないだろうけれども。
「それよか、黄泉ちゃんに何か言うことあるんじゃないの〜?」
ファッ!? よ、黄泉……!?
ミカを拉致した際、僕は黄泉に呼び止められたわけだが、急ぎの用事であったため適当な態度を返してしまった。
もう重罪だ。
腹を切ってお詫びするしかない。
「不躾な態度の詫びとして不肖この比良坂小夜。腹を切ってお詫びします……。介錯は不要です」
「これくらい何も気にしてないから! ねっ?」
「そう申されましても二重の罪が私にはありまして……流石に罪を償わないと申し訳が立たないと言いますか……」
あ、腹を切り裂いた程度では僕は死なないんだった。
となれば斬首以外ないなと分析。
「黄泉、鉈とか持ってない?」
「持ってないし、だから自害しなくていいから!」
黄泉に切腹と斬首は無用だと説得されたことで。
どうやら僕と鈴華は勿論、真とミカも発表はしていないらしい。
鳳凰院さんと凛ちゃんは作業の代替わりで残っているらしく、八雲さんと黒猫さんに轟くんは野次馬である。
「まあ俺達のことは道端の石ころかなんだと思って気にしないで。平気平気、平気だから」
「うん、僕達大人しくしてるから」
ちなみに黄泉は単に僕がいるから残っているそう。
うーん、可愛いね!
野次馬の轟くんと雑談していると鈴華より招集がかかる。
僕達の記録を開始するようだ。
「さて、誰から行くべきか。ここは私が──」
「いや鈴華、ここは僕からいこう」
召喚時の水晶玉測定のように期待を寄せられ最後を飾る中、結局は白色を引き当て皆を白けさせる一幕があった。
終盤に僕の糞雑魚を晒し哀れみを向けられる可能性があるため、序盤に事を済まして致命傷を避けようという判断である。
僕の事情を察した察しの良い生徒会三人衆は賛同する。
能力値画面は贋作魔道具と契約したことにより、自分の眼下に表示されて確認やら操作が出来るらしい。
画面は他者と共有出来ないため自己申告となり改竄は容易である。まあ正直者の僕は嘘偽りなく事実を載せるが。
とりあえず表示しないことには始まらないなと「強さを見たい」と念じると視界に表示される。
お約束である「ステータスオープン!」を唱える必要はないらしい。
さて、僕の能力値であるが──。
【名前:比良坂小夜】
【性別:男】
【年齢:17】
【種族:強化人間】
【職業:愚者】
【状態:通常】
名前や職業も記してくれるとは便利な機能である。
というか僕は一応特異所属の人間なのに愚か者と罵倒されている……。
せめて学生にしてくれよと不満はありつつも、能力値の詳細に移る。
【名前:比良坂小夜】
【LV:7】
【HP:7/7】
【MP:7/7】
【攻撃力:3】
【防御力:3】
【魔力:3】
【魔抵抗力:3】
【素早さ:3】
【運の良さ:17】
【技能:『愚者』】
あ、あれっ、レベルが7になっている……な、何で?
もしや宰相との戦闘によりLVUPしたのかなと分析。
僕はこの画面に表示される数値は紛い物と見做しているが、それにしてもだ。
能力値の上がり……しょぼくない……?
LV1の時点から攻撃力が2しか上がっていないことが分かる。つまりLVが3上がらないと1しか上がらないという成長が遅過ぎるキャラである。
序盤は成長せずに後半見違えるように大成長する大器晩成キャラなのだろう僕は。
とりあえず簡易的に能力を書き記すかと筆を進める僕であったが、ある事に気が付いた僕は筆を止める。
LV7に上がっていることを勘繰られるな──と。
大方人間を殺すか敵を始末することで経験値を培いLVUPする機能であるのなら、先日皆同様に熟睡していたはずの小夜くんのLVが何で上がっているのかという話になる。
おっと、イカンイカン……またしてもボロを出すところであった。
僕は7と書き始めた部分を修正し、LV1時点の能力値を思い出しながら書き記す。
確かこんなもんだったろと全能力値を5にした僕は、その紙を皆にお披露目する。
「さて諸君、刮目したまえ」
僕の最弱無能な能力をご覧になられる皆は絶句。
やれやれ、危ないところだったね。
能力値の強さに皆が和気藹々する中、締めを括る僕が発表することで、和やかな雰囲気を氷漬けにしてしまうところだった。
うーん、この何を言えばいいのか難儀する感じ。皆の優しさと配慮が心に染みる。
「ご覧の通り……僕は子犬相手に苦戦する程に弱体化してしまった。恐らく子犬のじゃれあいで命を落とす危険すらある」
「えっと、盛ってない……?」
「失敬だなミカ。弱く盛る人間などいるか?」
「ご、ごめん」
僕はこの能力を一切合切微塵にも信頼していないため、数値は重要視していない。
でなければ僕如き最弱無能が宰相を討ち倒せるはずがないからだ。
僕が宰相を屈服出来るなら彼が僕以下の能力値……なんてことは決して有り得ない。何故なら彼は僕の最弱に驚愕していたし、そもそもB級の御崎さんが彼を成敗出来たはずだ。
「というわけで皆に僕の能力値に関して感想を述べてもらいます。ではまず八雲さんから、どうぞ」
「エェッ!? な、何その無茶振り……しんどいよぉ」
散々僕を弄りまくった罰だ。反省しろ。
「えっと、凄いなぁ……と思います?」
「ありがとうございます。では黒猫さん」
「苦労している
「ありがとうございます。では轟くん」
「まあなんつーかさ、気にしない方がいいよ。俺達は小夜の人となりを知っているわけじゃん? 数値で対応を改める糞野郎じゃないからな。だからこれまで通りでいいんだよ。何も気にするなって!」
凄い優しい……轟くん神か……?
そんな真剣な答えを求めていなかった僕は心が揺さぶられ涙を溢しそうになる。
な、泣きそう……もうこの無茶振り止めようかな。
「あ、ありがとうございます……。で、では凛ちゃんどうぞ」
「何とも言い難い結果となっていますが、轟さんの言う通り能力に縛られる必要はないかと。数値以外にも小夜ちゃんを評価出来ることは沢山ありますので」
「あ、ありがとうございます。では鳳凰院さん」
「心配は無用ですよ小夜くん。私達……私達以外でも貴方が白色だからと態度を変える者はおりません。ですから、これまで通り普段通り、何も心配しなくでいいんです。何かあったら私が貴方の助けになります」
「…………」
もう止めよ。
このまま次の人達の感想を聞いたら僕は大号泣する羽目になる。
仕返しのつもりが猛反撃を喰らうとは思わなんだ。
「えー……皆様ありがとうございました。それでは次の方、能力値どうぞ」
「あっれぇ? 他にも
「これは全員が感想を述べる
八雲と黒猫……こ、コイツら僕を謀ったな……!?
ちなみに梅ちゃん先生とは伏見先生の
「そ、そっすね。で、では伏見先生、お願いします」
「えぇ、先生はこちらの事情に関して疎いので数値の強弱に関してとやかく言える資格はないと思いますので返答は控えますが……。貴方の周囲には恵まれた良き友人がいます。ですが彼等でも解決出来ない、どうしても相談しにくい、そんな場合は是非とも先生を頼ってください」
「グッ、ありがとうございます……。ここでミカ、何か一言どうぞ」
このままでは涙腺の弱い小夜くんは号泣してしまう。
一旦飴と鞭の鞭のミカを挟み込んで僕を罵倒してもらおう。そうすれば僕の涙も引いてくるはず。
頼むぞミカ! 普段の底力を発揮してくれ!
「辛かったよね。一人で抱えて一人で悩んで一人で苦しんで、きっと辛かったと思う」
ん……?
「だからね、私は小夜が全てを打ち明けてくれて嬉しかった。それと、私は小夜のことを何も知らないんだって自覚した」
んん…………?
「もう知らないままでいるのは嫌。小夜のことをもっと知りたい」
もう勘弁してください。
鞭を叩き込んでもらうはずが、ミカから飛び出たのは予想外の飴。
普段僕に辛辣な癖に何でここぞとばかりに優しくするのか。
君は普段通りの君でいいんだよ。僕に優しくする必要なんてないんだ。
「だからね、これからも小夜の側にずっといたい」
「…………」
「…………」
僕とミカの間に初めて顔を合わせるお見合い相手のような雰囲気が流れ出した。
ねぇ、どうするのこの空気。もう八雲さんと黒猫さんの嬉々とした表情から、今後どうなるか想像が付くんだよね。
「告白は本当だったんだねぇ……いやはや驚いたよ」
「大勢の前で堂々と告白とは、ミカちゃんの勇気と豪胆さには感服するばかりにゃ」
「あ、いや違──! 本当に違うから! 私と小夜にそういうのは本当にないから」
「まま、そう焦んないでよ。俺達は全て分かっているから」
「求婚なんて初めて見ましたよ。恐れ入りましたね」
「何と言うか、えぇと……何と言えばいいのか……」
「青春ですね……先生は羨ましいですよ」
「本当勘違いしないで! 今のは言葉の綾! そう言う恋愛的な要素は一切入ってないから! 小夜からも何もないって言って!」
「落ち着かないか皆の衆!」
混乱する場を一喝するのは鈴華。皆の衆って何。
鈴華の一声に場は鎮静を取り戻す。
「ええとだな、俺達は今後の進行を諸々確認していただけで、小夜とミカがどうこうとかないからな?」
「うむ、真くんの言う通り。私達にあるのは友情一点のみ! 性別を越えた絆のみだ! ははは!」
「というか仮にミカが僕を好きだったとしても僕の方がお断りだから、そんな関係に至るはずがないじゃないか。やだなぁ皆」
「殺す……! この自意識過剰男を殺す……!」
「落ち着けミカ! ステイステイ!」
あれっ、余命より先に死んじゃう感じ?
そうして鈴華と真が怒り狂うミカを抑止したことで。
もう感想はいいよねと終了を提案するが、折角だし何か言いたいと鈴華が意欲を示したことで継続の流れとなる。
「では、真くんどうぞ」
「もう俺の言いたいことは皆が言い尽くしたからな。ただまぁ俺は小夜の親友として俺の出来ることをやる。お前は何も心配するな」
「ありがとう……真。では鈴華さんどうぞ」
「小夜くん然り皆も困ったことがあれば私を……私でなくとも他の者を頼って欲しい。私達は決して一人ではない。周りには良き仲間がいるということだけを忘れないで欲しい」
生徒会長らしい発言を頂きました。
締めを括るに相応……あ、いや黄泉がいる。
駄目だ、黄泉の感想だけは聞きたくない。
もう彼女も僕を全肯定甘やかしする発言を飛ばすに違いないからである。
雰囲気に任せて次の発表に移そうと思ったが、八雲さんと黒猫さんが黄泉を後押しするものだから叶いそうにない。
「僕は小夜のことが好きだよ」
「僕も黄泉が好きだよ(幼馴染的な意味で)」
「じゃあ両思いだね」
「そうだね」
「「…………」」
場は再び混乱した。
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