第7話 裏切りへの裁判

 「失望したよ小夜くん」


 「ですから誤解だと」


 またもや奴により冤罪を吹っ掛けられた僕は、鈴華の部屋に連れ込まれると三日月様の面前で正座させられていた。

 

 「僕は那岐ちゃんと世間話をしていてですね。部屋には居なかったという証拠もあります」


 「神代ォ? 貴様今度は神代か」


 何故かミカの逆鱗に触れたらしい。

 もうどうすればいいのか分からないよ。


 「私は心配して居ても立っても居られなかったというのにお前は他の女に現を抜かして……。裏切られたようで悲しいよ小夜くん」


 いやこれに関しては裏切った自覚はないんだけど。

 だけれども、こういう裏切りの例もあるんだね。勉強になるなぁ。


 「重ねて申し上げますが尸織や那岐ちゃんにしても何もないんですよ」


 「お前が何もないと思い込んでいても仮にあっちがその気なら有罪なんだよ小夜くん」


 「何それ理不尽過ぎる」


 それより異世界召喚されて僕の恋愛事情の詰問とか、やはりミカの優先順位はおかしい。

 

 「まぁ僕の無実が証明されたというわけで。ところで皆は何やっているの?」


 「証明されてねぇわ」


 「あぁ、それなのだが……」


 鈴華は事の真相を語り出す。

 僕がF級になったことを落ち込んでいると勘違いされている彼等は、一人にさせるのは心配というミカのお言葉により僕を部屋から連れ出そうという流れになった。

 だが、僕の部屋から出てきたのは僕ではなく半裸の尸織。「今忙しいんで後にしてくださいっす」と狂気の発言をした尸織に扉を閉められ、何だか扉の向こう側から奴の嬌声が響いたという。

 茫然自失となったミカを引き連れて一度鈴華の部屋に戻り、あれは勘違いだったのではという鈴華と真の後押しもあり、再度僕の部屋に伺おうとしたところを山田と田中に絡まれている僕に遭遇。


 僕の部屋で一人慰めに耽っていたらしいけれど……おまけに絶賛行為中(疑惑)も立てやがって……。

 失禁(疑惑)と性行為(疑惑)なんて何の嫌がらせだよ。

 

 「いや本当に那岐ちゃんと世間話していたから何もないんだけれど。証人として呼ぼうか?」


 猫被りが基本姿勢の僕だけれど今回は本当に嘘偽りないんだよね。


 「いや問題ない。小夜くんがそのような行為をするとは心底信じられないからな」


 僕への信頼度が高い鈴華は、僕の証言を信じてくれるようだった。


 「で、結局紬さんと神代さんとは何もないのか? その、付き合っているというわけではないのか?」


 「ん?」


 鈴華もかよ。

 山田田中にしても鈴華も僕の恋人有無が気になるの?

 

 「私も小夜ちゃんの関係性が気になりますね。実際どうなのですか? 鳳凰院さんとはどうなのですか? それか幼馴染の月読つくよみさんですか?」


 これまで沈黙を貫いていた凛ちゃんは、眼鏡の位置を調整しながら僕に訊ねた。

 いや、何で鳳凰院さんと黄泉よみの名前も出るんだよ。

 ほら、ミカの機嫌が更に不機嫌になられてしまう。


 「皆様、僕の恋人の有無よりもっと議論すべき議題があると思うのですが。ねぇ真?」


 「お、俺も気になるな?」


 同調圧力に屈した真は僕を裏切る。

 あれ、僕の味方いない感じ?

 周囲は全員敵に囲まれて四面楚歌。

 こういう場面は僕を追放する時にしてくれないかなぁ。


 「まぁいいや。何でも聞いてくれたまえよ」


 「結局は例の後輩とは何もないんだな?」


 「何度も仰りますが僕と尸織はですねぇ何もないんですよ」

 

 「──お前は私達に嘘を吐いたな?」


 ミカの殺気の募った恫喝に僕は震える。

 い、今のどこに嘘があるんですか。


 「元の世界では同棲していたらしいじゃないか。はァ〜ン? 恋人じゃない赤の他人同士が同棲なんてするのかなぁ?」


 「ヒェッ……」


 何故僕と尸織が同居していた秘密を把握しているんだコイツは……?

 僕と尸織は組織により用意された賃貸にて同居生活をしていた。

 ただ同居していたのは事実であるが別に僕と尸織は異性の関係になるわけがないので一線を越えることはない。

 このままではまたもや死ぬなと察知した僕は必死に弁明する。


 「奴はですね、エット……親戚の子でございまして。遠方から引っ越すに当たって慣れない一人暮らしは大変だろうという両親の慈愛から、信頼のある僕に預けようということで同居生活に至るわけでありまして……」


 「親戚じゃなくて赤の他人だと自慢げに惚気ていたなぁ? お前と、後輩の戸籍謄本を見せびらかしながら!」


 超弩級の狂人に前持って退路を防がれていたことにより僕の死は徐々に近付く。

 こんな障害乗り越えられないよ。

 僕と尸織が赤の他人なのは事実だけれど、これまた戸籍謄本も偽造されたものだから本物ではないんだよね。


 「親戚疑惑もあったが親戚ではなかったのだな」

 

 「親戚同士でもあの距離感は凄いと思うが」


 「まぁ4親等なら結婚が出来ますので。まぁいとこですらないようですが」


 「お前はまた私達に嘘を吐いたな?」


 「アッ……いや、その……仮に同居していても、そういう関係になるとは限らないじゃないですか(しどろもどろ)」


 「これを見てみろ」


 そうしてミカから携帯の画面を見せられると、そこに写っていたのは半裸で熟睡する僕と自撮りしている尸織の自撮り写真。

 エッ……何これ(絶望)。

 見るからに事後ですと証明しているようなもの。

 知らないよこんな写真。

 僕は黒幕時代からにしても生涯童貞だというのにおかしいよ。


 「証拠があるのに君はまだ恋人ではありませんと言い続けられるんだね?」


 「イヤァ……身に覚えが全く……! というか、その写真どこで手に入れたんですか」


 「SNSで投稿されていたと匿名希望の送り主から送られてきたぞ」


 余計な事ばかりしやがって糞女尸織ッ……!

 事後(疑惑)写真を全世界公開とか頭逝かれているんじゃないの? ネットリテラシーなさすぎでしょ。

 暗躍するのは僕の役目だというのに、誰だよコイツに密告した裏切り者は……!

 

 「と、というかミカさん。何でこんな写真保存してるんすか」


 「今それとこれは関係ないと思うが?」


 「すいません」


 不思議なことに普段なら僕を全肯定してくれるはずの皆は沈黙していらっしゃる。

 僕がF級を引き当てた時、庇ってくれた優しい人達はどこへ行ってしまったのだろう。


 「ええとですね、その写真も寝ているだけの僕と勝手に自撮りしているだけであって、そういう事があったとは限らないじゃないですか」


 「これを見ろ」


 写真の一部分を拡大してみせたミカは、僕にその箇所を見せ付ける。

 ベッドの脇に使用済みの避妊具がわざとらしく添えられており、如何にもやり終えましたよと強調しているかのよう。


 「これが小夜くんのか……」


 「す、凄いな」


 「これは黒ですね。白いですが」


 生々しい写真に感想を述べる御三方。


 「明確に白い残留物が写されておいて、それでも貴様は虚偽申告を続けるのか?」


 策略家の二人は何を理由に僕を貶めたいの?

 何なの僕のことが嫌いなの?


 「これまで君は私に何回嘘を吐いたのかな?」

 

 「誠実な僕が嘘を? 心当たりは──すいません」


 「1つ目は例の後輩と神代さんと何もないと言ったこと。2つ目は親戚だと言ったこと。3つ目は同居しても何もないと言ったこと。4つ目は写真を見覚えがないと抜かしたこと。5つ目は添い寝とか言い訳したこと。6つ目は私を裏切ったこと。7つ目は私達に嘘を吐き続けたこと。もう7つの大罪だよ……小夜くんはどれだけ重罪を積めば気が済むの?」


 親戚と同居は誤魔化そうとした事実は認めよう。

 だが、本当にそれ以外は心当たりがないのだ。

 僕は本件に関しては被害者に過ぎないのだ。

 というか、6つ目はミカの私怨じゃないか。


 「まぁ落ち着きなよ。誠実で品行方正な模範性の僕がこんなことをするように思える?」


 「自分で言うんだなそれ」


 僕は自分自身を客観視出来るのだ。

 まぁ一理あるかもしれないなと真は頷く。

 

 「普段の奴の言動を遡ってみなよ。アイツは常人の域を超えた狂人。狂人なら偽造写真くらい作りそうだと思わないか? だからそう、これは僕と皆の絆に亀裂を生ませようとする尸織の陰謀……。皆、奴の術中にハマっちゃイカンよ」


 「思えば廊下ですれ違った小夜くんに飛び付いたかと思いきや、勢いそのまま押し倒していたな」


 「生徒会室に乱入したと思いきや、首輪を付けて拉致していったこともあった」


 「授業中に無理矢理連れ出したかと思いきや、そのまま揃って早退されていたこともありましたね」


 尸織の言動に納得される御三方。

 まぁ最後のは急遽お仕事が発生したという理由があったんだけれど。

 ともあれだ。


 「アイツの言動には監督者としてよぉ〜く目を行き届かせて、これまでの愚行は厳重注意しておきますので、本件は無罪放免ということで宜しいっすか」


 これにて一件落着!

 問題児の尸織にはお説教をしないといけないね!

 僕を陥れようとする小根の腐った性格を改めさせないと。


 「親戚や写真が事実無根だったとしても奴と交際してない証明にはならないと思うけれど?」


 何なんだ、この尋常じゃないしつこさは……!

 もう皆も僕の話題には興味ないよ。話を切り替えて新しい話題へ移ることも大事なんだよ。


 「はぁ……しつこいな。大分突っ掛かるけれど僕のこと好きなの?」


 僕の一言に場は静寂と化す。

 失言だったと認識した時既に遅く。

 んな馬鹿な思い鈴華と真を凝視するとばつの悪そうな表情をしていた。

 ミカと顔を見合わせると彼女は頬を紅潮させ震え出す。


 「ちちち、違うわアホ──ッ!」


 そうして僕は激昂したミカに拳を振り翳され、3度目の死を覚悟した。

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