第13話 白色無能の小夜くん
最終的に解放された僕は自室に籠り頭を抱えていた。
状況を整理しよう。
僕は通算4回も異世界を放浪している旅人である。
1回目は平凡な現代世界にて鉈で斬り裂かれ絶命。2回目は黒幕活動をしている最中に愚者の魔女と自爆。3回目は社畜と化して学生生活を謳歌。4回目は2年3組の面子と共に異世界召喚。
いい加減鬱陶しい4回目に辟易としていた僕は、神代さんの助言により黒幕への熱意を再燃させたわけだけれども。
そうして宝物庫を漁るために暗躍していたら宰相と御崎さんの激闘に割り込んで、うっかり王国の窮地を救うという大盤振る舞いをしてしまった。
これまではいい。
次に僕の失態についてだ。
黒幕時代と現世界を別だと誤認していた僕は、大失態を犯してしまった。
それはレイ・アタナシアを名乗ったこと。
レイ・アタナシアという名前は千年王国とは別に、勇者の一味でありながら実は悪の組織の頭でした〜ムーブをするために名乗っていた名前だ。
黒幕としての名前はレイだけ。ただのレイなのだ。
それにアタナシアが加わった僕の勇者活動は勿論幹部達は把握している。
名乗ったことの何がまずいのか。
ラナイア視点からすれば愚者の魔女と共に自爆して爆死だか行方不明になった盟主。
敬愛する組織の頭が亡くなり悲嘆に暮れる中、悲しみを乗り越えようと立ち直り、魔女を庇護し教団を壊滅させると使命を果たそうとする。
ある日、生還していた盟主と感動の再会をすることになるが、その姿は変わり果てた姿であった……。
数年振りに死んだと思っていた上司と再会したら謎の道化師になっていた件。
使命に背いて自分の欲求を優先する上司を見れば部下はどう思うか。
そりゃ失望するに決まっている。
私達はお前の抜けた穴を埋めるのに必死で頑張って、それでも忠実に仕事に励んでいるというのに、何をお前は呑気に犯罪者紛いのことをしているんだと。
そりゃ怒る決まっている。
上司に対する尊敬の念は、やがて怒りへと変貌し、僕に対する復讐心へ染まるだろう。
そうなればどうなるか。
生きていることが苦になるくらいの拷問を与えて、最終的には四肢切断をして殺そうぜとなる。
魔女を保護するために敵対勢力は容赦なく始末するし、部外者の犠牲は致し方ないものと納得する異常者なのだ。
そんな人の心のない集団に捕縛されればどうなるか想像も容易い。
僕は「もう殺してください〜!」と無様に懇願し糞尿や涎に涙を垂れ流すだけの木偶の坊となるに違いない。
死の恐怖がなく多少の拷問は目を瞑る僕ではあるが、アイツらの仕打ちを想像するだけで怖気付く。
……と、失態を述べたが、これの対策は容易だ。
──今後、レイ・アタナシアを名乗らねばいい。
僕は道化師レイ・アタナシアだった。だが今の僕は? そう、白色無能糞雑魚の比良坂小夜くんなのである。
仮面を外すのを断固拒絶してため素顔は晒しておらず、アイツらには僕とレイの区別が付かないだろう。
そもそも、黒幕時代の僕は白髪赤目という厨二要素盛り沢山の容姿端麗な面構えをしていた。今は転生して顔が変わっているのだ。見分けが付くわけがないだろう。転生してもイケメンだけどね(笑)。
ということは何か。
今後僕が黒幕活動をする時は、レイを名乗らず道化師の面を封印すればいいだけの話。
単純な解決策なのである。
もう楽勝ですよ。
それにアイツらは多忙なのだ。
いつまでもリュミシオン王国に居座ることもないだろう。
熱りが冷めたら道化師を振る舞えばいい。
そもそも道化師の面を付けなければいいんじゃね? となるが、この面はお気に入りなんですよね……。召喚時に持ち込んだ遺品でもあるし。
万が一、有り得ないとは思うが、比良坂小夜がレイの転生者だと判明した場合どうする……?
どうしよう……。
そうだね、うん……。
記憶喪失ということにしておこう!
愚者の魔女との戦闘で負傷していた僕は、理想郷かどこかの組織に回収されて記憶操作をされた的な感じにしておけばいいか。
まぁ僕の正体がバレるとは思わないし、その時に考えればいいか。
さて、面倒事も解決したし寝るとするかな……。
何か色々と沢山の面倒事もある気がするけれど気のせいだろう。
そうして一仕事終えて疲労困憊の僕は、ベッドに飛び込むと直ぐに夢の世界に──。
「もう寝ちゃうんすか? 夜はまだまだこれからっすよ?」
僕のベッドを占拠している不届者を投げ飛ばし、僕は再度夢の世界へと──。
「先輩〜! 私めっちゃ頑張ったじゃないっすか! 少しくらい褒めてくれてもいいじゃないっすか!」
「…………」
「先輩先輩先輩〜! ほら、私の頭を撫でて私を存分に甘やかしてくださいっす!」
僕は身体を起き上がらせると尸織の肩に手を置く。
そして、その手を首筋へ這わせていき、やがて頰へと辿り着かせる。
僕の行動に尸織は目を瞑り、そしてその手は頭上へと到達した。
「あれ先輩、手の位置おかしくないすか? キスされる流れだと思ったんすけど……」
「そういえばお前には散々迷惑をかけられたな」
「あ゙い゙だだだだだ!!! 暴力反対っす! 私が何をしたっていうんすか!」
僕は尸織の脳天に手刀を打ち、そして正座させる。
お説教の開始である。
「ふざけるなよお前。同居の件を周知の事実にさせ戸籍謄本まで曝け出し更には疑惑写真を捏造した上にSNSに全世界発信しミカに写真を密告し僕の部屋でよからぬことを行いやがって……。お前のおかげで僕の評判はダダ下がりで僕が暗い過去の持ち主の謎多き人物と勘違いされたじゃないか……。それだけじゃない、御崎さんと宰相が激戦を繰り広げているならお前が馳せ参じろよと」
「罪状多すぎないっすか?」
「それだけの罪を重ねてきたのは誰だよ」
「やれやれ罪な女の子っすね尸織ちゃんは……あ゙い゙だだだだだ!!! パワハラ、パワハラっすよ先輩!!!」
「お前から逆パワハラを受けているんだよなぁ」
折檻が完了したところで仕切り直す。
「お前が陰の暗躍者として活動していた事実はさておき。本騒動には疑問点が幾つか残る」
「はぁ」
「御崎さんも何者であるかという点だ」
皆が爆睡する中、宰相の陰謀を阻止しようと励んでいた御崎さんは何者なのか。それにあの剣捌き。僕のデータには無かったぞ。
普段の御崎さんは、友人は多いというわけではなく少ないというわけでもなく、平穏に読書に励む文学少女的な側面があった。
実は同業者……僕達同様に裏の世界に通ずる者の線が挙げられる。
ならば、宰相が黒幕と確信に至れた速さは何か。
「よく先輩が
「僕の友人をアイツ呼ばわりするな。一応先輩なんだから天音先輩と呼べよ」
「大体宰相って王位簒奪とかする役割多くて怪しいじゃないっすか。それで疑ったんじゃないっすか」
そ、それだけで……?
んなわけあるか。
「それで徹底的にストーカーして証拠でも見つけたんじゃないっすかね〜」
それで長年の大計画が阻止されるとか浮かばれないよ。
「御崎さんも睡眠耐性があったと結論付けるとしてだな。次にお前の写真をミカに密告した者についてだ」
あの悍ましい写真をミカに密告したのは尸織ではなかった。
写真は一応顔は隠されていたし、言われてみれば比良坂小夜と紬尸織かもねといったような写真である。
その写真を僕達だと確信しミカに送り届けてしまった裏切り者は誰なのか。そのような疑問が残される。
「そんな超どうでもいいことどうでもよくないっすか? 私達の関係は事実なんですし」
「事実じゃねぇよ。そんな恐ろしいことを吐くな」
まぁ確かに些細なことだと思えてきた。
あの呪いの画像をミカが保存していた謎も残るが……まぁこの謎もいいだろう。
「次にお前」
「はぁ」
「お前が殺したソメイユちゃん。彼女は魔女だな」
広範囲に状態異常を付与する者など一端の魔法使いには不可能だ。膨大な魔力を持つ魔女以外他ならない。となると、宰相の手駒であった彼女は魔女であるはず。
「それがどうしたんすか?」
「千年王国は魔女を救うためにリュミシオンに潜伏していた。だから彼女もその一人だったはずだ」
「でも、宰相の協力者だったじゃないっすか?」
「已むを得ずという線もある」
僕にはソメイユが協力者のようには見えず、魔力供給のように用意された被害者にしか見えない。
彼女も理想郷の生贄に含まれていたのなら、尸織が殺してしまったのは誤りだったのではないかと常々感じてしまうわけだ。
「先輩、珍しく同情してます?」
「そうかな、そうかもしれないね」
僕が以前彼女達の統率者だったからだろうか。
そうなると僕の人間性は転生しても尚も変わっていないんだなと実感させられる。
「何にしても子どもが犠牲になるなんて御免だよ」
「先輩先輩、私達も子どもっすよ」
「そうだね、そうだったね」
僕は3回分の精神年齢を含めるといい歳にはなるが、肉体年齢こそが重視されるべきだと考えている。
まぁ僕の実年齢はどうでもいい。
「いつの世も若者が犠牲になるわけだ」
戦争において若者が犠牲になる本質は変わっていない。
祖国のため名誉のためなどと欺かれて戦場に駆り出されるわけだ。
今回の異世界召喚もそうだ。
伏見先生の危惧している状況と酷似している。
結局、国王は何と理由を付けて彼等を魔王軍と戦わせるのだろう。
「別に尸織がソメイユを殺したことを咎めるつもりはない。僕が国王に言った通り宰相が悪いんだから」
「先輩……」
「ただ、こうして若い命が犠牲になる構図がここに来ても変わっていないのは、やはり不愉快に感じるわけだよ」
だから僕は──、
悪の集団に天誅を与えつつ黒幕活動をすることにしよう!
綺麗事を吐いているけれども結局は僕の黒幕ムーブが優先事項なんだよね。人間の屑と申されてもこれだけは譲れないんですよ。
となると僕は何の目的で黒幕になるんだ……?
そういえば黒幕になった経緯やらが以前からも曖昧だった。
単に黒幕ムーブをしたいからというだけで、黒幕が黒幕に堕ちる切っ掛けなんて練ったことがなかったな。
「あの耄碌共を殺してから召喚されたかったっす」
僕達の生まれた『生命の泉機関』と僕達が所属する治安維持組織『内務省特別異能対策局』を支配する
耄碌とは、その天社を掌握する四大名家のことを指す。
ともあれ僕達は、この四家のご指示で奴隷を味わってきたようなものなのである。
「それには僕も同感……ん? 鳳凰院……?」
今更過ぎるけれど、鳳凰院さん……僕達の仇討ちの関係者だったりする……?
鳳凰院なんて同姓いるわけもないし……。
「おや奇遇っすね! 先輩のお友達に鳳凰院がいるじゃないっすか!」
「マジ止めろよ尸織。本当に親族か分からないし、あの子はいい子なんだぞ」
「いやっすね先輩〜! 私がそんな先輩が考えているようなことをするわけないじゃないっすか! 先輩は私が一族郎党皆殺しにするような復讐鬼に見えます?」
「見えるから忠告してるんだけど」
何度もコイツに裏切られた経験から、鳳凰院さんに害をなす危険がないとは断言出来ない。
他の連中はどうでもいいけれど身内の者が始末されるのは後味が悪いし。
「まぁ最も、あんな世間知らずのお嬢様よりも殺したい人間なんて山程いるんで大丈夫っす!」
「それの何が大丈夫なのか僕に教えてくれないかな?」
物騒な発言を抜かす尸織はさておき。
天社関係の件は、召喚されたおかげで関わることもないんだろうけれどね。
今はそう、僕が黒幕になる設定を練りながら眠ることにしよう。
「というわけで寝る。お前も部屋に戻って明日に備えろよ。明日何するのか分からないけれども。んじゃお休み」
そうして僕はベッドで横になり妄想の世界へと旅立つ。
そんな僕の隣で柔らかいベッドを堪能する者が一人。
「いいから戻れよ」
「ここが私の部屋っすよ? それに召喚前は一緒の家で生活し、偶には同衾していた仲じゃないっすか。何を今更止める必要があるというんすか? 大体今回大活躍した尸織ちゃんにご褒美くらいあってもいいと思うっす!」
尸織の戯言に面倒臭さを感じた僕は諦めることにし、改めて妄想の世界に浸ることにした。
「そういえば先輩。あの女の他にも先輩のクラスで起きていた人が二人ほどいたっぽいっすよ」
「何それ知らない」
え、じゃあ僕達の他にも二人暗躍者はいたってこと……?
僕の探知に引っ掛からなかった強者が二人も……?
誰なの怖い!
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